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記者の眼

「ニセ医学」にだまされても患者の自己責任?

 今年9月、女優の川島なお美さんが亡くなった直後から、様々な報道が飛び交い始めた。その中の1つが、標準治療を拒否し、ある民間療法を行ったために壮絶な闘病生活を送ったという報道で、世間に衝撃を与えた。こうしたニュースを聞いて思い浮かぶのが、「ニセ医学」という言葉だ。「ニセ医学」の言葉の定義ははっきりしないが、内科医でブロガーのNATROM氏は、著書「『ニセ医学』に騙されないために」(メタモル出版、2014年)の中で、「医学のふりをしているが医学的な根拠のない、インチキ医学のこと」としている。

 冒頭のようなエピソードが世間を騒がせると、「民間医療を選ぶのは患者の自己責任ではないか」という意見を言う人を目にする。しかし、医療者は患者の選択を「自己責任」で済ませてしまってよいのだろうか。

医療者と「ニセ医学」
 今回、日経メディカル Onlineで「ニセ医学」に関するアンケートを行った。医師が「ニセ医学」と聞いて思い浮かべるもので一番多く挙がったのが「広告過剰なサプリメントや健康食品」だった。2位はメディア露出や出版活動が盛んな某医師の「がんもどき理論」、3位は1型糖尿病の男児がインスリンの投与を中止したために死亡した報道で世間を騒がせた「霊的療法」となった。その他のランキングや、回答した医師が実際に行っていた、または遭遇した「ニセ医学」、医師たちが「ニセ医学」について思うことなどについては調査結果の記事をご覧いただきたい(前編 「ニセ医学」と聞いて思い浮かぶのはアレ、後編 患者が「ニセ医学」を試したいと言ったら?)。

 アンケートで、「ニセ医学」について「言葉も意味も知っていた」と回答した人は、わずか801人(24.1%)。医師の4人に3人は知らないという結果になった。保険診療を行っている医師たちの関心は低いのかもしれない。医療者、特に医師に有用な臨床情報をお届けすべき媒体である日経メディカルでも、「ニセ医学」という言葉並びに「ニセ医学」に分類されるであろう民間療法を取り上げる機会はほとんどなかった。

 「ニセ医学」の話題でまず挙がってくるのが、「そんなものにだまされないよう、国民のヘルスリテラシーを向上させよ」という意見だ。ヘルスリテラシーとは、健康関係において適切な意志決定をするために必要な情報を調べ、理解して利用する能力のこと。もちろん、患者自身がヘルスリテラシーを高め、自ら判断できるようになることが望ましいのは間違いない。ただ、日経メディカルは医療者向けの媒体であるので、今回は「ニセ医学」に対して医療者が取るべき態度について考えてみたい。

その決定は本当に患者が「理解」し「選択」したものか
 アンケートでは、「患者が希望する限り仕方がない」(50歳代勤務医、内科系専門科)、「『信じる者は救われる』で、患者自身が選ぶことにケチはつけません。その代わり尻拭いもしません」(40歳代勤務医、循環器内科)という声が散見された。「患者自身がその治療を選んだのならば仕方がない」という考え方はあるだろう。「本人が満足なのであればそれでいいのではないか」と。

 しかしここで重要なのは、その患者は必要なことを十分理解した上で選択しているのかということだ。患者に害が及びかねない民間療法を選択している場合などは、「その『治療』はこうしたデメリットも指摘されていますがご存じですか」と一歩踏み込んでみるべきではないだろうか。頭ごなしに否定するのではなく、相手が選択に当たり知っておくべき情報を提供する。誤解していたり、思い込んでいることがあるようであれば、解いておく。ここで注意しなければならないのは、患者に情報を提供して納得や選択を「迫る」ことではなく、情報を提供した上で患者と医療者がともに考え「合意」することだ。

 医学教育を受けた医療者は、医学情報の適切な処理の仕方を心得ている。一方で、患者は体系的に医学を学んだことがないかもしれないし、インターネットなどで得た誤った情報をうのみにしているかもしれない。多くの医療者が「この表現は誤解を招く」と指摘している記事に、非医療者が「知らなかった、ためになった」といった感想を寄せているといったことはままある。適切な情報を知らなければ、どんなに頭の良い人であっても最適解を導くことはできない。

 こうした情報の非対称性がある医療については、医療者は専門職としての見解を伝える努力が求められるのではないだろうか。さらに、公衆衛生の側面も持つワクチン接種などでは、「打ちたくないんですか」と簡単に引き下がってはいけないのかもしれない。当然、無理矢理打つわけにはいかないが、説得を試みる姿勢も必要なのではないだろうか。

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