ITmedia NEWS > 社会とIT >

東電、夏の計画停電は避けられない見通し

» 2011年03月25日 18時12分 公開
[ITmedia]

 東京電力は3月25日、今夏の電力需給見通しを公表した。7月末までに供給力を1000万キロワット回復し、合計4650万キロワットにまで改善させる計画だが、節電効果を考慮しても需要想定には850万キロワットが不足すると見込む。真夏の計画停電は避けられない見通しだ。

 3月24日時点の供給力は3650万キロワットで、需給動向で供給力が変動する揚水発電を含めると3850万キロワット。今後、震災で停止している鹿島火力発電所1〜6号機(合計440万キロワット)、常陸那珂火力発電所1号機(100万キロワット)の復旧や、昨年4月から休止中の横須賀火力発電所の再稼働、設置が容易なガスタービン発電機の設置(40万キロワット)で供給力の回復を目指す。

 一方、夏に向けて気温上昇による火力発電所の出力減少分が260万キロワットあり、これらの差し引きで7月末の供給力は4650万キロワット(揚水発電含まず)になる見通しという。

 これに対し、震災の影響や節電効果を考慮しても、需要は5500万キロワットに達するとみている。夏期の平日平均の最大となる4800万キロワットに対しても足りず、最大需要に対し供給力が大幅に下回る見通しだ。

 東電は供給力の回復に全力を挙げる一方で、引き続き企業・一般家庭に節電を呼びかけ、さらに需給調整契約を活用するなどして需要面の調整にも取り組むとしている。

 また東電は、冷房需要が高まる時間帯に料金を割高に設定する需要抑制策も検討。政府はサマータイムの導入や、企業の休暇の分散化などを検討するという。

「同時同量」

 東電の電力を取り巻く状況を見てみよう。

 東電の資料によると、2010年度(計画値)の自社設備による発電設備出力は6499万6000キロワットで、他社からの受電を合わせると7801万600キロワットだ(発電設備は定期点検などがあるため、全出力をフルに使えるわけではない)。

 自社設備出力の内訳は、火力発電が3869万6000キロワットで59%を占め、原子力発電が1730万800キロワットで27%、水力発電が898万9000キロワットで14%。地熱や風力などの「新エネルギー」は400キロワットに過ぎない。

 キーワードは「同時同量」だ。電気は基本的に貯めておくことができない上、需要と供給のバランスが崩れると電圧や周波数が不安定になり、工場などに大きな影響をもたらす。このため必要な電気を必要なだけ発電する、需要と供給を一致させる「同時同量」が電力をコントロールする際の原則だ。

インフラ投資ジャーナリストの今泉大輔氏による「同時同量」の詳しい解説はこちら


 電力需要には1日の時間帯によって変動があり、3月なら午後6時〜午後7時に最も電力需要が高くなるなど、一定ではない。このため、常時稼働している水力発電と原子力発電による電力で需要のベースをまかない、稼働タイミングを調整しやすい火力発電を活用することで同時同量を実現している。ピーク時に足りない場合は火力や揚水発電などを使ってさばいている。

 現在実施されている計画停電も、供給力が落ちた中で同時同量を維持し、不測の事態を避けるための苦肉の策だ。

真夏のピーク時間帯は午後1時〜午後3時

 震災の影響で、東電の供給力は大きく落ちた。特に、深刻な事故を引き起こした福島第1原子力発電所(合計469万6000キロワット)と、福島第2原子力発電所(合計440万キロワット)の停止で、需要のベースを担う電力が減っている。夏場の最需要期に東電への電力融通を行ってきた東北電力の女川原発(237万4000キロワット)も復旧の見通しは立っていない。

太陽光発電は?

 東電は2011年度から大規模太陽光発電施設、いわゆるメガソーラーを3カ所稼働させる計画だが、その合計出力は3万キロワット。福島第1・第2原発の代替になるには、単純計算で300倍以上の規模が必要になる。


photo 1日の電気需要の推移。ピークに6430万キロワットを記録した01年7月24日は午前8時には5000万キロワットを超えている(東京電力の資料より)

 東電によると、年間を通じた電力需要のピーク時期は1968年までは真冬だったが、それ以降は空調機の普及で真夏に移った。2001年の7月24日には6430万キロワットという最大値を記録しているが、07年(8月22日)は6147万キロワット、08年(8月8日)は6089万キロワットが最高で、天候不順に見舞われた09年(7月30日)は5449万キロワットにとどまっている。

 真夏のピークとなる時間帯は午後1時から午後3時。1日のうちで最も暑く、最も冷房を使う時間帯だ。夏期の電力需要のうち、冷房需要は35%程度を占めているという。夏期に計画停電に踏み切らざるを得ない場合、最も暑い時間帯である午後1時〜午後3時を中心に実施される可能性が高い。

変わるライフスタイル

 真夏に計画停電が実施されれば、首都圏の人々のライフスタイルには大きな影響がありそうだ。

 例えばオフィスでは「クールビズ」化が否応無しに進み、オフィスでもポロシャツ1枚で過ごすことが社会人の常識になるかもしれない。夏場を快適に過ごせることをうたう高機能素材を使った衣料への注目が集まるだろう。

 またオフィスを「疎開」させる企業が相次ぐかもしれない。ノートPCさえあれば仕事ができるネットベンチャーは首都圏を離れ、涼しい軽井沢(長野県)や北海道、電力を気にしなくていい西日本などに移動して開発を続けるかもしれない。震災と電力不足を受け、西日本へのオフィス移動を早々に宣言したパンカクの柳澤康弘社長は「長めの開発合宿」だとツイートしていた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.