講談社の野間副社長は「年内に2万点をデジタル化しろ」と社内に号令をかけ、同社のほとんどの著者に「契約書」を送っているようだ。その1通を入手したので、一部を引用する:
第3条(本著作物のデジタル的利用の目的)
  1. 甲[著者]は、第2条記載の目的にそって本著作物のデジタル的利用を乙[講談社]に許諾する。
  2. 本契約期間中、甲は自ら本著作物のデジタル的利用を行なわず、また、乙以外に本著作物のデジタル的利用を許諾しない。
第4条(利用の範囲)
  1. 乙は、本契約に基づき、本著作物のデジタル的利用について次の各号に掲げる行為をすることができる。
    1. 本著作物を自己の費用負担でデジタル化して、本デジタルコンテンツを製作すること。なお、本デジタルコンテンツは乙が管理し、デジタル化の過程で発生した本デジタルコンテンツに関する所有権は全て乙に帰属する
    2. 本デジタルコンテンツをデジタル的利用すること。なお、本デジタルコンテンツの卸価格または販売価格、販売サイト、販売の条件および方法に関しては乙が自主的に決定することができるものとする。
最大の問題は、上の第3条と第4条の講談社がデジタル化権を著者から奪って独占するという規定である。したがって他の出版社から電子出版したいという話があっても、著者は出すことができない。しかも講談社は、この本を電子出版すると約束していないので、彼らが出さないかぎりどこの電子書店でも売れない。

印税は第6条で「乙が当該利用によって得た金額×15%(消費税別)」と定められている。印刷・製本などの工程がなく間接費の小さい電子書籍で、このように低い印税率を設定するのは異常である。アマゾンもアップルも、著者が完全にレイアウトした場合は70%還元するとしており、アゴラブックスでは(当社でレイアウトした場合も)最大50%である。15%という印税率は(当社以外の)日本のほとんどの電子出版社で同一であり、カルテルを組んでいる疑いがある。

契約書も見ないで「どこからでも電子版は出せます」などといい加減なことを書いている業界ライターもいるが、こんな契約を結んだら、著者はアマゾンからもアップルからも電子書籍を出せないし、講談社が出さないと埋もれたままになる。出版するあてもないのに版権を囲い込むだけの契約を結ぶのは、著者を愚弄するものだ。アゴラブックスは、契約した電子書籍は必ず出版する(もちろん電子化権は独占しない)ので、問い合わせは申し込み窓口まで。

追記:玉井克哉氏に指摘されたが、「本デジタルコンテンツに関する所有権は全て乙に帰属する」という条項はおかしい。これだとネット配信して消費者の手元にある電子書籍も講談社のものということになる。「著作権」の誤りか。