新潟県知事選で原発再稼働慎重派の米山隆一氏が当選する一方、核燃料サイクルの中核を担うはずだった高速増殖炉「もんじゅ」について、廃炉を含めた抜本的な見直しが決まるなど、国内の原子力政策に不透明感が漂っている。特に「もんじゅ」の廃炉に向けた方針は、日本が進めてきた核燃料サイクルが大きな転換点にさしかかっていることを示唆している。 国際エネルギー機関(IEA)の元事務局長で、現在は笹川平和財団の理事長を務める田中伸男氏のインタビュー前編では、ロシアから送電線を日本に引いて電力を輸入する構想や東京電力の生き残り策などについて聞いたが、後編では核燃料サイクルの今後について話を聞く。

<b>田中伸男(たなか のぶお)</b><br /> 1950年生まれ。73年通商産業省(現・経済産業省)入省。通商政策局通商機構部長、経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長などを経て、2007〜11年に国際エネルギー機関(IEA)事務局長、2011〜15年に日本エネルギー経済研究所特別顧問。2015年4月から笹川平和財団理事長(写真:陶山 勉)
田中伸男(たなか のぶお)
1950年生まれ。73年通商産業省(現・経済産業省)入省。通商政策局通商機構部長、経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長などを経て、2007〜11年に国際エネルギー機関(IEA)事務局長、2011〜15年に日本エネルギー経済研究所特別顧問。2015年4月から笹川平和財団理事長(写真:陶山 勉)

原発については再稼働の問題だけではなく、核燃料サイクルも岐路に立たされています。高速増殖炉「もんじゅ」も廃炉の方針が決まりました。

田中:日本にとって、原子力はエネルギーの安全保障上、必要だと思います。ただし、原子力が必要な理由はそれだけではありません。地球温暖化の問題で、二酸化炭素の排出削減には絶対に欠かせない。

 ただし、福島の事故以降、これまでのような体制で原子力政策を進めても、国民の納得は得られません。重要なのが、原子力のサステナビリティーです。

 1つ目は、安全上の問題です。「絶対」という安全はないにしても、できる限りの受動的安全性(事故が発生した際に電力など人工的な動力を用いず、自然の力で事態を収束させる仕組み)を備えなければなりません。2つ目は、高レベル放射性廃棄物や使用済み核燃料の処理の問題。これがきちっとできないと、国民は納得しません。そして3つ目が、核兵器の製造に活用されないという点です。

 これら3つを満たす原子力の技術、あるいはシステムを国民に提示しなければなりません。それなくして、国民は原発の再稼働には納得しないでしょう。日本には、高速増殖炉「もんじゅ」や六ヶ所村(青森県)の再処理施設があるわけですが、なかなかうまく稼働して来なかった。

 使用済み核燃料を再処理してMOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物
燃料:使用済み核燃料を再処理して分離したプルトニウムとウランを混ぜて作った燃料)にしても、それを燃やすための原子炉がなかなか再稼働しない。しかも、本来、MOX燃料というのはコストが高い。日本の核燃料サイクルは、もんじゅを動かすことが前提でしたが、もんじゅが動かないので、とりあえずMOX燃料を作り、既存の原子炉(軽水炉)で燃やそうとしたわけです。それがいわゆる、「プルサーマル」と呼ばれるものです。

 ところが、福島の事故以来、MOX燃料を燃やすための原子炉が再稼働しない。それから、MOX燃料を作っても、結局、高レベル放射性廃棄物はゴミとして出る。そのゴミは10万年もの期間、地下に埋める必要がありますが、その場所も決まらない。

 ようするに、核燃料サイクルのそれぞれのパーツが、国民を納得させるレベルまで達していないのです。したがって、今のまま「大丈夫です」といくら説明しても、「わかりました」と国民は納得しないでしょう。

核燃サイクルを維持に「統合型高速炉」の活用を

こうした状況を解決する技術があると、主張していますね。

田中:私は、「統合型高速炉」という技術に注目しています。米国のアルゴンヌ国立研究所の技術で、高速炉に乾式再処理技術を組み合わせた、プルトニウムが外に出ない形の核燃料サイクルを実現するものです。核不拡散の観点から優れていると同時に、安全性も高い。1986年に全電源を喪失させる実験をしているのですが、無事に原子炉が停止しました。さらに、この統合型高速炉から出てくる核のゴミは、天然ウラン並みに毒性が落ちる期間が300年程度と、これまで30万年から10万年と言われていた状況から大幅に短くなる。

 私は、こういう原子炉と再処理を一体にした小型の施設を各地方に配置し、地方分散型、地産地消型で原子力を活用する方が良いのではないかと考えています。六ヶ所村だけに作るという発想は、限界だと思います。高レベル放射性廃棄物を捨てる場所が見つかればよいですが、なかなか難しい。むしろ、原子炉で出たゴミは、その地域で処分するという発想に転換した方がいいでしょう。

 300年で天然ウラン並みに毒性が落ちるゴミなら、地上でも地下でも、管理するのはそれほど難しくない。統合型高速炉を各地に作れば、これまでたまっている軽水炉の使用済み核燃料をそこで処理していけるオプションができる。地産地消型の原子力は、将来の1つのビジョンになりうるのではないでしょうか。

 また、福島第一原子力発電所から、溶け落ちて固まった燃料デブリを取り出した際、それを処理する技術が今後、必要になります。それにも、統合型高速炉は活用できるでしょう。

もんじゅの時のように、莫大な資金を投じてもうまくいかなかったということになる恐れはありませんか。

田中:それはおっしゃる通りですが、やってみないと分かりませんよね。アルゴンヌではある程度の実証がなされていますので、実験してみる価値はあるという気がしています

 原子力を将来も活用するのであれば、今の軽水炉の技術のままでよいのでしょうか。安全性や核のゴミの問題を考えれば、早いうちに新しい技術に切り替えていく必要があるでしょう。2018年には日米原子力協定の改定期を迎えます。日本の核燃料サイクルを日米原子力協定の枠組みの中で続けていくには、きちっとしたモデルがないとダメです。

 日本が核燃料サイクル路線を続けるのならば、具体的にどういうやり方で何をやっていくのかというビジョンを示さないと、協定の改定や延長は今後、難しくなっていくのでないかと心配しています。

 米国にも、日本がプルトニウムを持つのはおかしいから再処理なんてやめろという人がたくさんいますよ。米国が気にしているのは、プルトニウムが蓄積することによる核不拡散上のリスクです。統合型高速炉でプルトニウムをゴミとして燃やしてしまうことに、米国が異を唱えるとは思えません。

プルサーマルで出る「核のゴミ」に課題も

もんじゅの失敗は核燃料サイクルの破綻を意味し、再処理もやめるべきだという意見もあります。電力会社はMOX燃料を使ったプルサーマルの維持を主張していますが。

田中:そうですね。プルサーマルはやったらいいんですよ。それをやらないと、せっかく作った施設が無駄になりますから。コストは高いですけどね。

 ただ、問題は、プルサーマルをやると、使用済みのMOX燃料が出てきますよね。これは、六ヶ所村の施設では処分できず、直接処分するか、または別の再処理工場を作らなくてはなりません。使用済みのMOX燃料を直接処分するならば、最初から使用済み核燃料を再処理してMOX燃料など作らずに、直接処分しておけばよかったわけです。もし、プルサーマルを続けるのなら、使用済みMOX燃料を再処理する新たな施設を作ってプルトニウムを使っていくというプロセスを繰り返すことになる。つまり、第2再処理工場、第3再処理工場が必要になってくる。

 ですので、そうならないためにも、統合型高速炉を作って、使用済みMOX燃料も燃やしてしまえばいい。

 もんじゅについて言えば、「もんじゅは危ないから潰してしまえ」というのは、正直もったいないと思っています。例えば、統合型高速炉は金属燃料を燃やすのですが、もんじゅで金属燃料を燃やす実験ができるのではないでしょうか。従来通り発電を続けますというのでは国民の理解は得られないでしょうが、次の核燃料サイクルのための技術開発に生かすという方向性も、議論してもよいでしょう。

仮に統合型高速炉を今から実験し始めたとして、いつ頃から作り始められるのでしょうか。

田中:どう考えても2030年代でしょうね。軽水炉の寿命は40年、延長しても60年という中で、2030年代には次々と廃炉が始まっていきます。その時までに、次に何をするのか考えておかなければなりません。

 もちろん、再生エネルギーは技術革新が進み、コストは下がっていくでしょう。バッテリーの技術も進む。核融合も実現するかもしれない。しかし、それでも原子力なしでいけるのかというと、苦しいのではないでしょうか。

 そういう意味で、持続可能な原子力のオプションも持っていた方がいい。原油もガスも、再生エネルギーも、うまくいかないという事態が出てくるかもしれない。そういう時のために、原子力というオプションは残しておいた方がいいと思います。
   エネルギー問題に関する議論は、石油の価格の話から、最終的には原子力の是非まで総合的にしないと、完結しない。中東やロシア、原子力など、すべてのピースは関連しているのです。それをぜひ、皆さんに理解してもらい、幅広い議論につなげていただきたいと思います。

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