超超低予算自主映画のスタッフをどう選ぶか――『見えないほどの遠くの空を』の場合

榎本憲男★『サイケデリック・マウンテン』絶賛発売中！！！ @chimumu

0.超超低予算マイクロバジェット自主映画を監督しようと思い立ったとする。手元には精魂込めてかき上げたシナリオがある。とりあえず資金の目処（この場合は、300万とする）もついた。次はスタッフ集めだ。では、このスタッフをどのように決めていくかということについて思うところを連投します。

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1.自主映画のスタッフィングを３つに分けてみよう。①自主映画を何本か撮っていて、その仲間がいる。今後も彼らと撮っていくつもり。②尊敬して、是非一緒にできたらという憧れのプロのスタッフがいるが知り合いではない。③まったくイメージなし。である。恥ずかしい話だが、僕は③であった。

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2.自主映画のスタッフで重要なのは、僕が思うに、１にカメラ、２に録音・整音である。まずここにあるレベルの技を持った人間を配することが大事なのだが、自主の人達は①を選ぶことが多い。特に５０万円以下コースの自主映画では、他の作品では監督をやった者がカメラを廻すということがよくある。

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3.昔でいうと『錆びた缶空』（松井良彦監督）のカメラを石井聰亙が、『恋のたそがれ』（山口貴義監督）のカメラを塩田明彦が廻している。『見えないほどの遠くの空を』の助監督の村松英治は自主映画の監督（『東京うんこ』）だが、『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』ではカメラを担当している。

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4.あるいは「俺の映画はコイツのカメラなしにはあり得ん」というような“バンド的人間関係”がある場合はその体勢でいくのもありだろう。これは、ＰＦＦ世代の傾向である。僕の世代までは、上の人間に虐められたりして喜んでいたわけであるが、今の世代は横との繋がりを重視する。

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5.では、一緒にやった仲間もいるが、心中では「あの人に撮って欲しい」というような憧れの人がいる場合はどうするか？　俺の考えだと、ダメモトでシナリオを送ってみるのがいいと思う。

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6.もちろん高いギャラは払えないし、場合によったら怒られるかも知れない。が、こんな例もある。まだデビュー前の豊島圭介（『ソフトボーイ』等）の自主映画『明るい場所』のカメラは田村正毅だ。どうやって口説いたか知りたい人は、@toyoshima1113をフォローして聞いてみて下さい。

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7.川上皓市（日本撮影監督協会副理事）は「ギャラなんかよりホンと本人の面構えが大事」だと言っていた。若手で精力的に活躍している早坂伸（@shin_hayasaka）も同じようなことを言っていて、これに加え、劇場で上映できるだけの企画性があるかどうかを見るとのことである。

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8.僕は、①②のどちらでもなかった。②については、映画を観ていて、カメラワークに感心することはある。が、それがカメラマンのものなのか監督の指示なのかわからない。映像に注目することはあっても、カメラマンが誰かを意識する習慣はあまりなかった。要するに勉強不足だったわけである。

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9.ただ、僕が思っていたのは、カメラはいい機種で撮りたいなあということだった。少し前までは、自主映画でよく使われているデジタルカメラはパナソニックのDVX だったが、僕はこのカメラの画質になじめず、噂になり始めていたRED ONEというカメラで撮影できないかとぼんやり考えていた。

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10.その時、自分の教え子から「REDを個人所有しているカメラマンに撮ってもらった」と聞いて、「なぬ」と思って編集中の画を見せてもらいに行った。その画像の質感が気にいったので（作品全体は未見）、カメラマンの連絡先を教えてもらった。

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11.メールで脚本を送ったら「一度会ってお話ししましょう」ではなくて「やります」という返事が戻ってきた。これはなんというノリのよさだろうといささかたじろきながら会った。これが『見えないほどの遠くの空を』の撮影監督の古屋幸一（@kotikoti1974）との出会いである。

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12.古屋幸一の師匠に当たるのは高間賢治撮影監督である。勉強不足の俺も高間さんの名前は知っていた。撮影監督という呼称を日本で広めるきっかけを作ったカメラマンであり、蛍光灯照明を日本に普及させた人である。高間さんのチーフなら腕もいいのではないかとざっくりと予想した。

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13.つまり、本格的な技師デビュー前ではあるが、プロの現場を助手としてかなり現場をこなしている人間に頼んだのである。そして、さっき早坂伸が言っていたことに関連するが、頼まれた方にもチャンスと受け取ってもらえるように、完成したら必ず劇場公開するつもりだということを話した。

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14.ラッキーだったことは、カメラ以外にもかなり豊富に機材を古屋が個人で持っていたことである。モニターやジブまで持っていたのには驚いた。僕が書いた絵コンテを見て「ここはスティディカメラで撮るのがいいですねえ」と言っていたので笑っていたが、本当に撮影直前に購入してしまった。

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15.古屋幸一はとにかくノリがよく、その後『見えないほどの遠くの空を』の主演の森岡龍の卒業制作も廻すことになる。興味ある人はオファーしてみて下さい。以上が、少ない予算で劇場用作品として通用するレベルの映像を確保するために僕が取った方法である。

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16.古屋の性格が明るくて角がないことも僕にとってはよかった。腕はいいけど、ものすごくひねくれていて嫌みばかりいうカメラマンだと、俺のような経験のない新人（歳は食っているけど）はキツイ。

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17.ただ、こういう例もある。『アメリカ・アメリカ』でエリア・カザンに対して撮影監督のハスケル・ウェクスラーは撮影中ずっと侮蔑的態度をとり続け、二人の仲は最悪だったが、出来上がった映像は素晴らしい。撮影中の人間関係などどうでもいいのかも知れない。仲がよければいいってものでもない。

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18.監督と撮影監督の関係でよくわからなかったのが、どちらがカット割りをするかということだった。実際はこれはケースバイケースである。これは正直にどうしたいかを古屋に聞いた。「どっちでもいいですよ」というのが古屋の意見だった。そこで俺が割ることにした。

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19.カット割りと言えば編集だ。自主では、監督が編集をやる場合の方が多い。たしかに、自分でやればその分の予算を他に廻せる。これは大きい。実際、低予算で自主映画を多く撮って来た冨永昌敬監督（『乱暴と待機』等）にちょっと予算のバランスが悪いと注意された。これはまた別につぶやく。

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20.ただ、僕は、編集のソフトの定番、Finalcut proを扱えなかった。いや、扱えたとしても、撮入前にカット割りの意見を聞いたりしたかったので、編集マンは必要だったと思った。そこで紹介されたのが石川真吾（@shingoishikawa）である。

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21.石川真吾はぴあフィルムフェスティバルの入選者で、今は主として編集をやっている。低予算映画の現場ではよく知られているらしく、自主で映画をやっている連中から「編集は石川さんですね」と言われた。また、石川もTwitterで僕をフォローしてくれていたことを会った時に知った。

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22.まず、撮影の古屋と編集の石川とで僕の書き上げた絵コンテを見ながら繋ぎを検証して、意見をもらった。その時に石川に助言されたのは、絵コンテ以外にも寄りの絵を色々とっておく方がいいというものだった。

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23.絵コンテで繋がるはずだと思っていても、実際に繋いでみると、繋がらないことがあるのが映画の恐ろしさであり、そういう時もアップショット一発あればなんとか急場をしのげることが多いというのが石川の助言である。

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24.粗つなぎの段階で「ここ、アップ入らないの」と言うと「そういうショットはない。あれば繋いでる」といわれることは僕もプロデューサーとして何度か経験していた。確かにそうかも知れない。が、この親切な助言が彼に不幸を招き寄せてしまったのである。