非国民通信

ノーモア・コイズミ

二重に貧しさを感じさせる記事

2011-01-22 22:58:32 | ニュース

生活保護、最多の3兆円超 09年度、失業者が急増(朝日新聞)

 2009年度に支払われた生活保護費が初めて3兆円を超えたことが、21日分かった。08年9月のリーマン・ショック以降、失業者が生活保護に大量に流入し、働ける年齢の受給者が急増したためだ。厚生労働省は、就労・自立支援の強化などを中心に、生活保護法などの改正を検討する。

 生活保護費は国が4分の3、地方自治体が4分の1負担している。厚労省のまとめによると、09年度決算では国負担分が2兆2554億円、地方負担分が7518億円で、総額は3兆72億円。前年度より約3千億円増えた。

 年金だけでは生活できない高齢者世帯の増加で、生活保護受給者は増え続けている。さらに08年9月以降は生活保護を申請する失業者が増えた。保護受給世帯は昨年10月時点で過去最多の141万世帯。このうち、病気や障害がなく働ける年齢の世帯は23万世帯で、2年で倍増した。

 だいたい2兆5000億程度で踊り場に止まっていた感のある生活保護費ですが、一気に3兆円を超えたのだそうです。とりあえず、この「総額3兆円」という数値は覚えておくべきでしょうね。より頻繁に報道されるものとして不正受給の総額などありますけれど、その不正受給額が全体から見ていかに些細なものでしかないかを理解することは、問題の本質を見誤らないために必須ですから。不正受給は微々たるものでしかなく(金額ベースで0.4%未満)財源面では実質的に何の影響もない、問題はもっと別のところにあるということを意識しないと現状に即した議論はできません。

 それはさておき、散漫な記事です。見出しには「失業者が急増」と掲げられているのに、本文では真っ先に高齢者世帯の増加を挙げています。この辺は公的年金の不備のツケが生活保護に回されている点が問題視されてしかるべきでしょう。なんだかんだ言って年金もまた格差を実感させる制度です。現役時代にバリバリ稼いでいた人なら結構な額が受け取れるけれど、若い頃は貧しくて最低レベルの年金支払いにも苦慮していた人には雀の涙であったり、あるいは支給対象から外れる有様ですから。生活保護費の増額を厭うのであれば、それよりもまず公的年金を貧困世帯に優しいものに変えていくことを考えるべきでしょう。

 そして「病気や障害がなく働ける年齢の世帯は23万世帯で、2年で倍増した」ことが報じられています。有効求人倍率が0.5ちょっとしかない社会であるにも関わらず生活保護受給が23万世帯に止まっているのは、むしろ奇跡に近いような気がしないでもありません。とはいえ、こちらの増大もまた失業保険などの不備のツケが生活保護に回された結果と言えます。額が少ない、期間が短い、なにより支給要件が異様に厳しい、失業保険制度が欠陥品であるが故に、そこからこぼれ落ちた人のごく一部が生活保護を頼っただけでも2年で倍増という結果に繋がるわけです。よく生活保護は「最後のセーフティーネット」と呼ばれますが(ただし日本では刑務所が実質的な「最後のセーフティーネット」の役割を果たしているフシがあります)、その「最後のセーフティーネット」の対象者が増えると言うことは、それ以前のセーフティネットが機能不全に陥っていることを意味します。

■自治体の財政「火の車」 支出は都市部に集中

 増え続ける生活保護申請で自治体財政は「火の車」だ。生活保護が集中するのは失業者が多い都市部。東京都、政令指定都市、中核市で、保護費の6割にあたる1兆9千億円が09年度に支出された。

(中略)

 指定都市市長会が昨年10月に国に要望した改革案の柱の一つは、働ける年齢の人には3~5年の期間を設け、「集中的かつ強力な就労支援」をすることだ。期間が来ても自立できない場合、保護打ち切りも検討する仕組みだ。

 市長会の提案に、弁護士らで作る生活保護問題対策全国会議などは「生活保護に期限を設けることになり、生存権を保障した憲法25条に違反する。生活保護の増加は非正規雇用の増加や社会保障の不備に原因があり、働く場を用意しなければ解決しない」と強く反発している。

 この社会的貧困とセーフティネットの不備から来る生活保護費増加への対応として、行政サイドが考えているのは生活保護に期限を設けて打ち切りを計ることです。これは言うまでもない憲法違反ではありますが、何かにつれ憲法の守られない国でもありますから(憲法が改悪されないよう「護る」こともさることながら、憲法を蔑ろにする行政に「遵守させる」という意味で憲法を守る意識は、もうちょっと高まって欲しいところです)、地方分権の旗印の下、自治体独自の生活保護打ち切りや切り下げが大々的に進められたとしても不思議ではありません。

 だいたい「民間では~」と行政に民間企業の感覚を持ち込ませるのが大好きなお国柄なのに、「働けるかどうか」の判断については役所と民間企業の基準が全く異なっている、その役所と民間の感覚の違いには全く無批判なのがまた不条理です。役所で「働ける」と太鼓判を押して生活保護から遠ざけられた人の大半は、民間企業からは「働けない」と判断される、こういう齟齬を放置したまま就労支援だの自立云々と語られても、単なる行政サイドの言い訳にしか聞こえません。

 それ以前に中見出しの「自治体の財政『火の車』」とは! まぁ、読者の感覚すなわち国民の感覚からは、そう外れてはいないのかも知れません。しばしば自分の生活よりも国や自治体の財政の方を気にしてしまうのが我々の社会です。ましてや自分ならぬ隣人や他人の生活と自治体の財政であったらどうでしょうか。本来、生活保護世帯の増加は社会的貧困の度合いとして意識されなければならないはずです。本当に「火の車」なのは自治体の財政ではなく住民の家計の方でしょう。しかるに生活保護の増大を不正の尺度や財政上の重荷としか考えないのがこの国の民意であり、それに媚びを売るメディアなのかも知れません。だから生活保護が必要なほどの貧困にあえぐ住民の増加ではなく、まず自治体の財政の方が心配されてしまうわけです。そういう面で今回の記事は二重に社会の貧困を伝えるものと言えますね。

 

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4 コメント

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確かに (凡人69号)
2011-01-23 23:19:55
テレビのローカルニュースを見ていても、自治体の首長や議会の選挙についてインタビューされた有権者が、投票基準に「財政を健全化してくれる人」と答えるのは珍しくありませんね。もっとも、自治体の財政が健全化されたとしても、それが住民の生活向上に直接結びつくかどうかは微妙なところですけど。
生活保護世帯が23万件で止まっているのは、行政側のいわゆる「水際作戦」だったり、対象者側の「公からの施しは受けたくない」というケースもあるのでしょうが、最近の日本の風潮である、「自己責任論」の縛りなんかもあるのでしょうね。
Unknown (非国民通信管理人)
2011-01-23 23:52:07
>凡人69号さん

 反対に「自分の」生活を良くしてくれるかどうかという基準は、まず持ち込まれなかったりするんですよね。どうにも住民のための自治体という感覚ではなく、主君と臣民のような関係と言いますか、己の権利よりも「公」を優先させるのが当たり前みたいな風潮があるような気がします。
最後の砦は (最下層公務員)
2011-01-24 00:46:19
やはり刑務所って事ですかね。
孤独な老後ってのがすぐそこまで来てる身としては以前から生活保護も容易に受け取れなくなったら軽犯罪を繰り返し、刑務所に入る事しか生きる術が無くされて行ってると感じていました。
万引きでも昨今の厳罰化で、重武装のガードマンがちょっとした罪でも銃をぶっ放すアメリカ型の社会にでもなってしまったら、刑務所に入るのも運次第って事にも、、、、、。

ちなみに今日選挙の運動員(民主)の方が見えました。
『何をやってるんですか?民主党は。』って言って話し始めたら、当たり前と言えば当たり前ですが、その方も相当頭に来て心苦しいと言う感じがひしひしと伝わりました。
最後に小さい声で「勘弁を、、、、」
だそうです。60台後半、地道に選挙運動してる人も居るってのに。
Unknown (非国民通信管理人)
2011-01-24 23:24:16
>最下層公務員さん

 行き場のない高齢者や障害者の最後にたどり着く先が、社会保障受給ではなく刑務所になりつつあるのが実態ですからね。何とも恐ろしい社会です。民主党関係者の中には心ならずも現政権を支えている良心的な人もいるのでしょうけれど、党執行部がそうであるように上に行くほど小泉以降の自民党に近いタイプが目立つ気もしますし……

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