「Xperia Tablet S」はAndroidタブレットの限界を超えていく開発者ロングインタビュー後編(1/4 ページ)

» 2012年11月28日 17時30分 公開
[鈴木雅暢,ITmedia]

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 前回に引き続き、「Xperia Tablet S」のインタビュー後編をお届けする。

ソニーの9.4型Androidタブレット「Xperia Tablet S」。雑誌を折り返したような独特のラップデザインを継承しながら、薄型化と軽量化を実現した

チーム全体で省電力マインドを共有、スタンバイ電力を約50%カット(ディスプレイ設計・電気設計部門)

―― Xperia Tablet Sは先代機から最厚部で8.75ミリも薄くなりましたが、液晶ディスプレイは薄型化しているのでしょうか?

VAIO&Mobile事業本部 Tablet事業部 商品設計部 八木圭一氏(ディスプレイ設計担当)

八木氏 液晶ディスプレイは、表面のガラスからアルミのシャシー部分まで、0.6ミリ(14%)の薄型化をしています。主にLEDバックライトの導光板の部分を薄型化しました。

―― 前回とは液晶パネル自体を変えているのでしょうか?

八木氏 はい。IPS方式による広視野角、9.4型ワイドの画面サイズ、1280×800ドットの解像度といったスペックは同じですが、液晶ディスプレイは新規に起こし、消費電力を大きく下げています。

 まず液晶を「ドット反転駆動」から「カラム反転駆動」にすることで、液晶の駆動電力を1/3にすることができました。また、表示しているコンテンツに対してバックライトの光量を自動的に調整する技術を導入しており、バックライト駆動部では従来の2/3に消費電力を抑えています。

―― カラム反転駆動とはどういったものですか?

八木氏 液晶ディスプレイは液晶にずっと同じ電位をかけ続けていると焼き付いてしまうので、描画フレームごとに極性を反転して駆動する必要があります。

 通常のPC用ディスプレイで使われているドット反転駆動では1ドット単位でプラス、マイナス、プラス、マイナスと交互に反転させていますが、カラム反転駆動では列単位で反転させます。この方式は消費電力を抑えられる半面、クロストークの抑制が難しくなるデメリットがあるのですが、そこは地道に評価を行い、制御技術に優れたメーカーの部品を採用することで、画質を低下させずに省電力化を実現しています。

―― なるほど。制御をシンプルにしたのですね。ほかにも省電力化の工夫はありますか?

八木氏 液晶ディスプレイのインタフェースはPCでも標準的なLVDSですが、これをタブレットのプロセッサ(NVIDIA Tegra 3)と接続する場合には変換チップが必要になります。このディスプレイ出力変換チップについても最新のものを採用しており、消費電力を1/3に抑えました。

 それ以外も見直しているところは多いです。我々はウォークマンを開発してきましたが、PCとは省電力の考え方がそもそも違います。PCでは消費電力をワット単位で考えますが、より小型軽量のデバイスであるウォークマンではミリワット単位で考えなければなりません。つまり、より細かいレベルで省電力できる部分を1つ1つ見逃さずに詰めた結果、全体として大きく消費電力を下げることができたというわけです。

VAIO&Mobile事業本部 Tablet事業部 商品設計部 宮田洋昌氏(電気設計リーダー)

宮田氏 プラットフォームが決まってしまうと、それ自体の省電力化はなかなか難しいので、その周辺の電源系統、1つ1つのデバイスの選定など、細かいところで省電力化していきました。今回のチームはウォークマン、ナビなどの開発陣が主体なので、その経験を生かして、地道に最適化しています。後で四竈から話があると思いますが、タッチパネルもかなりの省電力化を果たしました。

―― 今回はスタンバイ時のバッテリー駆動時間も先代機の約430時間から約1050時間へと大幅に延びていますね。

宮田氏 はい。特に今回は実際の使い勝手にフォーカスして最適化しており、スタンバイ時の消費電力を重視しました。タブレットは使わないときに必ず充電されているわけではなく、むしろ放置されたまま、というケースが多いでしょう。このように放置された状態が長く続いた後、使いたいときにパッと手にとって電源を入れると、まだまだバッテリー残量があって、すぐに利用できるのは快適さに直結します。

 「スタンバイでいくら電池が長持ちしても意味がないじゃないか」と思われがちなのですが、実際にタブレットを使っていただければ、この価値は明らかです。

―― 私も普段からタブレットを使っているので、その感覚はよく分かります。

清水氏 全体でいえば、先代機に比べて、スタンバイ時では約50%、動作状態は内容によるので一概にはいえませんが、ざっくり約30%の電力カットができています。

 現場で各部門がお互いに消費電量をチェックしながら、性能やエクスペリエンスに必要なところは使う、意味のないところには使わないと、電力会社の節電の呼びかけではありませんが、チーム全体で省電力マインドを共有し、徹底できたことがこの成果につながったと考えています。

田中氏 開発陣みんなが第2世代のタブレットをいかによい製品にしたいかを理解してくれていたので、お互いに調整をしながら開発を進められました。

 開発を進める中で「よりよい体験をさせたいから、もう少し電力を使いたい」と相談してくる部門があれば、ならば他の部門がどうやって減らそうか、自分のところで何ができるのか考えるというように、お互い切磋琢磨(せっさたくま)しながらすり合わせていって、最終的には非常にうまく最適化ができたと思います。

VAIO&Mobile事業本部 Tablet事業部 商品設計部 清水俊秀氏(電源設計・バッテリー開発導入担当/写真=左)。VAIO&Mobile事業本部 Tablet事業部 商品設計部 田中茂氏(プロジェクトマネージャー/写真=右)

Xperia Tablet Sの液晶ディスプレイ部を裏から見た状態。LEDバックライトの導光板を薄型化し、液晶パネルモジュール全体では従来比で0.6ミリ(14%)の薄型化を実現している。消費電力は数々の工夫により2/3以下にカットされた

Xperia Tablet Sのメイン基板。右側にはTegra 3(1.3GHz)、1Gバイトのメモリ、フラッシュメモリ(16Gバイト/32Gバイト/64Gバイト)といった主要コンポーネントが、左側には主に通信系チップが実装されている。左下に伸びたオレンジ色の細いケーブルはバッテリーの温度センサーだ

メイン基板の裏側。右側にはLVDSインタフェースへの変換チップなど、左側にはオーディオ処理用DSP、SDメモリーカードなどが並ぶ

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