2012.03.18
# 雑誌

あなたの隣にもいる「貧困女子のビンボー生活」

6畳1間に住む天野さん。同居する男性におカネを借りることもあるが、彼の手取りも月15万円程度という〔PHOTO〕村上庄吾

 今や単身女性の3分の1は手取り125万円以下という。家賃、食費を切り詰め、「三食、菓子パン」「洋服は防寒具以外は買いません」と告白する女子たちの実態に迫った!

「本当に何もなくて、お恥ずかしいのですが・・・・・・。よかったらお水でもどうぞ」

(右)天野さんの1月分の手取りは、8万5583円也。ここから4万2000円の家賃、1万円の携帯代などを捻出 (左)ご覧のようにお風呂は膝を抱えないと入れないほど狭いが、天野さんは「水道代の節約になる」と苦笑いする〔PHOTO〕村上庄吾

 老人の介護施設でアルバイトとして働く天野裕子さん(28・仮名)は、そう言って水道の蛇口をひねり、ちゃぶ台の上にグラスの水を置いた。

「普通はお茶ぐらい出しますよね。でもおカネがないから、あいにくお水しかないんです。実はこのちゃぶ台も、ゴミ捨て場から拾ってきたんです」

 岡山県から上京して今年で6年目。天野さんは現在、東京都心から電車で約50分の距離にある某市の家賃4万2000円の格安物件で暮らしている。6畳1間で北向き、狭い風呂とケバだった畳の部屋は、若い女性が住む部屋としてはいささか不似合いだ。

「築40年のオンボロアパートですが、背に腹は替えられません。先月の給料は9万円だったし、1月は正月で出費が嵩んだのに、手取りは8万5000円。食べていくだけで精一杯の状態です」

 手取りから家賃を引けば、財布に残るのは毎月4万円弱。この中から光熱費(約8000円)と携帯電話の通信費(約1万円)が飛び、残りのほとんどが食費に消えていく。この6畳1間で彼氏と同棲中、交際2年目を迎えるというが、彼女と同じ非正規雇用者の彼とは、将来のことは考えられない。

 20~64歳の1人暮らしの女性の3人に1人が〝貧困状態〟にある---。

 2月8日、国立社会保障・人口問題研究所が弾き出したデータは、衝撃的なものだった。調査を担当した同所の社会保障応用分析研究部・阿部彩部長が解説する。

「厚生労働省の国民生活基礎調査('10年)のデータを基に国民1人当たりの可処分所得を高い順に並べ、真ん中となる人の所得額(中央値)の半分に満たない人を『貧困状態』と定義しました。その結果、可処分所得が125万円未満の人が貧困状態に当たり、20~64歳の単身女性の32%、実に3人に1人が相対的に貧困であることが明らかになったのです。また、単身の20~64歳の男性の貧困率は25%であり、女性のほうがより苦境に立たされていることが分かりました。これまで女性の貧困問題に光が当てられることはあまりありませんでしたが、予想以上に厳しい実態に驚いています」

〝貧困女子〟ともいうべき彼女たちは、なぜかくも厳しい状況に陥っているのか。作家で反貧困ネットワークの副代表を務める雨宮処凛氏が言う。

「女性が貧困に陥っているのは、その大半が派遣社員であったり、契約社員であったりする非正規雇用の影響が大きい。現在、女性の非正規雇用率は54%で、働く女性の2人に1人が正社員ではないという状態です。『結婚したら仕事を辞める』という社会通念のため、不安定な労働に追いやられているのです」

 ---社会進出が進み、経済的に自立する女性が増えている。メディアのそんな論調を信じ切っていた人は、「3人に1人がビンボー」という事実を想像しづらいだろう。しかし、本誌が取材した貧困女子の実態は、かくも過酷なものだった。

フルタイムでも月給17万

「一食500円×3で1日1500円。たまに洋服を買ったりしたら、その月はマイナスになります。今の貯金額は、6000円ちょっとです」

 秋田県出身で、都内の百貨店で文房具を販売する吉田幸子さん(34・仮名)は、東京の4年制大学を卒業後、ウェブコンテンツの制作会社に入社。一時は年収が約500万円もあったが、4年前に交通事故に遭い、長期入院を余儀なくされて解雇。1年近く養生していたが、いざ社会復帰をしようと職探しを始めた時、その厳しさに慄然としたという。

(右)シェアハウスのシャワーは6分間で100円。冬場は毎日浴びなくてもよいという貧困女子も多い
(左)倉田さんと同じシェアハウスに住むAさん(29)。テレビ番組制作会社勤務で月収約16万円〔PHOTO〕香川貴宏
(上)家賃7万円のワンルームに住む吉田さん。家具は引っ越しの時に祖母に頼り、一式揃えてもらったという (下)「自炊は高いから滅多にしない」と語る吉田さんの主食はコンビニ弁当や総菜パン。冷蔵庫は飲み物だらけ〔PHOTO〕村上庄吾

「30を超えて正社員で雇ってくれる会社なんて、どこにもないんです。一度キャリアが断たれると、再就職するのは至難の業だと痛感しました。やっと見つけたこのバイトは、フルタイムで働いても月給17万円。家賃の7万円を引いて、大学の奨学金を返したら、後は生活費に消えるだけで、自由になるおカネはほとんどありません。もう転職は諦めました」

 爪に火を点し、食べることだけに汲々とする毎日だ。

「恋愛関係は完全に干上がっています。この間、久しぶりにお酒を奢ってもらった男性に口説かれていい感じになったのですが、その時穿いていたパンツのゴムが伸びきっていることを思い出し、速攻で逃げました」

 神奈川県某市にあるシェアハウスに住む倉田由美さん(27・仮名)は、力なく笑う。

「引かないで下さいね? 私、週に一度しか身体を洗わないんです。1回シャワーを使うと100円かかるから、極力節約しています。手取り10万円ちょっとの貧乏女子には手痛い出費ですから・・・・・・」

 学習塾のアルバイト講師として働いているが、月収は12万円に満たない。駅から10分の距離にある2階建てのシェアハウスには、倉田さんと同じような懐事情の女性12人が生活している。

(上)シェアハウスの倉田さんの部屋。敷金や礼金が要らない分、入居する時に1万円程度の保証金を払う
(右)「ここ数年、防寒着以外の洋服を買っていない」という倉田さんの衣裳ケース。この3段に全衣料が入っている
(左)2段ベッドの下の狭い空間が、インターネットをしたり、メイクをしたりする倉田さんの貴重な生活スペースだ〔PHOTO〕香川貴宏

「シャワーやトイレ、キッチンは共同ですが、月の家賃は5万円ちょっとです。部屋は4畳半ですが、2段ベッドやエアコンが据え置きで、敷金や礼金も要りません。この家の女の子は、みんな〝貧困女子〟ですよ。私のようにアルバイトの子もいれば、正社員の女性もいます」

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