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職場に横行する性差別との戦い方──『フェミニスト・ファイト・クラブ 「職場の女性差別」サバイバルマニュアル』

フェミニスト・ファイト・クラブ 「職場の女性差別」サバイバルマニュアル

フェミニスト・ファイト・クラブ 「職場の女性差別」サバイバルマニュアル

  • 作者: ジェシカ・ベネット,Jessica Bennett,岩田佳代子
  • 出版社/メーカー: 海と月社
  • 発売日: 2018/08/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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昨今職場(やその他の場所)での性差別といったものは徐々に問題として取り上げられる機会が増え、解消に向かっているようにも見えるが、実態としてはまだまだ道半ばといったところだろう。だいたい「完全に差別が解消された状況」などというものがあるのかどうかもわからないが(終わりなきバランス調整があるだけかもしれない)。

「差別」というと強い言葉に聞こえる・見えるが、実態としては差別をしている側がそうと意識せずにしているケースもある。たとえば女性はお茶くみやゴミ出しをして当然だと「一言も言っておらず」、勝手に女性がやってくれているのだから好きでやっているのだろうと周囲が思っていたとしても、実態としてはそれは半強制的な空気に従っているにすぎないケースであるとか。職の機会平等など、被差別者自身が、それが差別的であるとすら気づかずに受けれ入れているケースも多々ある。

そういうわけで、本書『フェミニスト・ファイト・クラブ』は、まさにそんな状況下にある女性たちのための超実践的なサバイバルガイドである。『この本には、職場で横行する性差別との向き合い方や戦い方が書かれている。でも、それだけじゃない。みんなで力を合わせて、あらゆる不正と戦う方法も書かれている』

たとえば、秘書でも何でもない女性に対して雑用を押し付けてくる人物に対しての対策として、シェル・シルベスタインの詩「皿を拭かなきゃならないなら/皿を床に落とすんだ──/もう二度と/皿を拭かせられずにすむだろう」をひきながら、「皿を床に落とせ!(は少々過激なので、コーヒーを入れてくれと頼まれたら、母がコーヒーの入れ方を頑として教えてくれなかったので、いまだにわからないんです、と応えるなど)」とアドバイスをしたり、「ノー」と明確に断った後、なぜ自分がそれをしないのかの「理由」をはっきり伝える、「ちょっと今すごく忙しいんですけど、それでも私にコーヒーを入れてほしいんですか?」と答えるなどなど、過激なものから比較的温和なものまで、具体的な返答例を含めて、多様にガイドを入れてくれる。

そうした情報は、女性だけでなくなんとか自分が無意識的に差別に加担していることを防ぎたい、あるいは防ぐために何をしたらいいのかよくわからない、と思っている他の性別の方々にとっても有益だろう(実際、僕もその視点で読んでいる)。本書で挙げられているアドバイスの数々は非常に具体的かつ実践的なのは先の例ですでに明らかだと思うが、じゃあそれをすぐに職場で実践できるかといえばそれもなかなか難しい人が多いはず。これまでの「当たり前」を変えていくのはどんなものであれ骨が折れるものだし、相手に「ノー」を突きつけるのはなかなかストレスがかかる。

だから、差別的な事態にあっている人の隣の人、近くにいる人が「それは辞めたほうが良いですよ」とか、今の運用ルールは変えたほうがいいですね(不平等だから)、というだけで、話はずいぶんスムーズに進むものだ。本書の情報は、職場の「おかしなこと」をきちんと認識して、声をあげるためのきっかけとなってくれることだろう。

 この本は、私たちのような「性差別に気づきながら、大した問題ではない(あるいは、全部自分が悪いんだ)」と自分に言い聞かせている女性のために書いた。不正を目撃したとき、声をあげたいけど、そんなことをしたらペナルティを課せられるかも、と心配している女性や男性のために書いた。

ざっと紹介する

最後に追加でざっと中身を紹介しておくと、第一章は先程例にあげたような、女性に対する差別的な行動を取り上げ、それにどう対策をすればいいのかを解説していく。第二章では反転し「自分を知る」。雑用を強いられて特に反論もせず、見返りもないままやってしまう、優れた実績を残すのに謙遜して功績辞退をしてしまう、自分が成功できたのは周りに恵まれていたからだとかなんだとか周りを立てながらその実自分を自慢している「謙虚な自慢屋」になることの危険性など(卑下せず、事実を口にすればいい)、ありがちで落とし穴になりがちな「態度」のリスクを紹介していく。

第三章では、「彼女、チームを引っ張っていくにはいい人すぎ」など女性が言われがちな悪口、的はずれな批判を取り上げ、それにどう反論していくべきかを具体的に論じ、第四章では「やたらめったに謝る」や、給与交渉でやたらめったに絵文字を使うなど具体的にやめたほうがいい言動について、第五章では「ふざけるな。給料を払え」として具体的に交渉時におけるトラブルを想定した虎の巻になっている。ここに挙げられている対策を全部実行するというのは現実的ではないが、味方をつくり、少しずつ意識を変え、抵抗し、と部分的に取り入れられるところは多くあるだろう。

おわりに

男性読者にとっては、最後に「イヤな男にならずにすむ方法」という男性読者用のサービス・ページもあるので、読んでおくと良い。「皿洗いをして」とか、「言葉に気をつけて」とか、「(育児休暇などの)休みをとって」など、実現が困難なことは何も書いていない(が実際にはなかなか難しい)ことしか書いていないのでご安心。