日経ビジネスオンラインでは、各界のキーパーソンや人気連載陣に「シン・ゴジラ」を読み解いてもらうキャンペーン「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」を展開しています。
※この記事には映画「シン・ゴジラ」の内容に関する記述が含まれています。

『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4591147169/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=n094f-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4591128601" target="_blank">図解絵本 工事現場</a>』(作・絵:モリナガ・ヨウ、監修:溝渕利明)
図解絵本 工事現場』(作・絵:モリナガ・ヨウ、監修:溝渕利明)

 「シン・ゴジラ」で活躍するあの意外な車両。流し込むのは本来の用途であるコンクリートではないが、その勇姿は映画を見た我々の目に鮮やかだ。コンクリートの専門家である法政大学の溝渕利明先生(法政大学デザイン工学部都市環境デザイン工学科教授)、そして『モリナガ・ヨウの土木現場に行ってみた!』で溝渕先生とコンビを組んだイラストレーター、モリナガ・ヨウさんに、映画の感想を聞いた。

 で、軽い気持ちで研究室にお邪魔したら、意外にも、溝渕先生はかなりのゴジラマニアで…。

 ちなみに新刊の『図解絵本 工事現場』は、『土木現場に行ってみた!』を底本に、判型を改めて大きな絵で見られるようにしたものだ。絵ならこちら、コラムなら『行ってみた!』が充実なので、土木好き、現場好き、モリナガファンなら両方持ちたい。どちらも、よく工事現場で見られるアイテムの名前や用途から、ダムや新東名の工事現場まで見ることができる、知的興奮爆裂絵本であります。

溝渕利明(みぞぶち・としあき)氏
1959年岐阜県生まれ。1982年名古屋大学工学部土木工学科卒業。1984年に同大学大学院工学研究科土木工学専攻博士前期課程を修了し、鹿島建設株式会社に就職。同社技術研究所土木部第2研究室、広島支店温井ダム工事事務所などを経て1999年にLCE(Life Cycle Engineering)プロジェクトチームに配属。2001年、本学工学部土木工学科専任講師に着任し、2003年助教授。2004年より教授。博士(工学)。

お久しぶりです。夏休み中に突然おじゃましてすみません(注:インタビューは8月31日に行いました)。

溝渕利明先生(以下溝渕):いやいや、理系は夏休みが実験の山場で学校にずっといるんです。授業もないし、気が楽でいいですよ。

日経ビジネスオンラインにご登場をお願いするのは4年前の笹子トンネル事故(「コンクリ-トが生んだ『作りっぱなし』の罪」)以来でしょうか。前回はシビアなお話でしたが、今回はこう、どちらかというとトレンド系のお話で…

溝渕:いや、ゴジラの話でよろしければ、いくらでも話しますよ。

!?

溝渕:土木学会誌に手塚昌明監督(『ゴジラ×メガギラスG 消滅作戦』2000年公開、『ゴジラ×メカゴジラ』2002年公開、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ東京SOS』2003年公開を監督)を引っ張り出したのは私ですから。

ええっ。(その後確認、「土木学会誌 vol.90 no.9 September 2005」にロングインタビューが載っていました)

研究室の一角に、ゴジラコーナーがありました。
研究室の一角に、ゴジラコーナーがありました。

これはとんでもない方のところに来てしまいました。いつご覧になりましたか?

かつてモスラで泣いたお嬢様が

溝渕:公開から1週間か10日くらい後でしたかね。公開日がちょうど期末試験のときで、その後海外出張もあって、気になっていましたけれど遅くなりました。見た映画館は新宿バルト9です。朝イチの平日でしたが、お客さんが半分以上入っていました。新宿は通勤コースなので、映画は大抵、ここで朝イチか夜中に見るんですけど、朝イチにしては入っているなあ、と思いました。

 いつもお客さんをそれとなく観察するんですけれど、女性が意外に多かった。若い人も予想外にいましたね。男同士、おっさん同士ばかりかと思っていたのですけれど、カップルや女性二人もちらほらいました。そういえば娘も「見たい」って言ってましたね。

お嬢様が。それは先生による情操教育(すりこみ)の結果ですか。

溝渕:いえ、それは失敗しました。小学1年生のころに「モスラ」(1996年12月公開)に連れて行ったら映画館で泣かれた苦い思い出があります。

そうですか(連れて行ったんですね…)。

溝渕:こういう観客層が怪獣の出てくる映画に来ているのは、とても珍しいと思います。いままでのゴジラ映画はもちろん、「ガメラ」でもなかったパターンじゃないでしょうか。2度目の鑑賞も同じ映画館で朝に行きましたが、やっぱり同様でした。

やっぱり複数回見ましたか。

溝渕:見ますね。だって、3回くらい見ないと内容が把握出来ないでしょう。1回目はこっちもあの映像に「うわあ、何ですかこれは」と、興奮しすぎているし、セリフが速い。2回目でやっと落ち着いて見られて、3回目でディティールが見えてくる。

分かります。

溝渕:やっと「元の」ゴジラにもどったんじゃないかと感激しました。いわゆる「レジェンダリー版」のゴジラ、「GODZILLA ゴジラ」(ギャレス・エドワーズ監督、製作はレジェンダリー・ピクチャーズ、配給はワーナー・ブラザース、2014年7月25日公開)の、ギャレスがすごく頑張って、初代をリスペクトし、本多猪四郎(ほんだいしろう・初代「ゴジラ」監督)を踏襲した。でも、あれは“対決モノ(ゴジラが他の怪獣と戦う設定)”になっていたし、アメリカ映画は家族愛がないと誰も見ない、ファミリー客が動員できないという縛りがあった。そういう要素を全部切り落として、非常に初代ゴジラに忠実に作っていましたね。

さっき、東宝の山内エグゼクティブ・プロデューサーから伺ったお話(「看板商品再生劇として見る『シン・ゴジラ』」、このインタビューと同日に取材した)と怖いくらい重なりますね。聞かれたら喜ぶと思いますよ。

溝渕:初代はいろいろな言われ方をしていますが、「静」のゴジラ、暴れないゴジラ、“基本的に”動かないゴジラ、という印象が強かった。対決モノだと、どうしても、ライバル怪獣と取っ組み合いますから、過剰に動いてしまうわけです。「シン・ゴジラ」は、そういうアクションがあまりなくて、それが良かったと思います。昔のゴジラ、小さい頃リバイバルで見たときの怖い印象を再び感じました。

動かないから、いいんですね。

溝渕:マンションで逃げようとした家族のシーンがありましたよね。会議室ばかりで悲惨な状況を描けていない、とか、言い出す人がいるみたいですが、どこを見ているのでしょうか。ああいうふうに、合間合間に悲惨な状況を、短い時間ですが的確に、精緻に入れている。もろに描写しない分、東日本大震災ではないけれど、「日常生活が一気に崩壊する様」をあのシーンで見せている。とても非情な描写でもありますが、実際に起こっていた話。

ポンプ車についてはひとこと申し上げたい

ゴジラがむやみに暴れるのではなく、状況を描いているから怖さが染みる。

溝渕:ええ。でかくなったゴジラが「暴れない」からこそ、「蒲田くん(物語の初期に登場する第2形態)」の珍妙な動きが効いてきます。よくあんな設定を考えたなあと思います。あの呑川を遡る、漂流物、プレジャーボートが押し上げられる描き方はさすが樋口(真嗣 ひぐち・しんじ「シン・ゴジラ」監督)さんだと思って感動しましたね。2012年公開の「のぼうの城」が、水攻めの表現が問題になって公開が延期になったことがありましたが、それも、樋口さんの水や波の演出がリアルで凄みがあるからこそでしょう。

たしかに、あの震災から時間が経ったからこそ可能になった表現ではありますね。

溝渕:間違いなく、震災直後なら上映出来ません。少し社会が落ち着いて、ある程度冷静に見られるようになりましたし、同時に、忘れかけている記憶を思い出させる、とてもいいタイミングでの映画になったと思います。最後は、まさに1F(福島第一原子力発電所)収束のイメージでしたし。とはいえ、実はちょっとポンプ車はいただけないところがありました。

えっ。

溝渕:まず、ロング(ブームが長いコンクリートポンプ車)を持ってきたのはいいのですけれど、瓦礫の中、あの位置まで近づけるのは画面から見る限り相当難しそうですよね。

写真協力:ヤマコン(ウェブサイトは<a href="http://www.yamacon.jp/asso/" target="_blank">こちら</a>)。ご協力をお願いしましたら「了解です!映画に出たのと同じタイプがよろしいですよね!」と、即答、即応いただきました。ありがとうございました。「プツマイスター社製の38mスーパーロング車輛です」とのことです。
写真協力:ヤマコン(ウェブサイトはこちら)。ご協力をお願いしましたら「了解です!映画に出たのと同じタイプがよろしいですよね!」と、即答、即応いただきました。ありがとうございました。「プツマイスター社製の38mスーパーロング車輛です」とのことです。

うーん。

溝渕:一瞬、瓦礫をどかすホイールローダーが画面に出ますが、戦車にドーザーをつけたのくらいでないとビルの残骸は除去できないし、あの台数ではどう見てもビルを倒したあと、悪路走破性はなきに等しいポンプ車やタンクローリーが走る道は空けられないでしょう。と、つい思ってしまうわけです。

実は、私もそこは見ていてほぼ唯一ひっかかった点でしたが、もう最後のクライマックスで気持ちが盛り上がりに盛り上がっていまして、「いけいけいけー!細かいこと気にすんな!」となってましたね。

溝渕:もちろん、わたしもです(笑)。あら探しをしても面白いことはないので、むしろどうやったんだろうと考えた方が楽しいですよね。「厳密な計算は無理としても、ある程度、接近路を空けることを計算してビルを倒し、ゴジラを倒した」という考え方もありますし。

 ついでに言うと、現場にポンプ車のアームが林立していましたが、アウトリガー(車体を安定させるために横に張り出す脚)を展開するにはあんなに寄せてはいけません。もともと、広い場所が必要なので工事の際も気を遣うところです。今回は緊急事態なので四の五の言えないんですけど、事故が起こればヤシオリ作戦自体が失敗になるので、もっと間隔を開けたいですね。さらについでに言えば、走りながらアウトリガーを展開してはいけません。危険です。

あれは操縦者に「アウトリガー、展開!」ってセリフを言わせたかったんでしょうね。格好良かった。

溝渕:都心に入ってから気になったのは、ゴジラが進んだエリアはかなり地下構造物、埋設構造物が多いので、あれだけの重量が載ると、沈み込んであんな風に歩けないのでは…という点です。都心部でゴジラが歩きづらくなっても面白かったかも知れませんね。

そのネタは、首都高速湾岸線の多摩川トンネルを踏み壊す場面では見事に表現されていましたよね。ネタバレサイト(※)で指摘されていたので、2回目に目を皿のようにして見たら…。

※ 記者が見たサイトはこちら。「『シン・ゴジラ』の感想を集めてみた(ネタバレあり、見てない人にはないしょ)」。トンネルに触れられた箇所はこちらです。

水柱の上がる間隔、チェックしてました

溝渕:そう、羽田の南側にある海底トンネルですね(別記事の地図参照、こちら)。あそこは沈埋函(ちんまいかん)を使って作ったトンネルなので、ゴジラがその上を通って、函と函のつなぎ目が裂けて、トンネル内の空気が吹き出す演出がありました。

やっぱりお気づきでしたか。

溝渕:水柱の上がる間隔を見ていましたが、100m(沈埋函の一函の長さがおよそ100mなので)くらいでしたかね。「うん、だいたいそのくらいだな」と。

あのシーンを、そんな目で見ている人がいたのか…。

(※沈埋函を使う海底トンネルについては、こちらが分かりやすく解説しています)

溝渕:海底トンネルの話が出たので、ひとつ指摘しておきますと、冒頭のアクアラインのシーン。あのトンネルはシールド工法で作られています。トンネルはコンクリートの「セグメント」と呼ばれる部品で丸く囲われている。ということで、壊れる場合は、映画のように上面(天井部)だけが抜けるのではなく、トンネル全体の壁が一気にぐしゃっと潰れるかな。スタッフの方は、落盤のようなイメージをしたのだろうなと思います。もちろん、絵としてはあれで凄くいいと思います。

なるほど。

溝渕:本業関連になるとついついマニアックにアラを指摘してしまいますけれど、土木関係者の目から見ても、大筋から細部まで、とてもよくできている映画だと思いますよ。

 土木、とくにモリナガさんとの本で出てきたような、インフラ系の大きな仕事に関わる人間って、意外かもしれませんが、初代ゴジラにもつながる「荒ぶる神」を意識することがよくあるんです。地震だったり、台風だったり。

おお。

溝渕:そういう人が、大事にしているのは工事のディティールだったりするのですよ。

溝渕:映画でも、荒ぶる神の具現化ということで、手塚監督も、庵野・樋口両監督も、もちろん参加スタッフのみなさんも、細かいところにこだわりがあったと思うんです。これは、モリナガさんの絵とも通じる。ひどく面倒な、誰が気がつくというものでもないところ、でも、それでも作りたい、見せたいというところがある。そういう思いがある映画や絵は、大勢の人が見て感動するし、時代にも耐えると思うんですね。

 我々の世界で言うと、構造物、ダムでも橋でも、こだわって「こんなところまで手を掛けて作っているの?」と驚くことがあります。そういうことを「機能的に何の違いもないから」と、飛ばす人もたくさんいますが、こだわる人は、そもそものコンクリートからこだわったりする。そして、それをどこかで、発注者もですがそれ以外にも見ている人がいる。そういう構造物は、できあがったら、ひびわれがない、見てきれいなダムに、橋になるんですよ。

本当ですか。見えないところに手をかける。具体的にどういうことでしょう。

溝渕:いちばん端的な例は材料ですね。コンクリートの材料は砂(細骨材)、砂利(粗骨材)、セメント(石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料など、水による化学反応で硬化する粉体)、そして水ですが、まず砂利かな。

 大事なのはいい石が含まれている砂利を探すことです。弱い石はすぐ割れる。そこからコンクリートにひび割れが起きやすい。コンクリートは7割が石ですからね。もちろん、現場によって求められる石は違うし、最適のモノが手に入るとは限らない。そこで、砂や水、セメントなど他の材料とのバランス、配合を考えるのです。割合によってひび割れが起きやすかったり、起きにくかったりがある。

そういうものなんですか、では、コンクリートは、現場や建てるものごとのオーダーメイドなんですね。大変じゃないですか。

細部にこだわる優秀な現場

溝渕:「仕事ですから」。命賭け、とまでは言いませんが、使命感は持ってやっているはずですよ。セメントの種類や量も、打つときに、どういう時期にどうやったらいいか千差万別です。

 コンクリートは固まるときの化学反応で発熱するので温度が上がります。上がるときに膨張し、下がると収縮するんですが、コンクリートは膨張・収縮で発生する引っ張りの力に弱い。ですので、夏場は温度が高く上がり、下がる幅が大きくなるので工事に本当は向きません。

冬はどうですか。

溝渕:冬は水が凍ってしまうとダメですね。固まりませんから。

 じゃあ秋は。

溝渕:ああ、秋は怖い。9月10月など急激に冷え込むので。

春しか残っていませんが、コンクリ打設が春だけのわけないですよね。

溝渕:はい、本当は春先がいいんですよね。でもそうも言っていられませんから、先ほど申し上げた割合の調整や使うセメントの種類で調整します。品質がいまいちの石なら、その悪さをカバーするような割合を考えます。

 それぞれは小さな部分部分のディティールなのですが、そこまでこだわりをもつのが「大きなもの」を作って、「好きを貫く」人のやり方じゃないかと思います。

 「ゴジラ」だって、固定観念を持つわたしみたいなオールドファン(笑)を初め、文句を言いそうな人が山ほどいて、袋だたきになりそうなお話じゃないですか。そんな“難工事”を、庵野さんもよく引き受けたと思うし、彼の願いを具体的に、職人たちを動かして樋口さんが形にしたんでしょうね。この辺、ちょっと、“建築家”と現場の関係に似ていますね。

以前、隈研吾さんが、「日本の建築家は、職人さんのコンクリートを操る技術に甘えている」とおっしゃっていたことがありました。

溝渕:なるほど、うまいことを仰いますね。建築の世界は、アーティスト(意匠)系の建築家と、現場とのせめぎあいでもあります。建築家は“勝手”な発想をするわけですよね。また、それを求められてもいる。それを、構造的に持つように実際の図面にする人がいて、施工するスタッフがいて。「なんでまたこんな形に、無理だろう、でもやろう」と(笑)。高い評価を受けるのは建築家だけというのは、ちょっとギャップ感はありますよね。

 昔の代々木体育館は、あんな大空間をPC(プレストレストコンクリート)で作った。あの当時、あれだけのものをよく作ったと思います。やはり、細部にこだわる優秀な現場が、施工、構造設計があったからこそでしょう。「シン・ゴジラ」からえらく話が飛びましたが、大きな“作品”を見るときには、細部を担当したひとたちの意識の高さも、ぜひ忘れずに覚えておきたいですよね。

引きの破壊が怖かった

 すっごくあれこれ言いたくなる映画なんですが、あまり言葉を持ってないので少しだけ。わりと映画は理屈で考えず、素直に楽しむタイプです。なので、印象の話というか感想を言います。蒲田や北品川の破壊は、街歩きイラストルポで描いたので有名な建物よりぐっときました。

『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4499229200/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=n094f-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4591128601" target="_blank">東京右往左往</a>』“京急人生”編より。ほぼ同じ構図が映画に登場。「やっぱりここになるんですよね」(モリナガ氏談)
東京右往左往』“京急人生”編より。ほぼ同じ構図が映画に登場。「やっぱりここになるんですよね」(モリナガ氏談)
[画像のクリックで拡大表示]

 絵として印象に残っているのは、鎌倉上陸で尻尾が屋根の上を抜けていくところ、そして、鎌倉を乗り越えて、緑区とかの住宅街をまっすぐ踏みつぶして進んで行くところですね。目がうるっと来ました。え、なぜかって? 子供のような、純粋な破壊の“面白さ”、街を壊す、ビルを壊すのに、すごいカタルシスがある。

 でも一方でそこに人が住んでいることを知っている。自分がおっさんだからかもしれませんが、「破壊」の見せ方としてビルが壊れるのではなく、住宅地を破壊していくのが印象深かったです。それをロング(遠景、引き)で見せる見せ方も。誰かに感情移入する間もなく、破局が進んでいく。引きで見ていると個別が分からない。大被害の前にひとりひとりの日常が失われていく、その個別の悲しみと、引きで見たときに感じるカタルシス、そして絶望感。すごい絵でした。

「なにこれ、なにこれ」

[画像のクリックで拡大表示]

 あれは、3.11のときの中継画面とか、いろいろな出来事のアナロジーなんでしょうけれど、僕は、「自然はユーモアを解さない」「理由なんかない」という場面として見てました。地震に理由があるか? あるわけないよな、と。

 理詰めで感動や恐怖を与えるのではなく、ビジュアルの力で投げつけてきましたよね。昔、水爆実験の記録フィルムをつなげた映画見たことがあるんですが、ソ連のセミパラスチンスクの実験場で、原子雲が次々と上がる様子を見せられて、「ああ、感動と倫理は別なんだ、すごい」と思い知りました。台風の映像、津波の映像は、心がざわつきながらも見入ってしまう。

『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4591147169/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&tag=n094f-22&linkCode=as2&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4591128601" target="_blank">図解絵本 工事現場</a>』より、地下式LNGタンクの基礎工事。「コンクリートの圧送器(壁面にアームを伸ばしている機械)も沢山描きました。クライマックスの第一波コンクリ圧送部隊が全滅したのが切なかったです。大変な技術を持った決死隊だと思うんですけど、積み上げた経験と技術が一振りで…」(談)
図解絵本 工事現場』より、地下式LNGタンクの基礎工事。「コンクリートの圧送器(壁面にアームを伸ばしている機械)も沢山描きました。クライマックスの第一波コンクリ圧送部隊が全滅したのが切なかったです。大変な技術を持った決死隊だと思うんですけど、積み上げた経験と技術が一振りで…」(談)

 溝渕先生は新宿でご覧になった、そうですか。私は、立川(シネマシティ)の「(極上)爆音上映」で見ました。そう、絶好の場所(笑)。見終わった後、映画館を出たら、街が変わって見えたのを覚えています。ビルの後ろに怪獣がいそうなあやうい世界になってしまいました。そういえばもろもろ危ういままでした、ということを思ったといいましょうか。初代ゴジラも、ビキニ環礁の核実験の後だけに、似たリアリティを当時のお客さんはきっと感じたんだろうな、と思いましたっけ。

 まだその気分がちょっと続いていて、クルマでトンネルを走るときに「なにこれなにこれ」とか、ちょっと言いたくなります。なりません?(笑) やっぱり、現実を「そのまんま」表現してやろう、という気持ちがこもった作品は面白いし、後で見返したときも発見があって楽しいんですよね。自分も及ばずながら、そう思って描いてます。(談)

モリナガ・ヨウ イラストレーター。今年、『築地市場: 絵でみる魚市場の一日』で第63回産経児童出版文化賞・大賞を受賞。日経ビジネスオンラインでの記事は「すみません、築地市場、なめてました!」をどうぞ。

読者の皆様へ:あなたの「読み」を教えてください

 映画「シン・ゴジラ」を、もうご覧になりましたか?

 その怒涛のような情報量に圧倒された方も多いのではないでしょうか。ゴジラが襲う場所。掛けられている絵画。迎え撃つ自衛隊の兵器。破壊されたビル。机に置かれた詩集。使われているパソコンの機種…。装置として作中に散りばめられた無数の情報の断片は、その背景や因果について十分な説明がないまま鑑賞者の解釈に委ねられ「開かれて」います。だからこそこの映画は、鑑賞者を「シン・ゴジラについて何かを語りたい」という気にさせるのでしょう。

 その挑発的な情報の怒涛をどう「読む」か――。日経ビジネスオンラインでは、人気連載陣のほか、財界、政界、学術界、文芸界など各界のキーマンの「読み」をお届けするキャンペーン「「シン・ゴジラ」、私はこう読む」を開始しました。

 このキャンペーンに、あなたも参加しませんか。記事にコメントを投稿いただくか、ツイッターでハッシュタグ「#シン・ゴジラ」を付けて@nikkeibusinessにメンションください。あなたの「読み」を教えていただくのでも、こんな取材をしてほしいというリクエストでも、公開された記事への質問やご意見でも構いません。お寄せいただいたツイートは、まとめて記事化させていただく可能性があります。

 119分間にぎっしり織り込まれた糸を、読者のみなさんと解きほぐしていけることを楽しみにしています。

(日経ビジネスオンライン編集長 池田 信太朗)

■変更履歴
大変遅ればせになりましたが、「沈埋函」について触れていたサイトのURLを追記させていただきました。 [2016/09/26 13:30]
まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。