世界が報じた「日本品質の劣化」は大きな誤解、不祥事招いた日本企業の3つの弱み

2017年後半に起きた一連の日本企業の不祥事に関して、世界のメディアは「日本の品質神話が崩れてきた」と報じている。

2月4日付ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、「Companies Everywhere Copied Japanese Manufacturing. Now the Model Is Cracking」と大きく紙面を割いて紹介している。フィナンシャル・タイムズ(Finantial Times=FT)においても1月3日付で「Japan Inc: a corporate culture on trial after scandals」 と特集ページを組んだ。

どちらも日本が長年かけて培ってきた「日本品質が劣化してきた」という論調である。

神戸製鋼謝罪会見

神戸製鋼所が2017年10月に開いた謝罪会見。日本を代表する企業でも品質問題が次々に露呈した。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

いずれの記事においても取り上げられているのは、日産自動車の無資格検査官問題や、神戸製鋼所、三菱マテリアル、東レなどの製品品質データの改ざんの問題である。確かにどれも品質に関連する内容ではあるが、「日本のモノづくり品質が悪化した」ということではない。

まず日産と神戸製鋼の場合、30年近く前から慣習的に続いていたことだという。すなわち、ここ数年で日本のモノづくり品質が落ちたということではない。日本の多くのメディアでも、日本品質が落ちてきたという誤った論調を展開していた。これらも、海外メディアでの誤解論調につながっていると思える。

では、こうした日本企業の不祥事の連続は何を意味しているのであろうか。

私は、今回の一連の不祥事は、日本企業に内在する問題点として、(1)契約に対する認識の甘さ (2)トップダウンとボトムアップの連携の弱さ (3)危機管理対応の荒さ、という日本企業の弱みが露呈されたものではないかと考える。

(1) 契約に対する認識の甘さ

日産のケースとそれ以外のケースを分けて考えてみたい。

日産のケースは、国が認定した検査官による完成車の「ゼロ回目の車検」を、認定を受けていない検査官が行っていたということが問題となった。これは法令違反の問題であり、日産の品質に問題があるということではない。

また、「車検」そのものについては、日本特有の制度であるので、海外に輸出されている車両については何ら問題はない。海外メディアから品質について批判を受ける筋合いのものではない。もちろん、法令違反であるので、真摯(しんし)に対応されるべき内容である。

輸出される日産の自動車

日産自動車の不祥事では車検制度の法令違反と品質問題が混同されて報じられた面は否めない(本文と写真は関係ありません)。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon

日産以外のケースはどうであろうか。

東レの日覚昭広社長は、法令の問題ではなく、安全上も問題ないことから「(神戸製鋼などの件がなければ)公表するつもりはなかった」という発言をしている。この発言は、あまりにも不用意だ。売買契約で合意されている納品物の品質基準データを改ざんするということは、売買契約違反、すなわち法令(商法)の問題と言える。

商品の買主側も対応しなければならない点はある。商法第526条では、「買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵(かし)があること、又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額、もしくは損害賠償の請求をすることができない」となっている。

すなわち、本来、買い手が、納品時には納品検査を行い、不正が行われないように自らをプロテクトすることが決められている。ただ、同法では、「売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない」とあり、今回のケースでは、神戸製鋼、東レ、三菱マテリアルの対応は、この「悪意」に当たると見なされ、道徳的見地だけでなく、法令的にも損害賠償を求められることになる。

しかし、真の問題は、売買契約時においての「品質基準の設定のあり方」ではないかと思える。それは、基準を下回っても売り手、買い手の双方が合意で合格となる「トクサイ」(特別採用)が用意されれば、実現可能な品質基準を真剣に議論しなくなるのは当然である。売り手、買い手の契約における甘さや曖昧さは、かつて日本が世界から批判された「ケイレツ」の名残と言える。

今回の経験を生かし、日本企業が、過去の「ケイレツ」的慣行を総合的に見直し、契約に沿ったビジネスを厳格に展開できるようになることが、企業のグローバル化の条件だと思う。

(2)トップダウンとボトムアップの連携の弱さ

次に、記者会見後にも不正が継続していた日産の例を見たい。

2017年10月2日に日産の西川広人社長が会見で再発防止を宣言したにもかかわらず、10月18日に不正が継続して実施されていたことが発覚した。同社は「課長、係長のコミュニケーションの問題だった」という理由を挙げている。

職場での上司、部下の関係

上司と部下の連携の弱さが問題の根底に潜んでいないか。

Shutterstock/ Creativa Images

トップが方針を決め、即実行に移す「トップダウン業務」は、製造業では簡単でない。いかなるトップダウンの方針であろうと、現場で実行に移すための課題を検証し、現場での実施計画を策定した上で、コストアップやリードタイム増が発生すれば、上司の決裁を仰ぐ対応(ボトムアップ業務)が求められる。

日産のケースを想像すると、対応策として考えられるのは、国家認定を受けた検査官の数を大幅増員するか、生産台数を減らして、現在の検査官人数のキャパシティの範囲内に生産を収めるかのどちらかであろう。いずれも、全社対応が必要な問題であり、トップと現場が連携しなくては現実解は生まれない。

日本の企業は、現場が強く「ボトムアップ」業務には長けているが、トップダウンとボトムアップを組み合わせて、現場での緊急対応を行うことを得意としていない。そのトップと現場の「繋ぎ」を行うのが「執行役員」であり、緊急時には、全社の執行役員が総出で、現場と共に対応を考えることが求められる。

(3)危機管理の荒さ

今回の一連の不祥事において気になるのは、危機管理対応の荒さである。

自分自身も何度か失敗しているので、その難しさは理解しているが、危機管理対応は、企業存続にもかかわる重要な経営活動である。経営活動である限り、トップが先頭に立ち、全社対応で行われるべきである。外部コンサルタントから、謝罪会見やお辞儀の仕方などの指南を受ければ良いというものではない。

神戸製鋼のケースでは、トップが「鉄鋼部品でのデータ改ざんはない」と発言した翌日に鉄鋼部品での改ざんを発表し、トップの信頼が失墜するという「二次災害」が発生した。トップにどこまで正確に、ネガティブ情報まで含めて上がっていたのか疑問が湧いてくる。

また、先に触れた東レの日覚社長の「(神戸製鋼などの件がなければ)公表するつもりはなかった」という発言も各紙で取り上げられた。

トップの発言により、会社の信頼を失うという「二次災害」を防ぐためにも、危機管理体制の強化が望まれるところだ。

一方で、日覚社長は、12月4日付の日経新聞とのインタビューで「契約を守る倫理観が薄かった」と述べており、こうした冷静な分析とメディア対応は信頼回復につながる。

今回、日本企業の弱さとして、(1)契約に対する認識の甘さ(2)トップダウンとボトムアップの連携の弱さ (3)危機管理対応の荒さを指摘したが、いずれも、これから日本企業がグローバルで勝ち抜く時に必要となる「裏の国際対応能力」と言える。これらの経験を生かし、日本企業がさらに強靭な経営力を身につけることを期待したい。

(文・土井正己)


土井正己(どい・まさみ)/国際コンサルティング会社「クレアブ」(日本)代表取締役社長/山形大学特任教授。大阪外国語大学(現:大阪大学外国語学部)卒業。2013年までトヨタ自動車で、主に広報、海外宣伝、海外事業体でのトップマネジメントなど経験。グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

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