日医ニュース
日医ニュース目次 第1187号(平成23年2月20日)

日本医師会市民公開フォーラム
在宅医療と緩和ケア〜がん医療のこれから〜

日本医師会市民公開フォーラム/在宅医療と緩和ケア〜がん医療のこれから〜(写真) 日本医師会市民公開フォーラムが一月二十三日,「在宅医療と緩和ケア〜がん医療のこれから〜」をテーマに,日医会館大講堂で開催された.
 保坂シゲリ常任理事の総合司会で開会.冒頭のあいさつで原中勝征会長は,「今日では,がんは早期発見により完治出来る病となった.がんを恐れることなく,積極的に医師と共に病気を共有しながら,安らぎをもって人生を終われるような時代を迎えたいと思う.本フォーラムにより,医師と患者のより良い関係が出来ることを期待したい」と述べた.
 つづいて,四人のパネリストが,VTRやスライドを示しながら解説を行ったが,共に指摘していたのは,チーム医療の重要性であった.

がん研究者・患者家族の立場から

 垣添忠生日本対がん協会会長は,「わが国では,がん死亡者の半数以上が八十歳以上となる時代が遠からず来ることから,これからは,特に高齢でがんになった場合に,生存率を上げることよりも,生活の質をいかに高く維持するかが大きな課題となる」と述べ,その際には,「在宅医療と緩和ケア」が非常に重要になってくると指摘した.
 また,現在のがんの在宅緩和ケアの状況について,「要望は多いが,受け皿がまだ十分出来ていない.全国的に数は増えているが,地域的格差が大きい」と説明.さらに,「二十四時間対応がカギであることから,チーム医療が重要であり,同時に,患者・家族が在宅緩和ケアの意義を理解していることが大前提である」と述べた.そして,自身が妻を自宅で看取り,その失意から立ち直った経験を述べ,グリーフケアの必要性を訴えた.

在宅医の立場から

 年間約百五十人の末期がん患者を在宅で看取っている,川越厚クリニック川越院長は,在宅療養支援診療所で,チーム医療を行う在宅医の立場から,「医師と看護師,生活を支える福祉との連携を保ちつつ,二十四時間対応で責任を持ってケアをする.その際に,特に看護師との連携が重要で,スタッフの情報共有,問題があった際のカンファレンスが不可欠になる」と述べた.
 さらに,チーム医療のポイントとして,(1)統合性(共通した考え方・行い方)(2)効率性(無駄のない動き)(3)迅速な対応―を挙げ,これらの条件が満たされていれば,質の高いサービスが提供出来るとした.
 また,在宅緩和ケアの患者側の条件として,「患者本人が在宅を希望していること」「家族の理解・協力があること」を挙げ,一方で,「今後,単独世帯も増加していくことから,独居患者への対応も含めた在宅ケアを制度的に整える必要がある」と指摘した.
 内藤いづみふじ内科クリニック院長は,在宅緩和ケアを行う診療所の在宅医として,これまでに約二百五十人の末期がん患者を在宅で看取ってきた立場から,在宅緩和ケアが患者や家族にもたらす安息などを,一人の末期がん患者のエピソードを紹介しながら語った.
 また,がんの治療を受けた病院や訪問看護ステーションとの連携など,バックアップ体制の重要性を指摘するとともに,二十四時間体制でなければ意味がないと強調.医療者が燃え尽きてしまわないよう,多くの医療者にチーム医療に取り組んで欲しいと訴えた.

病院側の立場から

 沢田泰之東京都立墨東病院皮膚科部長は,多くの在宅医療機関と連携している病院側の立場から解説.
 まず,病院側の問題点として,「医師・看護師の在宅医療に対する知識不足と意識の問題」を指摘するとともに,救急医療との両立の難しさを訴えた.
 さらに,在宅に移行するタイミングの見極めが難しいことや,「在宅施設間格差」について説明し,受け入れ先の情報を正確に把握することが重要とした.
 また,急変時の対応としては,慌てて救急車を呼ばずに,まず在宅医に連絡を取ることが大事だと強調.前もって患者本人が家族と話し合い,そうした際に延命措置をするのか等の対応をきちんと決めておき,それを在宅医に伝えておくことの重要性を説いた.
 その後,フロアとの質疑応答が行われた.参加者は,五百九十四名.なお,当日の模様は,二月二十日にNHK教育テレビ「テレビシンポジウム」で放映予定.

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