5月13日、政府は企業に求める今夏の消費電力削減幅を15%にすると決定した。4月中旬の時点で想定されていた「25%削減」と比べれば大幅に緩和されたものの、依然として厳しい目標であり、安堵はできない。IT企業やデータセンター事業者など約120社が加盟する日本データセンター協会は、データセンターに対する節電の緩和を引き続き政府に要請する考えだ。

 データセンター事業者やIT部門には、東日本大震災後に解決しなければならない課題が次々に出てきている。地震直後は、自家発電装置の燃料確保に奔走した。停電による稼働停止という不測の事態を回避するためだ。もちろん多くの事業者が燃料供給会社との間で優先供給契約を結んでいるが、実は大震災から調達まで1週間程度かかった事業者もいる。

 それでも確保の見通しがたったことで、「一安心」と思っていたら、電力供給不足が表面化し、計画停電が実行された。数回の停電に見舞われた首都圏にデータセンターを持つユーザーもいた。自家発電装置で乗り切った企業があった一方、ユーザー部門にサービス停止を伝えた企業もあった。だが、24時間365日運転を継続させるデータセンター事業者はそうはいかない。

「電力不足を補う手段としては、自家発電装置を使いたくない」

 そこに政府が夏場に向けて、消費電力の15%削減を要請してきた。東京電力エリア以外の地域(大阪など)に一部の処理を移す、自家発電装置を使う、冷却装置を省エネタイプに切り替える、一部設備を停止する、など様々な方法を検討しているが、「これで大丈夫」と安心できる対策を見つけるには至っていない。むしろ、データセンターにおける節電の難しさを再認識することのほうが多いかもしれない。

 とにかくデータセンター事業者やIT部門はITインフラ設備を再点検する必要がある。燃料がどの程度あり、何時間稼働できる自家発電装置なのか、冷却に必要な水を確保できるか、稼働持続に必要な人員をどう確保するのか、どの程度の震度まで耐えられるのか、水害発生の危険性はないのか、センター設置場所近辺に液状化現象が起きないのか、など数え切れないほどある。ガートナージャパンのアナリストは「燃料消費のシミュレーションを行うべき」と助言する。例えば2500kWのガスタービン発電機なら1時間あたりの燃料消費量は約1000リットルで、備蓄燃料の量が6万リットルなら発電時間は最大60時間になる。2日から3日程度は持つ計算になるが、これで乗りきれる、何らかの方法を考えなければならない。

 だが、ある事業者は「電力不足を補うための手段としては、可能な限り自家発電装置を使いたくない」と話す。本来、自家発電装置は大停電に備えるものだからだ。2006年8月の首都圏大規模停電では、復旧までに5時間近くかかった。電力不足を補うために平時に自家発電装置を使うと、いざというときに十分な発電能力(発電時間)を確保できなくなってしまうかもしれない。

 しかも、自家発電装置を使えば、部品交換などの修理が発生する。1時間あたり数十万円のコストもかかる。もし多くの事業者が自家発電装置に頼ることになれば、燃料の在庫があってもそれを運ぶタンクローリーが間に合うか、という物流手段まで考える必要が出てくる。自家発電装置を持つIT部門にも同様なことがいえる。

顧客データを不安定な環境で運用すべきでない…

 ここに来て大手IT企業や金融機関の多くは、顧客データを預かっている自社のデータセンターを節電対象から外す方針を固めた。もしデータセンターの消費電力を15%削減したら、業務やデータ保護に重大な支障を来たし得るとの判断がある。

 ただし、この方法を採る企業は、データセンター以外の部分で大幅な節電をしなければならない。かなり思い切った対策が求められるため、目標達成できるのかを危ぶむ見方もある。一方、データセンター専業の事業者はこの方法を採れない。当たり前のことではあるが、データセンター以外の部分で節電する余地がほとんどないからだ。

 5月下旬までに節電対策をまとめなければ、6月中旬から実行フェーズに移せないだろう。残された時間は少ない。