最新鋭電子偵察機の「福島原発」独自情報で「避難勧告」を決断したアメリカ国務省

3号機で何が起こっているのか
〔PHOTO〕gettyimages

 今回の東日本大震災に関する数多ある報道の中で、事実無根の流言蜚語の類を含めてその真相を追究すべき重大な報道が2つあった。

 一つは、3月16日午後(米国東部時間)に米国務省が発表した「東京電力福島第一原子力発電所から半径80キロ内に住む在日米国人の退避勧告」である。そして2つ目は、仏テレビ局「フランス2」特派員の大阪発の「福島第一原発3号機にはウランとプルトニウムの混合燃料が使用されている」という、同17日の報道である。

 先ず、前者の「退避勧告」。米国務省報道官は、それまでの福島第一原発から半径20キロ圏内の住民に避難を、20キロ~30キロ圏内では屋内避難を指示する日本政府とは異なり、ジョン・ルース駐日大使名で半径50マイル(80キロ)圏内からの避難を勧告した。住民に10ミリシーベルト以上の被曝の恐れがある場合に取られる米エネルギー省が定めた安全指針を満たせない、という判断であった。米政府は同時に、この判断は「独自に得た情報とデータ」を基にしたものであることを明らかにした。

 では、その独自の情報とデータはいかにして入手したのか。そしてアメリカ政府が独自に入手しなければならないほど、日本政府(東京電力)から提供される漏洩した放射性物質・放射線量に関する情報とデータに信頼性がなかったのか。

 11日午後の大地震・大津波発生から日米両政府は緊密に連絡を取り合い、14日午前の3号機内水素爆発を皮切りに2号機の原子炉冷却機能喪失、15日午前の4号機建屋火災など相次ぐ深刻な被災状況に関する情報を共有していたと日本政府は説明している。ところが、枝野幸男官房長官が会見で16日午前に3号機の原子炉格納容器が損傷し水蒸気が漏れている可能性があると発言した頃から、米政府の対応と海外主要メディアの報道に著しい変化が見られるようになった。なぜか。

 米国務省の「避難勧告」が発表されたのは、米国東部時間と時差が13時間ある日本時間では、まさに17日未明である。米CNNテレビが「partial meltdown」(部分的な炉心溶融)と報じたように、福島第一原発3号機が「異常事態」に直面していると、米政府が前日の15日(米国東部時間)に独自の情報とデータを入手したと考えるしかない。米側はグアムのアンダーセン空軍基地に配備する高性能カメラや赤外線センサーを装備するグローバルホーク(無人偵察機)を日本に投入したことを認めている。

 それだけではない。筆者は、在日米空軍沖縄・嘉手納基地に配備する最新鋭電子偵察機RC‐135U(コンバット・セント)を福島原発の上空に展開させ、放射線量測定と原発の破損状況の撮影などを行ったという情報を得ている。

 米空軍は光学・電子・信号情報収集を目的とするRC-135を21機保有するが、RC-135Uは2機のみという"虎の子"である。このRC-135Uとグローバルホークが収集したデータが「退避勧告」の根拠になっているというのである。

空軍輸送機2機に分乗し1000人が退去

 次は、はるかに重要と思われる「ウランとプルトニウムの混合燃料が使用されている」報道である。プルトニウムを現在の軽水炉で濃縮ウランの代わりに燃やすのがプルサーマル発電。その混合燃料というのは、プルトニウム・ウラン混合酸化物燃料で一般的には「MOX燃料」と呼ばれるものだ。

 現在、わが国に原子力発電所は55基ある。その中で混合燃料を使用しているのは九州電力の玄海原発3号機、四国電力の伊方原発3号機の2基だけだ。ところが、東京電力の福島第一原発3号機は昨年10月26日、MOX燃料の装荷後、初めて営業運転を開始しているのだ(『福島民報』同27日付)。MOX燃料が全燃料のうちたとえ約4分の1であるにせよ、そしてまた佐藤優平福島県知事が承認したにしても、東電側はこの事実を積極的に全国民の前に公表することはなかった。

 同原発3号機が使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを混ぜたMOX燃料を炉内に入れて発電する「プルサーマルを実施していた」ことは、大震災による被災後の13日の『中日新聞』のみが報道。そして同日夕の『読売新聞』の特別夕刊と『朝日新聞』の特別号外に言及されるまで大手メディアが伝えることはなかったのだ。ところが、仏テレビがプルサーマル発電を実施していると言っているのに等しい報道をしたことで、在日外国人の退避ラッシュに火が付いた。

 過剰反応の最たるものはフランスだった。17、18日の両日で在京仏人約1000人が派遣された同国空軍輸送機2機に分乗、本国に帰国している。

 橋本龍太郎政権下の97年2月にプルサーマルを含めた核燃料サイクルの推進について閣議決定した。しかし、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩・火災事故などもあって核アレルギーの強い地域住民による反対運動が広がりを見せ、全国レベルでは計画の進捗状況は進んでいない。それだけに、東電と日本政府がこうした一連の計画を隠蔽していたとまでは言わないが、官邸側からの情報開示と説明がなかったことは重大である。

 いずれにしても、福島原発事故に関する菅官邸の機能不全は明らかである。米国の人気テレビ番組「24」の主人公になぞらえて「日本のジャック・バウアー」とされる枝野官房長官だが、枝野氏が嘘を付いていることはないにしても、言えないことがあるのは間違いない。いま求められていることは国民レベルでの情報共有である。
 

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