深町秋生『ダブル』

深町秋生先生の『ダブル』、ようやく読むことができました。

ダブル

ダブル

すでにあちこちで紹介されていますが、今作は、『インファナル・アフェア』や『フェイス/オフ』に通じる香港ノワール的なバイオレンスが、日本を舞台に展開されます。


主人公の刈田誠次は、新型ドラッグ「CJ(クールジュピター)」を売りさばく組織の殺し屋でしたが、掟を破った弟をかばったため制裁を受け、弟と恋人を殺されて自分も瀕死の重傷を負います。死に掛けていたところを警察に捕まり、整形手術で別人に生まれ変わらされた刈田。リーダーの神宮に復讐すべく組織に潜入しますが、神宮は姿を消していた……


というストーリーです。神宮ファミリーvs敵対暴力団vs警察という三つ巴の抗争が繰り広げられ、しかもそれぞれがお互いにスパイを送りあっているので、プロットそのものはシンプルですが展開には一ひねりも二ひねりもしてあり、ページを繰らせる力が非常に強い小説でした。


先に挙げた映画たちへのオマージュも感じられましたが、主人公を含めたスパイたちが、裏で敵と手を結んでいることを悟られるのではないかと読者に緊張感を持たせながら立ち回るあたりは、雁屋哲の『野望の王国』に通じる味わいも感じられました。まぁあんなにふざけた人ばっかり出てくるわけではないけど。それと、主人公の生い立ちには梶原一騎の『カラテ地獄変』に通じるものも感じましたが、これは読む側に問題があるんだと思います。


ラスボスの神宮と主人公の刈田の間に、ある種の惹かれあうような関係を匂わせてあるあたりの味わいも抜群ですし、顔を変えた刈田とかつて親友だった屋敷とのやり取りも素晴らしい。どうしたって『インファナル・アフェア』でのトニー・レオンキョンのやり取りを思い起こさずにはいられない場面ですが、あれとは一味ちがった、男たちの魅力が見事に表現されています。



※以下ネタバレにつき、既読の方のみご覧ください。

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