先日、どんな言葉にも宇宙をつけることで有名な京大宇宙総合学研究ユニットの磯部氏にインタビューをしていたところ、「宇宙ヨット」なるものがJAXAから打ち上げられていることを知った。

宇宙ヨットとは、太陽光の圧力を受けて燃料なしで航行する宇宙船である。
今回JAXAが打ち上げた「イカロス(IKAROS)」という名前の宇宙ヨットは、帆の一部が太陽光パネルになっている、世界ではじめての宇宙ヨットらしい。太陽に向かって帆を広げ、太陽電池から電力を受け取りながら、ゆっくりと宇宙を航行するのだそうだ。

2010年に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」は、エンジントラブルに見舞われながらもミッションを果たし、最後は大気圏で燃え尽きながら小惑星イトカワの粒子を地球に届けるというドラマチックな展開もあいまって、日本中の注目を集めた。

一方で、このイカロスも、すごい成果をあげているらしいのだが、「うまくいきすぎて、ドラマがないので注目が集まらない」らしい。ある意味ではやぶさよりもすごいかもしれないこのイカロスについて、JAXAイカロスプロジェクトリーダーの森治氏に話を聞いてみた。

森氏によると、イカロスは、宇宙ヨットの実証機として、「帆を広げる」「ヨットを加速させる」「向きを変える(軌道制御)」というミッションを持っていたらしいのだが、これらすべてを、半年で、完璧にこなしてしまったらしい。


「あまりに完璧すぎたので、2011年は、いろんな航行の小技習得に励んでいました」という余裕ぶり。

簡単そうに見える宇宙ヨットだが、実はそうでもないようだ。「宇宙ヨットという概念は100年前からあり、SF小説でもたびたび登場しています。これまで、JAXA、米国のNASA・惑星協会が宇宙ヨットを開発しましたが、いずれも実証には至りませんでした。イカロスによって、世界ではじめて、宇宙ヨットが実際に動くことが証明されたのです。」

ちなみに、「イカロス」という名前を聞くと、筆者は思わず「昔ギリシャのイカロスは〜」という、あの歌を思い出すのだが、あの歌によると、イカロスの結末は、ろうの羽根が溶けて死んでしまう、という、やや不吉な内容である。そんな「イカロス」という名前を宇宙ヨットにつけることに、周囲の反対みたいなものはなかったのだろうか?

「今回の場合、『はやぶさ』でプロジェクトマネージャーを務めた川口さんがイカロスという名前を非常に推されていました。」

スタッフの間でも、不吉だという思いはあったのだそうだが、「勇気1つを友にして」というイカロスの挑戦心にあやかりたいという思いもあり、また、宇宙ヨットの英語名「Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun」を略すと「IKAROS」になる、ということもあり、最終的には皆が納得して決まったのだそう。
ちなみに森氏は「SPHINCS(スフィンクス)」を推していたらしい。

ちなみに、あまりにも完璧すぎたイカロスだが、最近、姿勢制御に使うガスジェットの燃料が切れて、太陽の方を向けなくなり、停電して地球との通信がとれなくなる冬眠モードに移行していたそうだ。

最近、電源が復活し、イカロスが見つかったのだが、イカロスがいた場所は、ヨットで加速した分も含めた、JAXAが停電直後から計算していた場所と完全に一致したらしく、そういう意味でもイカロスは完璧なのであった。
(エクソシスト太郎)