松尾匡のページ

11年3月29日 電気料金引き上げリフレ



 前回のエッセーで紹介した中学2年生のアイドル、藤波心さんのブログエントリーですが、その後、コメントが1万を突破して、心ない中傷もよってたかって書き込まれる事態になりました。それで、一時は私も、おバカなエッセーネタとして使ったことをまじめに反省したりもしたのですが、このほど、本人の新しいエントリーが出て、いたって元気そうだということが判明。安心しました。
パンドラの箱の「希望」 \(^o^)/
読んでみたら、お見事な収拾!おみそれいたしやした。おじさんますますハァハァしちゃうよ。もうこれでボクは「一人前のリフレ派」と呼ばれても構わないよ。
 さあ今度から、満員電車の中で女子高校生が隣によってきたら──日銀のわなだ!
 電車の中で携帯メール打ってるときに、前のシートの女子中学生がおむもろにスカートを開いたら──日銀のわなだ!
 あらゆるところにわなが待ち構えているぞ。気をつけないと。

 ああでもココロちゃん。関西でそんなに節電してもねえ。まあ被災地の電気のためというわけでなくて、本来無駄が多い不自然な生活を見直すという主旨なのだということはわかるのですが、前回のエッセーで恐れた「自己犠牲的なことしたもん勝ち」みたいな雰囲気につながらないことを望みます。
 まあ節電することは悪いことじゃないんだけど、それで余った分は、パチンコ屋のネオンが増えるとか深夜残業が増やされるとかに使われちゃうのが世の常だということも...。まあ、東日本向け物資生産に使われるならいいんだけど。
 とはいえ、せっかくのココロちゃんのけなげな思いですので、ちょっと考えてみたんです。

 当面は復興のために電気要りますからね。その上発電所が壊れてしまっていたりしたら、とりあえずは供給を増やすのが先にくる。まあ、サハリンの天然ガス使うとか、西日本の電気送る変換能力を増やすとかいろいろ。でもこれは当面の話で、長い目で見たら、今よりもっと電力需要の減った世の中を目指さなければならないというのはそうだと思います。
 実際、電気使い過ぎは事実だと思います。それは、電気料金に、火力発電所の二酸化炭素とかの社会的費用が反映されてなかったり、原発のリスクの分の社会的費用が反映されてなかったりするためでしょう。そう。ミクロ経済学で出てくる「外部不経済」だっ。
 だから、「電力税」をかけて電気料金を上げてやれば、会社もお店も一般消費者も、今までよりは無駄遣いしないようになって、節約のための技術開発も進む──これ、経済学の定石ね。それで、その税収は、二酸化炭素とかの除去装置とか、とりあえず原発の安全強化とか、今回の事故の処理とか、代替エネルギーの開発とかの費用にあてられるってわけです。
 まあ、ここまでは定石なんだけど、それでも、電気ってやっぱりある程度は必需品だから、貧しい家庭とかで電気代上がったら苦しくなる人は出てしまいます。こんな不況のときはなおさらです。
 だから、「一人当たり何kwhまではタダ」って、最低限度のタダ枠を生身の人間全員に平等に配分してしまえばいいと思います。それを超えた分から今までより高い料金がかかる。もちろん被災地は特例だし、病院とかも特別にしとかないとね。

 それで、ここからが今日の話のメインなんですけど、やっぱり電気料金が上がるとコスト高になって、今みたいな不況の中でやったら、ますます不況が悪化してしまうこと確実です。
 そこで考えたのですが、これ、前々から唱えてる「最低賃金の引き上げスケジュール」と同じで、景気回復のための確実なインフレ予想を作る手段にできるんじゃないか。というのは、電気料金は公定みたいなもんですので、かなり確実な将来スケジュールを定めることができます。電気は何を作るにしても使いますので、十分な金融緩和と抱き合わせれば、物価がそれにつれて上がるのは極めて信頼できる予想になり、有効な景気回復策にできます。
 例えば、当面は、タダ枠配分の値下げ効果の方が多いぐらいにして(その費用は日銀がおカネを作って用意する)、しばらくは、例えば年率2%なりのインフレ目標と同じ率で電気料金を上げていく。それで、やがてインフレ目標が達成できて、景気が回復したならば、同じ率で上がってたのじゃ節電効果が出ませんので、例えば2.5%とか、インフレ目標よりも高い率で電気料金を上げていく。これを、ルールとしてあらかじめ決めておくわけです。

 さて、とはいえ、当面一時的に、生産能力が壊れてしまったり、物流が乱れたりしていて、そのせいで供給が整わなくて物価があがってしまうという問題はあるような気がしていまして、どんな復興策や景気回復策を考えるにしても、この点はなかなかやっかいだぞと思っています。
 前回のエッセーで私も、復興資金を作るために、日銀引き受けでおカネを作ることを今やらないといつやるのかと書きましたが、実は矢野浩一さんが、すでに論文をブログで発表されていて、税金とって被災地に使うより、まずは無からおカネを作って復興事業に使うのがいいというシミュレーション結果を出されています。うっかり私立大学に移られたために、当然ながら雑務に忙殺され、「一人前のリフレ派」のあかしのネタ記事を書くこともなくなってしまって残念な矢野さんですが、震災後早速、そのもっと大事な社会的役割を果たしたというわけです。
 この論文の中で、景気がよくなると中央銀行がルールにしたがって金融を引き締めて、やがて景気が悪くなってしまうという結果が出ていますけど、矢野さんは注の中で、今日本は「流動性のわな」なのでそうはならないかも、とおっしゃっています。これは私もそう思います。今、民間の復興などの資金需要のために、銀行が貸し出しを増やしていますが、今の所、「流動性のわな」のせいで無駄に遊ばせていたおカネで対応できているようです(日経3月27日1面)。でも、白川日銀の(テイラールールを超えた)インフレ警戒体質を考えると、やっぱり差し引き結局シミュレーション通りになるかもとも思います。

 しかし、せっかく実証家の予測が利用できるのであれば、当面の供給減インフレの問題がどうなるか知りたいところです。
 矢野さんのこのモデルは、震災を表すイベントが反映されているわけではないように思います。当初定常状態にあるところで、政策変数の変化だけでなくて、初期時点で(機械や工場などの)資本量が減るとか、生産性が落ちるとか、流動性制約にある家計の割合が増えるとかのジャンプが起こったときの動きを知りたい気がします。
 初級教科書のどマクロモデルなら、供給能力が減るジャンプが起これば、需要超過になって当然インフレになります。素のリアル・ビジネス・サイクルモデルなら、将来にわたって実質所得が減るので、世の中に出回る貨幣量が変わらないなら物価はその時点でジャンプして上がるだけだと思います。矢野さんたちのお使いになっているニューケインジアンの標準的動学一般均衡モデルではどうなるかわかりませんが、物価はもっさり上がってインフレになるのではないかと思います。通貨当局も含め、人々がそれをおりこんで動くとき、無からおカネを作って復興事業に使う効果がどうなるか興味があるところです。

 さて、みなさんもうずいぶん震災関連の寄付されているようですが、ボクはメインは職場の組合で取りまとめているのでやろうと思っているので、まだ九州にいてやってません。
 でも、いろいろな方面の人間関係があるもので、なんだかんだとちょっとはもう払ったかも。そんな中でも、お志があれば特にみなさまにお願いしたいものを。
 ひとつは、今手伝っている市議会議員の選挙事務所には、障害者福祉関係の人たちの出入りが多いもんで、こちらを是非お願いします。
東北関東大震災障害者救援本部
ともかく、被災者みなさん大変ですけど、障害者の被災者は大変なんですよ。
 それから、医療救援活動を行っているここ。天災があれば世界のどこにでも飛んで行く、
特定非営利活動法人アムダ
私は、災害があったときの寄付先は、特に現地政府が信用できなかったりすることがあるので、まずはアムダにしています。


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