敗訴事例


・平成16年9月10日日本経済新聞記事

「捨印が金融機関に流用され、本人が自覚しないうちに連帯保証人に切り替わっていたケース」

 谷岡さんは友人の債務の物上保証人(担保提供分だけの保証人)になった。しかし友人は返済不能に。ところが、突然送られてきた書類では、「物上保証人」の「物上」の部分が二重線で消され、「連帯保証人」と書き換えられていた。二重線の上には債権者である金融機関の判が押され、余白に押してあった捨印部分には「修正に同意する」と何者かの書き込みがあった。
 裁判で「書き込みなど一連の行為は金融機関側が勝手にしたもの」と主張したが通らなかった。
 
 主張が通らない理由は、保証書などの私文書に本人の署名か押印があれば、その文書は「真正なものと(正しく契約されたものと)推定される」という民事訴訟法228条4の規定である。

※提訴の背景

 金融機関は、捨印の効果、法的意味合いを熟知しています。
今回の事例のように、「捨印が押してあれば、契約内容を一方的に書き換えたって、裁判で負けない。」ことを過去の判例から知っていたのです。もちろん、何時、誰が、書き入れたか判らないように、契約書類は「差し入れ方式」(契約時コピーを保証人へ渡さない)としています。
 
  つまり、このような「捨印―差し入れシステム」は合法的に、契約内容を書き換えられるので、金融機関にとっては金を生み出す黄金システムとなっているのです。
 
 平成16年の民法改正でも、契約書類の交付義務を定めていません。書類の作成義務のみです。だから、これからも連帯保証人に対して「捨印―差し入れシステム」は合法的に採用され続けます。もちろん、このシステムは金融機関のコンプライアンス(法令順守)です。

  それにしても、何故書類の交付義務を銀行に課さないのか。全く不明です。同じ金貸しの貸金業に対しては、契約書類の交付義務を課しているのに。何か胡散臭さを感じるのは私達だけでしょうか。


・空クレジットの連帯保証契約、錯誤無効を否定
(東京地方裁判所平成10年3月23日判決 出典 判例タイムズ1015号150ページ)

勤務先の会社が印刷用設備を購入した際に連帯保証した社員が、空クレジット契約であるとして、連帯保証契約の錯誤無効を主張したが認められなかった事例。


・ 署名代理により行われた連帯保証契約、無効を否定

 (東京高裁平成12年11月29日判決 出典 金融商事判例1116号 27ページ)

以下、判決理由抜粋

『控訴人は妹に頼まれてXXの名前を書類に記載したにすぎない等と主張して無権代理人としての責任を否定する。しかし,「保証」という言葉は日常的にも耳目に触れる用語であって特に難解ではなく,通常の知識,能力を有する成人であればその意味内容を理解することができるし,書類に実印を押捺することが重大な結果を伴うことも通常容易に理解することができる事柄に属するから,連帯保証の意味を理解していなかった旨の控訴人本人の供述は容易に採用することができず,ほかにそのように認めるに足りる証拠はない。そして控訴人と一郎との身分関係や控訴人が一郎の署名押印をするに至った動機その他原判決認定の諸事実を総合すると,控訴人は本件連帯保証契約(一)(二)の連帯保証人欄に一郎の氏名を記載し,いわゆる「署名代理」の方法により一郎の代理人として意思表示をしたものと推認するのが相当であり,このようないわゆる「署名代理」の方法により代理行為が行われた場合であっても権限なく代理行為をした者が無権代理人としての責任を問われることは代理人であることを表示して代理行為をした場合と異なることはない。