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突然の死を迎えたソシャゲ『妖怪惑星クラリス』運営の謎に迫る(前編)。プランナー2人が語るクラリスのお仕事

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皆さんは『妖怪惑星クラリス』を覚えているだろうか。
奇抜すぎるデザインが話題になり、次いでTwitter投票で何でも決める方針がネット民のおもちゃになってしまい、登場キャラに“チンポンデリング”などヤバい名前を付けられてしまったあのゲームである。

Twitterの日本語は不自由で「果たして日本のゲームなのか」と疑われたが、ゲームを支えていたのは多くの日本人アルバイターだったことが判明し、ゲームキャストはゲームを支えていたうち3人の話を聞くことができた。
果たして、『妖怪惑星クラリス』の内部はどうなっていたのだろうか。

前編ではプランナーの空也さんと、ぺんちゃんさんにお話しをお聞きした記録をお届けする。
クエスト作成などを行っていた彼らの話から、内部の空気を掴んでいただければ、と思う。

ゲーキャス:
本日はお時間いただきありがとうございます。
妖怪惑星での皆さんの役職と、スタッフに入ったきっかけを教えてください。

空也:
インターネットでTwitterとかやっている空也というものです。
『クラリス』のゲームが大好きだったので、「大好きなゲームがスタッフを募集していたら入っちゃうな」って応募しました。
担当はプランナーです。

ゲーキャス:
『クラリス』におけるプランナーとは、どのような役職ですか?

空也:
『クラリス』ではクエストを受注して、特定の敵を倒す敵までが1つの流れなんですけど、プランナーは、どの敵を倒せばクエストが終わるか決めたり、NPCのセリフを指定したり、(バトルの)数字を決めてバランス調整していました。

ゲームキャスト:
プランナー、結構裁量が広いですね……。
続いて、ぺんちゃんさんお願いいたします。

ぺんちゃん:
私は普通のゲームプレイヤーだったんですが、プランナーの応募ツイートを見て「ゲームの内部が気になりすぎるな、入ったろ」って応募して、クエストなどを作っていました。
流れでシナリオとかめっちゃ書くことになっちゃった。そんな感じです。
後期はイベントクエストざーっと見て、半分ぐらい私でした。
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▲異常にテンションが高く、シュールなシナリオ。これを作れるのは一種の才能か。

ゲーキャス:
すごい行動力……そして、あの狂気のシナリオの半分を!?
今日はどんな話が聞けるか楽しみです。
早速ですが、お仕事について聞かせてください。どんな環境で仕事をされていたのでしょうか?

空也:
仕事の形式としては、チャットツールを使って担当者の人と話し合いながらクエストを作っていく状況でした。好きなゲームを、中の人と話しながら作っていく夢の状況です。
アプリストアにある『クラリス』のアプリがマスターツールになっていて、マスター権限があるとそのままクエスト作成ができたので、アプリからクエストを作っていました。

ゲーキャス:
え、プレイヤー全員のスマホに入っているアプリが、そのままクエスト作成ツールにもなる……!?
一歩間違えたら大惨事ですね。『クラリス』ヤバい。

空也:
マスター権限があるとゲームが遊べなくなるので、BlueStacksというAndroidのエミュレーターに入れてPCでやっていました。

ぺんちゃん:
私もチャットツールでやりとりをしていました。権限については、(ゲームが遊べなくなることを)知らないでプレイしていた端末に権限付けてしまって、悲しいことになりましたけど(笑)

ゲーキャス:
チャットツールでやりとりしていた『クラリス』運営の方の印象や、職場の印象はいかがでしたか?

ぺんちゃん:
担当の方が癒やし系だなぁ、と。
良い意味でも悪い意味でも“人間になって数時間しか経っていない人”なのかなぁ、と。
宇宙人みたいな……。

ゲーキャス:
人間になってあまり時間がたっていない宇宙人!?
良い意味に聞こえないんですが……。

ぺんちゃん:
悪い人じゃないけど、地球の常識が分からないというか。
仕事の中に代筆があって、私もニコ生のツイート事件のときの代筆担当が私だったんですよ。
クラリスニコ生事件とは
妖怪惑星クラリスの公式ニコ生イベント決定時、クラリスTwitterで決定前のニコ生出演予定者を告知してしまい、出演未決定の生主が怒ったという事件。
ゲーキャス:
痛ましい事件でした……。

ぺんちゃん:
(『クラリス』の)広報の方が独断で書いていて、炎上しちゃったじゃないですか。
でも、中の人は「意味がわからん、こんなの謝る必要ないでしょ」って。
他の方も説明はしていたみたいなんですけど、やばさがわかってなかった。
さすがに謝った方がいいよって、私が謝罪文を書いて出したんですよ。

ゲーキャス:
外部のプランナーに説得されて謝る運営……!

空也:
僕の担当とTwitter担当が同じ人か分からないんですけど、炎上していたときに僕の担当者の人に聞いてみたら、すごい落ち込んでいました。
ニコ生で出演する人についても、どういう人なのかわかってなかった気がしますね。
日本の動画文化もわからない。「なんかわからないけど、みんな喜んでいるなー」みたいな。

ゲーキャス:
落ち込む以前に、謝罪文代筆というところで驚いてしまったのですが……全体として日本のことを分かっていなかったのですね。
そんな方々が在籍する『クラリス』運営元の Kola Entertainment は日本の会社だったのでしょうか?
韓国に同名の会社があるので、それではないかともいわれていましたが。

空也:
日本って言っていました。
所在地がどこにあるかもわからないし、日本と言っているけど、どこの(国の)会社かわからないし、日本語が不思議でしたけど。

ぺんちゃん:
担当の方は何人かいましたが、明らかに日本人じゃない方もいましたね。
通話したことありますけど、(日本語は)一応しゃべれていました。
トップの方は日本人だったみたいなので、「日本の企業だったら良いなぁ」って。

ゲーキャス:
日本の企業だったら良いなぁ(笑)

ぺんちゃん:
運営側はバイトの情報は外にしゃべっていないというか、秘密に仕方が上手いというか。
変なことをやらかす運営にしては秘密に仕方がやばいな、と。

空也:
僕が話していた担当の人は上手く日本語は話せていなかったので……。
妖怪そのものみたいな、人だった気がします。
アプリアイコンのクラリスがそのまましゃべっているようなイメージですね。
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▲中央の青髪の女性がクラリス。

ゲーキャス:
まってください、話し相手の中には日本人がいたのでしょうか?

ぺんちゃん:
わからないです。
(テキストチャットなので正確に分からないが)担当の人が数人、変わってはいると思うんですよ。入った当初は厳しめのときと緩いときとがあったので、それも別人だったのかな、と。
詳しく分からないんですよ。

空也:
Twitterで東京で働いている外国人を多く雇っていると言っていた気はします。それも本当か分かりませんけど。

ゲーキャス:
今見るとそのTweetは見当たりません(※)ね……。
※妖怪惑星クラリスの運営は、頻繁にTwitterの失言を削除する。
運営ではボロを出しまくっていたのに、会社に関しては完全に秘密主義を貫いていたんですね。少しヤバい臭いもしますが、皆さんが無事で良かった。仕事の方はどのように行っていたのでしょうか?

空也:
チャットワークでやりとりしていましたが、運営からはふわっした依頼しかなくて。
「メインクエストはみんなが詰まないように優しく作ってくれ」とか。

ぺんちゃん:
高難度クエストはこれぐらい強くしてとか、召喚獣の○○が使いやすいようにしてくださいとか。
あとはクエスト名から、だいたい全部やりました。

ゲーキャス:
すごい。シナリオとクエストも全部ですか?

空也:
どちらか片方だけのこともありましたね。
ツールも使いやすかったので、パパッと作れました。

ぺんちゃん:
私はクエストの方がやだったなぁ。数値作るのが難しくて。
シナリオは酔っているときとか、極限まで眠いのを堪えているときとかの変な精神状態の時にあえて一気に変なものを書き上げていて、むしろ趣味みたいなもんでしたからね。

ゲーキャス:
あー、『クラリス』ならそれもアリなのかもしれないですね。改めて懐の深いゲームだ……(笑)
いろいろ話題になった代筆とか、通知メッセージなどは運営側で考えていたのでしょうか?

ぺんちゃん:
通知は、入った当初は「通知のセリフはこういう感じでお願いします」と言われていました。
あとは結構自由で、時事ネタとかも各自で「これ書くべ」と送って、アイデアが採用された感じでしたね。

ゲーキャス:
あのメッセージは日本語が不自由な運営が作ったものではなく、日本人のプランナー達が必死に考えていたんですか!?

ぺんちゃん:
ゲーム内のものだったら、「エレちゃん実装おめでとう」とかメッセージがあった(※)んですけど、あれは他のシナリオライターが考えたものだと思います。
※『Fate / Grandorder』のゲーム内にエレシュキガルが実装されたのに合わせて、なぜかクラリス内で祝福のメッセージが送られ、いろいろな意味で話題になった。
ゲーキャス:
『クラリス』がどこまで開発のもので、どこまでアルバイトのものか、まったく分からなくなってきてしまった……!

空也:
そういえば、年始に担当者がいないから、新年の挨拶の代筆を頼まれてたことがあります。
でも、新年あいさつを代筆したら運営が勝手に「映画化(夢だけ笑)」と追記してしまったこともありました。

ゲームキャスト:
え、あの新年の挨拶までアルバイトがやっていたんですか!?
アルバイトのやる作業が多すぎる(笑)

空也:
Tweetは……ないですね。
消されたかな……結構消しますからね。

ゲーキャス:
妖怪惑星ではTweetは消えるものだからしかたないですね。
クエスト実装までのフローはどうなっていましたか?

空也:
セリフや数値を自分で打ち込んで、本社に送って、そこから改変されたりされなかったりして、クエストができてました。
基本はプランナーが決められていましたね。基本は数値の設定だけしていました。

ぺんちゃん:
あ、私はシナリオも一緒にやっていました。
送った後はいつの間にか実装されていて、私も通知が来て初めて「実装されたんだ」と気づく(笑)

ゲーキャス:
通知メッセージも、クエストも外部のプランナーがやっていたとすると、ゲーム自体が途中から外部の人間が作っていた状態だったんですね。

空也:
そうですね、ユーザー側に近い人たちが実質作っていたと思います。
ゲームが終わったときに分かったんですけど、他の人たち、単なるプレイヤーだと思っていたらみんなスタッフだった(笑)

ゲーキャス:
学生が多かった印象ですけど、実際どうでしたか?

空也:
そうですね、僕の周りのファンは20前後なんで、同年代が多い印象でした。

ぺんちゃん:
私も大学生ですね、一応。

ゲーキャス:
妖怪惑星クラリスは、大学生のアルバイトが作っていた……えらいこっちゃ。
なぜ、そこまで任せられたんでしょうか。

ぺんちゃん:
良くも悪くもユーザーに対して素直というか、こういうの欲しいと言ったら「あー、わかりました!」って。

空也:
「妖怪惑星クラリスはユーザーと作るもの」といっていて、それはあったのかな、と。
運営が遊び方を提示するのではなくて、ユーザーが遊び方を作れるように作っていきたいと言っていました。

ぺんちゃん:
「ユーザーに言われることを直していけば良くなる!」って感じだったので。
良い運営でいようとしていた感じはしますね。

空也:
キャラクター名の公募をTwitterでやった時点で、デザインもしたいと言われて、クラリス側で拒否しなかったのもそういったのも、そのあらわれだったのかな、と。
ユーザーの意見を取り入れて自由にというコンセプトだったと考えられます。


ぺんちゃん:
キャラの作り方は厳しいと聞いたことがあります。
以前コラボしていたニパ子さんが、何回かデザイナーの方に、リテイクを出したとTwitterで言っていたはず(※現在はTweetが消されている)
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▲コラボキャンペーン画像。

ゲーキャス:
プレイヤーの言っていたことをノーガードで取り入れた結果のサービス終了だったんでしょうか。
ちなみに、『妖怪惑星クラリス』が突然に終わって話題になりましたが、内部のスタッフからはその動きは感じ取れましたか?

空也:
僕が12月時点で話したときに、クラリスを類似の作品がないというか、唯一のゲームにしたいと言っていましたね。オリジナリティのあるゲームに育てていきたいと。
アイデアの案もエクセルにまとめて、3回ぐらい送ったんですよ。
マイルームとか、「これから実装する予定の機能」に入っていて。ユーザーからのアイデアを募って拡張していく予定があったと思います。

ぺんちゃん:
クラウドファンディングすると語っていたので、あんなになるとは思いませんでした。
全盛期のスクショとか見て、今もこれぐらい熱気があるようにしたいねって語っていて、盛り上げたい気持ちも伝わってきましたし。
(ゲームに)愛着はあったみたいです。
ただ、あまり課金がないとは漏らしていましたね。

ゲーキャス:
運営については「なんだかゲームがよく分からない人たちが、金のために作った」程度に思っていたんですが、中の人が『妖怪惑星クラリス』を好きだったというのは驚きです。

空也:
少なくとも、金づるとか思っていなかったと思いますね。
愛着を持ってやっている感じがしましたね。

ゲーキャス:
でも、消えてしまった。
世間では淫夢ネタなどのヤバいネタを使いすぎて消えたという説も出ましたが、中からみて状況はどうでしたか?

空也:
少なくとも、スラングで消えたとは思えなくて。
やっぱり、内部の会社の問題だったと思いますが、あまりわかりません。

ぺんちゃん:
2、3メールしましたけど、それ以降はないですね。
ローストビーフおごってもらう約束したのに、おごってもらっていないんですよ。これ、書いておいてください。
もしかしたらおごってもらえるかもしれないので(笑)

ゲーキャス:
わかりました(笑)
一部で給料の未払いが話題になっていましたが、そちらは大丈夫でしたか?

ぺんちゃん:
未払いとかもなくて、楽しかったですね。

空也:
僕も給料は支払ってもらったので、いざこざなく楽しかったです。
アルバイト代が1クエスト2,000円~3,000円ぐらいで。代筆の代金まで出ていて、ただ働きはありませんでした。

ゲーキャス:
クエスト2,000円は安くないですか?

空也:
そうでもないですね。あと、『クラリス』で稼いだお金で『クラリス』に課金していましたから(笑)
僕の周りで課金する人は、続いて欲しいから課金するという感じでやっていて、ソーシャルゲームとしては珍しいな、と思いました。

ぺんちゃん:
私も。

ゲーキャス:
すごいな、妖怪惑星。熱心なファンがクエストを作って、クエストの報酬を課金してくれて、完全に回ってる!
サーバー代や内部の人件費は別だと思うけど。
逆にきついことや嫌なことはありましたか?
例えば、淫夢ネタなどを使うことに対して反対はなかったのか、とか。
淫夢ネタとは
ゲイビデオを元にしたネットスラング。あまり気持ちの良いものではないが、ネット界隈の一部で熱狂的な人気を博していた。
空也:
(淫夢ネタは)僕としては話題を掴むために使うなら悪くないな、と思うんですけど、ゲームの内面というかクラリスの本質を見てもらう妨げになっていてしまったな、と。
クラリスのメインの魅力は、変なゲームシステムと、本気のシナリオと、世界観の奇天烈さなので。そこを覆い隠してしまったと。
サービス終了してから、サービス終了ってニュースがたくさんでたじゃないですか。
そのときでも「例のスラング一杯のゲームが終了した」ってニュアンスになっていて、そこが悲しかった。

ぺんちゃん:
Twitterの使い方も面白かったですよね。
私はギャグしか書いていないんですけど、名前の投票は真面目シナリオ担当の方大丈夫かなぁ、と思っていました。
あと、マニュアルの日本語が変で読めなくて大変だった(笑)

ゲーキャス:
やっぱり、日本の会社だったのかよく分かりませんね。
ありがとうございました。お二人が『クラリス』大好きで、楽しくやっていたのが本当に伝わってきました。
ちなみに、最後まで関わってみて感想はありますか?

ぺんちゃん:
関わって良かったと思っていますよ。いろいろな面白い経験もさせてもらったので。

空也:
僕もかかわれて良かったなぁと思いますけど、もうちょっとかかわりたかった。
今は妖怪惑星クラリスがなくなって悲しいとか、クラリスが忘れられないように何しようとか、ツイ消しとかするのでそういった遺産を保護したりとか。
クラリスを中心とした緩い繋がりでやってます。自作物語の投稿先がなくなって、どこに投稿するかとかやってましたよね。

ゲーキャス:
確かに、自分も大学生のときにこんな強烈な体験したら楽しかったかもしれないなぁ……。
ちょっとうらやましいとも思ってしまいます。
この記事も、クラリスの遺産になれば幸いです。
ありがとうございました!

最後に賃金未払いなどが話題になってしまったが、『妖怪惑星クラリス』は概ねファンに愛され、ファンの手によって運営されていたようだ。
最後の空也さんの言葉にもある通り、『妖怪惑星クラリス』は終わってしまっても、熱心なファンサイトが現在も残っており、ゲーム内のシナリオなどが掲載されている。
気になったら是非、見に行って欲しい。

そして続く後編では、さらに深くクラリスに関わったシナリオライター、星野一人さん……メインスタッフの1人だったにも関わらずサービス終了を知らず、終了を公式Tweetで知って叫んだ方のお話しに続く。

彼の叫びは、真実だったのだろうか?