そこにいるか

個人的な体験、その他の雑感

アンジーのゲーム

「私の友だちなんて、もう二週間も行方不明だよ」
 ええっ。私はかなり驚いた。老人界では、そういうことはよくあることなのか?
「いやあ、徘徊老人のために警察は動いてくれないしねえ。いつものことだから、家族ももう諦めてるみたいだよ」
「でもさすがに二週間はまずいんじゃ……。例のアナウンス*1はかけたんですか?」
「うんにゃ」
 なんでもないことのように、おばあさんは首を振った。自発的楢山節考というかなんというか、老人たちの潔さにたじろいでしまう。もしかしたらこうやって、人知れずどこかへ消えてしまった老人はたくさん存在するのだろうか。死亡届も出されないままで、市役所の戸籍係が、「あれ、この人、今年で百四十五歳だぞ?」と首をひねるケースが多くあるのかもしれない。

百四十五歳どころではなかった。


今や国内最高齢記録は200歳に達した。人類は、まったく意識しないうちに前人未到の領域にあるのだ*3


さて、「所在不明高齢者」問題。きっかけとなった都内最高齢111歳とされていた足立区の男性(即身仏願望あり)にまつわる「年金不正受給」文脈で語られてきたのが、130歳超えの老人が現れるに至って(じっさい現れてはないが)現実感がすっかりさっぱり消え失せ、はじめのうちの批判的視座もどこかに吹き飛んでしまった感がある*4

 住民登録の抹消は、各自治体が所在不明を確認すれば、独自の権限で行える。だが、戸籍の場合、法律上、市町村に除籍する義務はない。市町村が法務省に除籍の申請を行い、同省の許可を受けることが必要で、市町村は手続きを後回しにしがちだという。

 もう一つの要因として、仮に戸籍が除籍されないままでも、当人の家族や市町村側に不利益や不都合がないことがある。

 戸籍は遺産相続などに利用されるが、年金や介護・福祉などの行政サービスは住民登録に基づいて提供される。戸籍に誤りがあっても、支給漏れや不正受給は起こりえないため、自治体側は「積極的に除籍を進める必要性は薄い」という。

除籍作業後回し、紙だけで生きる超高齢者 - YOMIURI ONLINE 
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100826-OYT1T00204.htm(リンク切れ)

不謹慎な気はするが、「もういいじゃないか、もうどうでもいいじゃないか」という気分だ。



しかしまあそれにしても、

『北海道帯広で「128歳」』(産経)
佐久市 戸籍に「130歳」男性 120歳以上は計4人』(信濃毎日)
『100歳以上、299人が「戸籍上」生存 最高齢は「133歳」女性 宇都宮市調査』(下野)
大村市で134歳女性が戸籍上“生存” 不明100歳以上49人』(長崎)
『高齢者不明:三木で「136歳」戸籍 所在不明100歳以上34人』(毎日)
『館林で141歳男性 戸籍上生存』(読売)
摂津市では142歳「生存」』(産経関西
『愛知県高浜市で142歳が戸籍上「生存」』(徳島)
『【白老】戸籍簿に144歳女性‎』(苫小牧民報)
川西市で「146歳」の戸籍』(神戸)
『江別で146歳「生存」 苫小牧では134歳 戸籍削除へ』(北海道)
『中能登で「146歳」女性 池田屋事件の年生まれ /石川』(毎日)
『「生存」県内最高齢は147歳、文久3年生まれ 上田の女性』(信濃毎日)
『【所在不明高齢者】尼崎市「147歳」 伊丹市も120歳超179人 』(産経)
松阪市に「147歳」=戸籍上生存―三重』(時事)
『戸籍上最高齢は147歳 松江』(中国)
石巻文久生まれ「147歳」?』(三陸河北新報
『一関に「147」歳。一戸は「142」歳』(読売)
『江戸後期生まれ「148歳」 静岡市に戸籍』(朝日)
『北部の最高齢「148歳」 戸籍問題削除など対応へ 京都』(産経)
『戸籍に148歳男性 110歳以上が94人−−喜多方市』(毎日)
『149歳、戸籍上は生存=高齢者不明で−東大阪市』(時事)
『木津川に万延生まれの「150歳」女性 抹消手続きへ』(朝日)
『岩沼で「150歳」 戸籍上の超高齢者』(河北新報
『「江戸生まれ」続々… 伊丹に戸籍上「151歳」の男性 阪神間の各市町 』(産経)
『東近江の戸籍簿に151歳の男性、抹消されず残る』(京都)
『(大阪で)最高152歳!120歳以上が5125人「生存」』(読売)
『「超高齢」大田市に「152歳」 松江市でも「147歳」』 /島根(毎日)
『高崎で「153歳」、千代田「151歳」』(朝日)
『154歳を筆頭に、100歳以上259人−−田辺市 /和歌山』(毎日)
『大分で「158歳」 明治天皇と同じ年生まれ』(産経)
鳥取に159歳男性 110歳以上は232人 /鳥取』(毎日)
川崎市、戸籍に159歳女性 120歳以上462人 /神奈川』(毎日)
福井市で160歳“生存” 高齢者不明問題100歳以上は963人』(産経)
『福山に「161歳」男性』(中国)
『千曲に「162歳」女性 18市に「100歳」以上2118人 /長野』(毎日)
『ペリー来航6年前生まれ163歳男性「生存」 三重』(朝日)
『超高齢者戸籍 まんのうに「169歳」 /香川』(毎日)
横浜市に170歳の男性戸籍 120歳以上2247人』(産経)
『秋田・能代で「170歳」 不明の100歳以上473人』(共同)
兵庫県内最高齢は姫路の170歳 所在不明高齢者』(神戸)
『山形・酒田で「173歳」』(産経)
『「超高齢者」県内でも173歳 広島』(産経)
甲賀で182歳 江戸期生まれの戸籍続々』(京都)
浅口市に「183歳」男性 120歳以上が62人 /岡山』(毎日)
青森市に「184歳」』(産経)
『今度は「186歳」 同級生は十三代将軍家定−−山口・防府の戸籍』(毎日)
宇和島で189歳、西予で164歳 不明高齢者「生存」』(朝日)
『ついに「200歳」も 壱岐市が男性の戸籍確認』(西日本)


(新聞社サイトは記事を消す傾向にあるのでリンクなし)

「戸籍」と「生存」がゲシュタルト崩壊しそうな勢いだが、どうもこれらメディアの記事タイトルを見ていると、なにかを思い出す。



なにかを……



なにか……



なに……

アンジェラアキで画像検索してTシャツの数値がでかい奴が優勝 - ニュース速報BIP*5
http://404nots.blog88.fc2.com/blog-entry-1121.html
(リンク切れ cf.http://blog.livedoor.jp/omosoku/archives/387099.html

これだ。


ここへ来てアンジェラ・アキのTシャツ数字ゲームみたいになりつつあるのだ。朝日*6といい読売*7といい、「200歳」を伝える記事のなんだか楽しそうなこと。


要するに、この件を語るに際しては、毎年「国内最高気温記録」とかいってどこが暑かったのなんだの、うんざりしながらけっこううれしそうに言っているのと同じメンタリティが働いているような気がする*8


あるいは「世界一長い海苔巻き」とか、「世界最大のお好み焼き」とか、「とにかく世界一の流しそうめん装置」を嬉々としてギネスブックに申請するような感じもある*9



そして、首相在任期間がゲームとしては逆の要素でもって盛り上がったりもするわけですね、わかります(これがアメリカならスパッと「4年」か「8年」なわけでゲームにならないのだけども*10)。





なお、この種のお遊びを「アンジェラアキゲーム」と呼んでいるのはどうやら僕だけで、「アンジェラアキバトル」という言葉が先行しているようだが*11


しかし「諸君、私は『エンダーのゲーム』が好きだ」ということで。

エンダーのゲーム (ハヤカワ文庫 SF (746))

エンダーのゲーム (ハヤカワ文庫 SF (746))

アンジェラ・アキのゲーム。


略してアンジーのゲーム。



違うよ! アンジェリーナ・ジョリーのゲームじゃないよ!





cf.

世界一の一覧 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/世界一の一覧


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*1:引用者注:筆者(三浦しをん)がこのエッセイをを執筆していた当時(おそらく2002年)住んでいた町では、市役所が運用している災害スピーカーがもっぱら「迷子のお年寄り情報の発信」に使われていたという。

*2:平成十八年八月一日発行98頁、引用は文庫からで、単行本は2003年10月発行

*3:え、弘法大師

*4:戸籍制度に絡めて綱引きしている人たちもいるらしいけど、そのことはとりあえずさておく。

*5:まとめたのは「おもしろ速報」(http://blog.livedoor.jp/omosoku/archives/387099.html)の方が先のようだ

*6:『長崎・壱岐で200歳「生存」 島津斉彬の1歳下』(2010年8月27日18時24分投稿記事)

*7:『長崎で「200歳」…国定忠治ショパン誕生』(2010年8月27日18時43分投稿記事)

*8:どういった問題があり、どう今後に活かしていくかを示すことが重要なのではないかという意見にはまったく賛成である。

*9:そもそも他に報じることがあるんじゃないのかという意見にもまったく賛成である。

*10:たまにそうでない人もいるけども

*11:cf. 「Togetter - はてなダイアリーの更新日数でアンジェラアキバトル」(http://togetter.com/li/42034