写真●全日空(ANA)の前田欣伸プロモーション室マーケットコミュニケーション部主席部員(写真:井上裕康)
写真●全日空(ANA)の前田欣伸プロモーション室マーケットコミュニケーション部主席部員(写真:井上裕康)
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 「パソコン用サイトのデザインを考え直す取り組みを始めた。指で操作するスマートデバイスでの利用を前提としたものに変える」---。

 全日空(ANA)の前田欣伸プロモーション室マーケットコミュニケーション部主席部員(写真)は2013年2月28日、都内で開催中の「Cloud Days Tokyo/ビッグデータEXPO/スマートフォン&タブレット」(主催:日経BP社)における講演でこう述べた。

 前田氏の発言の背景には、2012年度から同社のパソコン用サイトに“隠れモバイル”と言うべき利用者が増えたことがある。隠れモバイルとは、タブレット端末などのスマートデバイスでパソコン用サイトにアクセスするユーザーのこと。2011年度は全ユーザー中わずか0.1%だったのが、2012年度には15.5%を占めるまでに急成長した。

 今後も隠れモバイルのユーザーの割合が増える可能性は十分あり、さらにタッチ操作に対応したWindows 8端末のユーザーも増えることが見込まれる。とすれば、「マウスやキーボードが前提の画面では使いにくくなる」(前田氏)。だからこそデザインの見直しが必要というわけだ。

 こうした大胆な検討を始めたANAは、Web戦略で「スマホファースト」を掲げる。つまり、新サービスの開発にあたってはスマートフォンを最優先に位置づけているのだ。

 象徴的な取り組みは、米アップルのアプリ「Passbook」を通じてiPhoneを搭乗券代わりに利用できるようにしたサービスだ。アップルからPassbookの提示を受けてからわずか1カ月でサービス開始にこぎ着けた。「ANA史上最速で開発した」と前田氏は胸を張る。

 こうした取り組みは、売り上げにも結びついている。同社のスマホ用サイト経由での航空券などの販売額は、2012年度で520億円の見込み。2011年度は400億円弱だった。絶対額ではパソコン用サイトの2012年度の販売額見込み(4500億円)と比べてまだ少ないが、伸び率は圧倒的だという。「主要顧客である30~40代の男性が持つ端末は、ほとんどスマホに置き換わったと実感している」(前田氏)ほどだ。

 また、スマホでサービスを提供する効果を前田氏はこう説明する。「パソコン用サイトは、サービス提供範囲を基本的に予約までと位置づけていた。スマホは顧客が常に持ち歩いているので、出発地・到着地の情報案内やプッシュ機能を使っての運行案内など、顧客が到着するまで一貫したサービスを提供できる」。

 もちろん、課題もある。「パソコン用とスマホ用でそれぞれコンテンツを作っているため制作費がかさむ」「デバイスやサービスが多様化したことで顧客の導線が捕捉しにくくなった」などだ。それでも、LCC(格安航空会社)の台頭などによって激化する競争環境を勝ち抜くうえで、顧客との接点となるスマホを通じたサービスの提供が重要な役割を果たすことは間違いない。これらの課題を一つずつ解決しながら、スマホファーストに邁進する方針だ。