ホメオパシーに信頼を寄せてきた皆さんへ | ほたるいかの書きつけ

ホメオパシーに信頼を寄せてきた皆さんへ

ホメオパシーを信頼していた皆さん、

 この一ヶ月ほど、ホメオパシーを取り巻く状況に激しい動きがありました。山口のK2シロップの件で亡くなられた赤ちゃんのお母さんの提訴に関する報道に端を発し、各種メディアがホメオパシーを批判的に取り上げ、つい最近は「学者の国会」とも呼ばれることのある日本学術会議の会長がホメオパシーを全面否定する談話を発表し、多くの医療系団体が賛同を表明するに至りました。この状況に動揺され悩んでいる方も多いかと存じます。そのような方に、ぜひ聞いていただきたいことがあります。少し長くなりますが、お付き合いいただければ幸いです。

【ホメオパシーを始めた初心は?】
 さて、あなたがホメオパシーを始めるきっかけは、なんだったでしょうか。「自然な感じ」がいいと思った方もいれば、重い病気や難病をなんとか治したかったからという方もいらっしゃることでしょう。人それぞれ、様々な動機があるのだろうと思います。しかし、おそらく共通しているのは、より良く生きたい、健康な生活を送りたい、ということではないでしょうか。

 先日帰省した折、難病で苦しんでいる私の少し遠い親戚が、最近ホメオパシーを始めていたことを知りました(彼女とはもう長いこと会っていないのですが、親が時々見舞いに行ったり外出の手伝いをしているのです)。病院には通っていて、その上での使用だったようです。もちろん本心はわかりませんが、なんとか治したいという気持ちの表れのようです。

 ちなみに私もレメディを服用したことがあります。随分前にイギリスに行った際、帰りの飛行機用の酔い止めがなく、薬局で買い求めたものです。酔いやすい体質なもので、飛行機で酔いたくなかったのですね。もっとも当時はホメオパシーということ自体を知らなかったのですが…。


【現代医療をどう見るか】
 もう一つ、皆さんのうちの何割かの方々に共通するであろうことは、現代医療への不信ではないでしょうか。なかなか治らないのにやたらと多くの薬を処方される、慢性疾患で薬を飲み続けないといけない、副作用もあると言われ恐しい、世の中には薬害で苦しんでいる人もいる…確かに困ることが多いですね。なんとかならないものだろうか、と私も思います。

 ただ、ちょっとだけ考えてみてほしいのです。本当に現代の医療よりもホメオパシーは「より良い」のか?と。

 200年前、ハーネマンがホメオパシーを始めたころの「標準」医療は、それはひどいものでした。「瀉血(しゃけつ)」と言って、病気になるのは血が悪いからだ、悪い血を出させれば良くなる、ということで、わざと傷をつけて血を出したり、ヒルに大量の血を吸わせたりしていました。近代医療が成立する前の話です。いまから考えれば、患者の体力を奪い、かえって害となるものだったことは明らかですね。それに比べれば、ホメオパシーは随分と良い医療を提供したのでしょう。
 ところが、医学は発展を続けます。瀉血に効果はない、むしろかえって悪いのだ、ということが検証されていきます。そして、瀉血は原則として標準医療から排除されました。古代ギリシャでも行われ、1000年を優に越える歴史を持っていた瀉血でさえも、効果がないとわかれば捨てられたのです(もちろんそこには瀉血を支持する医者たちとのたたかいもあれば、それまで瀉血を行ってきた医者自身の中での葛藤もあったでしょう)。しかし、考えてみれば体に悪いことが明らかな「瀉血」が、どうして1000年以上も続いてきたのでしょう?不思議ですね。

 さて、その後、医学は科学を取り込み、「おまじない」を越える効果を検証する方法を編み出してきました。様々な特効薬も開発されてきました。有名なところでは結核ですね。結核で亡くなる方は、昔はとても多かったのが、いまではほとんど無くなりました。歴史的に重要なところでは、ハンセン病の特効薬「プロミン」があります。ハンセン病については時折ニュースなどで話題になりますからきっとご存知でしょう。根拠もなく危険な伝染病とされ患者は強制隔離されてきました。もともと感染力も非常に低いので隔離する必要もなかったのですが、特効薬のおかげで治癒する病気となりました。

 最近、知り合いと久々に会って話をしていたのですが、彼は子どものころ病弱で、いつも寝ており、満足に学校にも通えませんでした。その彼が、「医学が発展してくれたおかげで今こうして生きていられるんだよなあ」と、しみじみと語ってたことが心に残っています。

 日本人の平均寿命は、戦前に比べずっと長くなりました。もちろん戦争の影響は大きいのですが、戦後もずっと、ほぼ伸び続けています。これは、衛生や栄養の改善とともに、医療の発展が大きく貢献しているでしょう。つまり、現代医療は、私たちの寿命を伸ばし、健康に生きるベースを作ってくれていると言えるのではないでしょうか。

 その上で、です。人間がやることですから、限界もありますし、すべてのお医者さんがいつでも最善をつくせるわけでもないでしょう。中には悪徳な医師や企業もあるでしょう。副作用が出る場合もあるかもしれません。大事なのは、いま同じ社会に生きている者として、どのように現代医療とつきあっていくか、ということではないでしょうか。いたずらに不安・不信を煽るだけでは、また昔のように多くの人が若いうちに亡くなってしまう世の中にタイムスリップしてしまいます。


【「自然」はいつでも素晴らしいだろうか】
 さて、皆さんの中には、自然に近い感じがいい、自然な治癒力をサポートしてくれるというのがいい、という方もいらっしゃると思います。
 病気になっても自然に治ってくれるなら、それに越したことはないですよね。そもそも、病気にならないでくれたら、いつでも元気でいられたら…とても素晴らしいことだと思います。
 じゃあ、自然にまかせたら、そんな素晴らしいことになるのでしょうか?

 残念ながら、いつもそうとは限りませんよね。手術が必要な病気もあります。自然に治る場合があるにせよ、薬を飲んだ方が治る率が明らかに上昇する場合もあります。完全に治らず、後遺症が残る場合だってあります。
 自然は時に恐ろしいものです。私たち人間のことなんて、配慮なんかしてくれません。地震や台風、洪水…人間を脅かす自然現象は枚挙にいとまがありません。それだけではありません。自然の「毒」もいっぱいあります。毒キノコってありますよね。他にも毒はいっぱいあります。危険なカビとはいつも隣り合わせですし、ね。天然の「化学物質」はそこらじゅうにあります。というより、世の中に存在するものはすべて「化学物質」です。いいも悪いもなく、です。大事なことは、「自然」というキーワードで「良いもの」と即断するのではなく、自然か人工かを問わず、私たちにとって良いのか悪いのかを考えることではないでしょうか。


【ホメオパシーについて】
 では、いよいよ、ホメオパシーそのものについて、少しお話したいと思います。
 ホメオパシーに期待していた方には大変申し訳ないのですが、実際のところ、ホメオパシーには薬としての効き目はありません。学術会議会長の談話で述べられているとおりです。多くの臨床試験の結果、「おまじない」を越えるものではない、ということが既にわかってしまっています。
 レメディをつくる際には希釈をしますが、一つのレメディには、元になる物質が一分子も含まれていないこともわかっています。これは、ハーネマンの時代にはわからなかったことですが、その後、物質は原子や分子から成り立っていることがわかり、その結果、レメディには元の物質が含まれないことがわかってしまいました。
 ホメオパシー団体の中には、「水が記憶する」から効き目が保たれるのだ、と言っているところもあります。しかし、これも学術会議会長談話で言われているように、残念ながら「荒唐無稽」な話なのです。都合良く、元物質の記憶だけを保持するわけにはいきません。もっとも、水が記憶するということ自体、ないということがわかっていると言っていいでしょう。

 では、なんで「効いた」と思ってしまうのでしょうか?
 色々な理由があります。一つは、何もしなくても、元から治る病気だった可能性です。二つ目は、他に飲んだものが効いていた可能性です。三つめは、効くと思って飲んだため、心理的な効果が働き、治ったという可能性です。人間の精神力はたいしたもので、効くと思って飲めば、なんの役にも立たないのにまるで薬のように効いたと思えるときがあります。日本のことわざでも「鰯(いわし)の頭も信心から」なんて言ったりしますね。他にも理由は考えられるでしょう。

 次の疑問は、じゃあ効かないのだったら、「鰯の頭」ほどの効き目しかないのだったら、どうして200年もホメオパシーは続いてきたの?ということかと思います。もっともな疑問だと思います。
 しかし、思い出してください。どう考えても体に悪い「瀉血」は、1000年以上も続いてきたのです。昔のお医者さんは、決して患者に悪さをしようと思って瀉血を施したわけではないでしょう。昔のお医者さんは、瀉血によって患者が治ったと思っていたはずです。
 このことが示しているのは、個人的な体験だけでは、薬や治療法に本当に効き目があるのかどうかはわからない、ということです。科学的な検証をしなければ、どう考えても体に悪いことでさえ、1000年も続くのです。ですから、200年続いた、ということは、残念ながら検証にはなり得ないわけです。


【私からのお願い】
 ホメオパシーを信頼してきた皆さんに、私からのお願いです。
 以上をふまえた上で、皆さんがホメオパシーを今後も続けられるかどうかは、皆さん一人一人が判断して決めることです。しかし、以下のことだけは、お願いです、どうか守ってください。
  1. ホメオパシーはおまじないを越えるものではないこと(つまり、薬としての効き目はないこと)を理解すること。
  2. 通常の医療や薬、予防接種を避けないこと。
  3. ホメオパシーを、他人にすすめないこと。

 ホメオパシーとどう付き合っていくかは、皆さん一人一人が判断することです。しかし、ホメオパシーがおまじないを越えるものではないことは、好むと好まざるとにかかわらず、既にわかっていることです。効きめがあると思いたくても、こればかりはどうしょうもありません。まずはここを理解していただきたいと思います。

 そして、現代医療はまだまだ限界があるとはいえ、多くの人々の命を救ってきたのもまた事実です。昔は助からなかった命も現代では助かる場合も多いです。手遅れにならないよう、標準とされる医療を避けることのないようにお願いします。

 そして、おまじないを越えるものではないホメオパシーは、一見すると本当の薬のような効き目があるかのように思いがちです。なので、他人にすすめることはつつしむべきです。あなたにとってホメオパシーが大事なものであるならば、それは大切にされたらいいと思います。しかし、それは「お守り」と同じです。他人にすすめるようなものではないでしょう。


 ホメオパシーに効き目がない、という現実を受け入れるのは、とてもつらいことだと思います。しかし、人間は、真実を見つめ、受け入れ、さらなる真実を求めることで発展してきました。瀉血は害悪である、ということを受け入れた昔のお医者さんも、きっとつらかったと思います。しかし、ここは一つ、あなたの「初心」を思い出してください。健康に、より良く生きたい。そのために必要なことは、いつまでもホメオパシーにすがることではないのではないか…と、私は思います。


【終わりに】
 随分と長くなってしまいました。ここまで読んでいただき、ありがとうございます。一人でも多くの人が、楽しく幸せに、健康に生きることができることを願っての文章だということをご理解いただければと思います。

 ところで、最初のほうでお話した、私が飲んだ酔い止めのレメディー。どうだったかというと…実は全然効いた気がしませんでした! その顛末は、以前こちらのエントリで書いたことがあります。ま、私個人の体験談なんで、これで万事を語るわけにはいかないんですけれども、ね。いちおう、私も体験者、ということで。

【参考】
ホメオパシーについての会長談話日本学術会議
『朝日』のホメオパシーを含む記事一覧(アピタル)