補正、防災・復興と企業支援が柱 膨らむ公共事業
政府は15日に閣議決定した2012年度補正予算案で、復興・防災対策と企業向けの支援策を二本柱に景気の底上げを狙った項目を並べた。緊急経済対策としてインフラ補修事業を積み増したほか、起業支援や技術革新を促す事業を盛り込んだ。だが急いで金額を膨らませた面は否めない。従来型の公共事業が含まれるなど、長期的な経済成長への「呼び水」になるかは疑問も残る。
「防災」に名を借りる懸念も
補正予算案の柱は3兆8000億円近くを投じる「復興・防災対策」で、公共事業の大幅な積み増しにつながった。このうち2兆2000億円を老朽化した道路や下水道などの点検・補修や建物の耐震化への支援などに振り向ける。地方自治体向けには使い道を補修や点検などに絞った「防災・安全交付金」(5498億円)を創設する。
事業の中身を吟味すると、道路の未開通区間(ミッシングリンク)の整備費にも623億円を計上しており、主要都市間をつなぐ道路を緊急に整備する。太田昭宏国土交通相は「無駄な公共事業は必要ない」と強調するが、「防災」に名を借りて従来型の公共事業が膨らむ懸念はぬぐえない。
東日本大震災の被災地復興には約1兆6000億円を拠出する。津波の被災地の住宅再建に対する新たな支援に1047億円、緊急雇用対策に500億円を振り向ける。
だが大半は事実上の来年度以降への「先送り」だ。約1兆円は来年度以降に予定していた復興債の償還を前倒しする。浮いたお金で、来年度以降の新たな事業に備える。被災地では人手や用地不足のため事業が進まず、これまでに計上した予算の消化が進まない状況が続いているためだ。
福島の関連では、東京電力福島第1原子力発電所の廃炉支援に850億円を計上。放射性物質を分析する拠点と遠隔操作ロボットを開発する施設を福島県内に整備する。研究者や技術者らの働く場をつくる狙いもある。
ベンチャー1万社創出めざす
経済産業省は経済対策としてベンチャー企業1万社の創出を目指す。エネルギーや創薬、3次元プリンターなど次世代の製造業を担う研究開発型ベンチャーに総額100億円の助成事業をする。地域のニーズに応じて医療・福祉やIT(情報技術)などの会社をおこす女性・若者にも、起業費用の一部を補助する。
省エネに役立つ設備投資に2000億円を補助し、少なくとも1兆円を超える民間設備投資の促進を目指す。新しい設備で省エネを進め、産業の空洞化防止も狙う。電気自動車の普及に向けては、充電のインフラを全国約10万カ所整備する。
産学連携や防衛にも重点配分
科学技術予算では、文部科学省が5080億円をイノベーション(技術革新)関連に充てる。目玉が、国が大学や独立行政法人の研究開発に1800億円を出資する新制度だ。産学連携による実用化研究を促し、大学などが持つ優れた技術を成長や企業の収益改善につなげる。
新制度では東京大学や京都大学などの国立大学に、今年度内に1200億円を出資。慶応大学などの私大向けには、科学技術振興機構を通じて600億円を拠出する。
12年のノーベル賞受賞で注目を集めたiPS細胞を使った再生医療や創薬研究向けには214億円を助成する。山中伸弥京都大教授が所長を務める京都大iPS細胞研究所と神戸にある理化学研究所に新しい研究棟を建設し、治療用細胞の保管や臨床研究に活用する。
安倍晋三首相の強い意向で、防衛予算にも重点配分する。防衛省は緊急経済対策として戦闘機の近代化・改修や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)のミサイル購入など約1805億円を計上した。
大規模災害の際の物資輸送や偵察、生活支援のための装備費なども要求。装備品計上について防衛省は「防衛産業は裾野が広く、経済効果はある」と説明する。自民党からは「装備品の拡充が経済対策になるのかと野党が追及してくる」との懸念も出ている。
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