果たして映画『BECK』は奇跡を起こせたのか!?

BECK』鑑賞。それにしても同時期に『BECK』と『NECK』を公開するなんてややこしいのぅ。

のっけから感想を言うと、TVドラマ『BECK』のダイジェスト版と言った感じ。

もちろん『BECK』はドラマ化なんてされてないんだけど、とても映画らしい重厚な絵作りがされてないために、スケールの大きさを到底感じず、終始映画を観ているという感覚にさせてくれない。実際出てる役者さんたちも『メイちゃんの執事』や『ルーキーズ』で観た人たちばかりで、いわゆる映画俳優!という人がメインで出てないのもその要因の一つなんじゃないかと。2時間30分近くある長尺な作品だが、その長さを感じさせなかったのも、ドラマっぽい断片した話の連続性があったからで、クライマックスのライブシーンはわざわざフジロックフェスの会場で撮影したのに、フェス感すらなかったのは特筆に値する。

例によって登場人物のセリフ回しは不自然。業界関係者やヤンキーの描き方はすっかすかで、いわゆるステレオタイプなキャラクターがゴロゴロ出て来る。品のない特別出演たちは映画の大作感を一気に萎えさせ、特に品川祐有吉弘行は何の隠し味にもなってない。それでも、もたいまさこの隠れキャラっぷりはすごかったが。

映画版の『カイジ』は冒頭でドカーンと「これはマンガの映画化だ!!!」という刻印が押されていたために何をやってもOKな世界にうまーく引きずりこんだが、『BECK』ではテンションも中途半端でナイーヴな描写からスタートし、時にコミカルに、時にちょーシリアスになるんで、真面目にやってるのか、不真面目にやってるのか分からなかった。ハッキリ言って原作はそこまでシリアスではないし。

さらにマンガでは、毎週毎週引き延ばさなければならないため、様々な仕掛けや驚きを絶やさなかったのだが、これが映画になると2時間ちょっとに凝縮されているので、決して起こらないはずの奇跡が猛スピードで連発される。原作を読んでれば気にならないだろうが、何も知らない人が観たら絶対におくちぽかんなのではないかなと思う。

あと、これは映画とは直接関係ないんだけど、『BECK』はそもそも主題歌選びから失敗している。

オープニングにレッチリの“Around The World”と、エンディングでオアシスの“Don't Look Back in Anger”を使用しているのだが、これが節操ないというか、いい度胸してるというか…

原作では音こそ鳴らないものの、演奏シーンはかなり気合い入れて書かれており、ファンキーなベースの平くんは明らかにフリーだし、曲を作るときもジャムった音にラップをのせるというスタイルである。そしてとあるハプニングによってもう一人のボーカルに選ばれることになるコユキは、その天性の歌唱力からバラード関係を任されることになる。その歌い方は後ろに手を組んでアゴを突き出すように歌う独特のポージングだ。

これからも分かるように、バンドBECKの音はハッキリ言ってレッチリとオアシスがモデルなのである。

そのモデルとなるバンドのさらに有名な曲を使う時点で、劇中でかかるBECKの音にハードルが上がることは必至なのに、なんでこんなことをしたのかその時点で理解に苦しむ。だって『NANA』を実写化するのにセックス・ピストルズデレク&ザ・ドミノスがオープニングとエンディングでかかったら、いくら中島美嘉が頑張って歌っても霞むでしょ!しかも『NANA』のバンドはビジュアル系くずれというわけわかんないもんだったし!

だが、その負のオーラがプンプンしてる中でも、役者はハッキリ言って魅力的だった。すごく頑張ってた。

特にコユキを演じた佐藤健忽那汐里がホントにホントに素晴らしい!!否の意見が目立つコユキの演奏シーンだが、ぼくはこのシーンに違和感を感じなかった。それは何故かというと佐藤健が見事にコユキになっていたからで、動きも立ち姿も表情も完璧。佐藤健はあんなフニャフニャな頭にしないで、これからずっとコユキヘアーでいてほしいもんだ。フェスシーンにフェス感はなかったと書いたが、演奏シーン自体はなかなかかっこよく、予告編で流れてるリフの楽曲“revolution”では全員見事に演じていたと思う。

まぁ、ただ、その他のBECKの楽曲がね……だって――――コユキ歌わねぇんだもん!!!インストにもなってないよ!メロディ主体の楽曲なんだから!

というわけで、いわゆるイケメンブームの中に飲まれてしまった『BECK』だったが、これを観るといかに『ソラニン』が高いハードルをクリアしたかが分かる。特に『ソラニン』という楽曲を作ったアジカンには最大限の賛辞を送りたい。あ、両方とも桐谷健太出てんじゃん!!そうそう桐谷健太はラップこそヘタだったけど、すごくさまになってたよ!

それにしても、映画本編よりも主題歌の方にしみじみ感動してしまうってのはどういうことなんだ……あのタイミングでオアシスってのもねぇ……あういぇ。