シニア世代の財布のひもを緩ませる――。旅行業最大手のJTBが3月から60歳以上をターゲットにした商品戦略に本腰を入れ始めた。その名も「新・日本の旅情 琥珀」。JTBの首都圏の店舗では、最も目のつくところにパンフレットが置かれている。

 力の入れ方は最初のページから歴然としている。「JTB創立100周年特別企画」の文字とともに、田川博己社長の挨拶が写真入りで掲載されているのだ。これまで、JTBのパンフレットで社長が顔写真付きで登場したことなどなかったという。

 驚くのが価格。北海道5日間の旅が30万円、栃木県那須高原の二期倶楽部に4泊5日で「二人で100万円」など、海外旅行よりも高額な商品が並んでいる。JTBの担当者は、「ベテランの添乗員が付き、ホテルも食事も厳選したもので、これまでの団体ツアーとは異なる。参加者にきっと満足してもらえるはず」と自信をのぞかせる。

 北海道旅行の目玉は寝台特急の「カシオペヤ」に乗ってザ・ウィンザーホテル洞爺の「ミッシェル・ブラス トーヤジャポン」でフレンチのフルコース(ランチ)を食べるというもの。どちらも予約を取るのが難しいことで知られるが、「退職記念の夫婦や永続勤務の表彰金を使ったシニアカップルなどから予約が入っている」(担当者)という。

 発売1ヵ月にして、カシオペヤを使った旅行には60人の予約が舞い込んでいるほどだ。

 今のところは、新聞広告を見た、あるいは店頭でパンフレットを見たという客がほとんどだが、富裕層への売り込みも始めている。クレジットカード会社の会員向けにダイレクトメール(DM)を送付するほか、JTBで過去に旅行に参加したことがある人へもDMなどでアプローチしている。特にクルーズ客は、客層が「琥珀」と重なるため、特に力を入れている。

 さらには、JTBの法人営業のセールスが、企業の社長や役員に直接、売り込むことも想定している。「この旅行に参加して高いだけのことはあると納得してもらえれば、社員旅行などの次の仕事につながる可能性もある」(担当者)と見ているからだ。

 円高で海外旅行が脚光を浴びる一方で、おカネと時間に余裕があるシニア世代のなかには、「持病が心配なので海外には行きたくない」「海外旅行はおっくう」という層が確実に存在する。JTBはここに目をつけたわけだ。

 果たして、高額旅行が本当に売れるのかどうか、JTBのマーケティング力が試される。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)

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