ITマネージャーがやめるべき言動を改善する「フィードフォワード」とは何か成功するITマネージャーの「人づきあい術」

ITマネージャーがやめるべき20の言動を以前に解説したが、これを改善するにはどのようにすればいいのだろうか。「フィードフォワード」という方法を紹介したい。

» 2012年10月10日 08時00分 公開
[青木裕,ITmedia]

 前回はITマネージャーがやめるべき20の言動について解説した。今回は、その20の言動を改善していくための方法である「フィードフォワード」を解説する。

変えられるのは自分と未来だけ

 「フィードフォワード」とは、「フィードバック」の反対の意味を持つ言葉である。私たちは、自分の言動について気づいていないことがたくさんある。ITマネージャーとして成功するためには、周りからのフィードバックを積極的に受け、自分自身を変革していくことがとても重要だ。

 若い時は、本人を成長させるための指導という形で、周囲から「フィードバック」を受ける機会が多くある。本人も自分を変えようという意識があるため、「フィードバック」を受け入れやすい。

 ところが、ある程度の経験を積むと、周囲からの「フィードバック」は少なくなる。周囲は「こんなことを言うと嫌われるのではないか」とおそれ、気づいたことがあっても、口に出さなくなる。そもそも、人は「フィードバック」を素直に受け入れにくい傾向にある。特に上司にとって、部下からの「フィードバック」は不愉快なことこの上ない。これは日本企業に限ったことではなく、万国共通の感覚である。

 エグゼクティブ・コーチングの第一人者であるマーシャル・ゴールドスミス氏が来日したときに、直接聞いた話を紹介しよう。

「もし、自社のCEOや自分の上司が、『今日は無礼講で自分に対して何でもフィードバックしてほしい』と言ったとしたら、まずほかの人に順番を譲れ」

 つまり、CEOや上司が「フィードバック」を受け入れようという気持ちでいたとしても、「フィードバック」はCEOや上司のプライドを傷つけ、その結果(欧米企業であれば)、クビになってしまうというのだ。

 もちろん、社員からのフィードバックを真摯に受け止めるCEOや上司もいるだろう。だが、それはレアケースであるという認識を持っていた方が良い。

 日本企業においても、同じことが言える。弊社で開催している公開セミナーの参加者に聞くと、上司に「フィードバック」をしたことで左遷された経験があるという人が100人のうち必ず数人はいる。

 「フィードバック」が、ときに解雇や左遷をさせるほど上司にとって受け入れにくい理由は何だろうか。正しい「フィードバック」のやり方――事実のみを伝え、解釈や判断を交えない――をしていないということもあるだろう。しかし、根本的な障害は「フィードバック」は変えることのできない、過去に起こった事象に対して行われるということである。「他人と過去は変えられない。変えられるのは自分と未来だけ」なのだ。

未来に対する「フィードフォワード」

そこで、「フィードバック」の代わりにご紹介したいのが「フィードフォワード」という手法である。「フィードフォワード」とは簡単に言えば、「自分が変革したいテーマについて、周囲からアイデアをもらうこと」である。

フィードバックとフィードフォワードの違い
フィードバック フィードフォワード
過去 未来
過去にどうしたかを教える 将来実践できるアイデアが出る
誤りや欠点を話す 問題ではなく解決策に焦点を当てる
優位に立つ人が批判する 職場の仲間が互いを助け合う
その人固有の問題として捉える その人固有の問題として捉えない
苦痛、恨まれる、仕返し 許可、守られる

 「フィードフォワード」は2人1組で行う。手順は次のようなものだ。

  1. ITマネージャーがやめるべき20の言動(第3回目のコラムを参照)の中から変えたいと思う言動を一つ選ぶ。例えば、「人を傷つける破壊的コメントをする」など(複数同時に変えることはできない。欲張らず1つに絞る)
  2. 1で選んだ言動を改善するためのアイデアをくださいと言う
  3. 聞き手は、思いついたアイデアを伝える
  4. 話し手はアイデアをメモに取り、「ありがとうございました」と言う(アイデアに対して評価や反論をしたり、感想を述べたりしないこと。ぐっとこらえて「ありがとうございました」とだけ言う)
  5. 役割を交代して2から始める

 ここでのポイントは、4の「ありがとう」を言うことにある。聞き手(アイデアを言う側)は、どんなアイデアを言っても「ありがとう」と言ってもらえる安心感がある。「改善するアイデアをください」と言われたからといって、必ずしも的を射たアイデアを言えるとは限らない。相手の役に立とうと思えば思うほど、むしろ悩んでしまうだろう。

 そして、やっとの思いで口にしたアイデアに評価や反論を受けたとしたら、アイデアを言った人はどう思うだろうか。おそらく、この人を支援しようとはもう二度と思わなくなるのではないだろうか。

 一方、アイデアをもらう側にもメリットがある。最後に「ありがとうございました」とだけ言えば良いので、アイデアに対して集中して聞くことができるようになるのだ。人の話を聞くのが苦手なリーダーが実は多い。他人の話を聞きながら、自分が次に言うことを考える癖がついてしまっていたりする。「フィードフォワード」を実践して、久しぶりに相手の話に耳を傾けた気がしました、と感想を言われる極端なリーダーの方もいる。

 「あなたにフィードバックをしたい」と言われて、楽しみに思う人はいないと思うが「フィードフォワード」は実に楽しい。なぜなら、人は未来に対して実践的なアイデアをもらうことが好きだからである。

 最後に「フィードフォワード」を朝礼で応用する例をご紹介する。「フィードフォワード」はシンプルなプロセスなので、応用ができる。ある大手企業のIT部門では、前述の2人1組ではなく、次のような方法で朝礼に取り入れて実施している。

  1. 朝、出社したら、メンバーは業務を開始する上で困っていることをホワイトボードに書き出す
  2. 朝礼で1のホワイトボードを見ながら、解決のアイデアがある人は伝える(朝礼が始まる前に、解決のアイデアを書き込んでおいても良い)
  3. 困っていることに対してチーム内からアイデアが出ない場合は、リーダーが関連しそうな他部門に聞きに行く

 以上のことを朝にするだけだ。ちなみに、ホワイトボードのことは「もやっとボード」と名づけているとのこと。ネーミングも親しみがあり、覚えやすい。実に素晴らしい活動である。

 「フィードフォワード」でアイデアを数人からもらうと、その中に1つくらいは、これは良いかもしれないと思うものが出てくる。これこそ、対話の力である。時間に追われ、生産性を追求するプロジェクトの中では、自然に対話をすることは難しくなっている。

 「話しかけたら迷惑がられるのではないか」「話し声が周りに迷惑になるのではないか」「無駄話はするなと言われているが、この会話も無駄になったらどうしようか」「こんなことを聞いたら、バカにされるのではないか」。職場から会話が少なくなるほど、相手に対して不安を感じ、ネガティブに考える傾向が強まる。すると、ますます会話をしなくなるという悪循環に陥る。

 「フィードフォワード」で意図的にメンバー同士を対話させ、かつアイデアを出し合うということを実践してみてはどうだろうか。今の職場にはとても必要なことのような気がしてならない。

 次回は「フィードフォワード」で得たアイデアを行動として定着化させる「ピアコーチング」について解説しよう。

執筆者プロフィール

青木裕(あおき ゆう)、ビジネスコーチ株式会社執行役員 ビジネスコーチ アジア 取締役。SIerにてプロジェクト運営にコーチングを導入。常駐先で運営手法が評価を得て、コーチング研修を実施。2006年、ビジネスコーチ株式会社に参画。2010年より現職。本連載記事を再編集した電子書籍「成功するITマネージャーの『人づきあい術』」が主要電子書店で入手可能です。


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