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2010年10月29日のブックマーク (63件)

  • 『空の青み』ジョルジュ・バタイユ - ボヘミアの海岸線

    [愛と死と] Georges Bataille Le Bleu du Ciel, 空の青み (河出文庫) 作者: ジョルジュ・バタイユ,伊東守男出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2004/07/02メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 24回この商品を含むブログ (21件) を見る 暑かった。額の汗を拭った。すがりつける神を持った人々が羨ましかった。彼らにひきかえ私ときたら・・・・・・もう間もなく「目はただ泣くため」ということになるのだ。 バタイユの作品は、空のイメージに通じている。「目玉の話/マダム・エドワルダ」でも触れたけれど、あらためてそう思う。 自堕落な生活を送る男の恋物語である。彼は「不吉の鳥」と呼ぶ複数の女性たちと関係を持ちながら、その実、一人の女性を崇拝に近い心で愛している。だけど彼女は彼を捨てる。男はますます自分を堕落に追いつめていく。・・・ 不思議なだ。けっ

    『空の青み』ジョルジュ・バタイユ - ボヘミアの海岸線
  • 『夜間飛行』サン=テグジュペリ - ボヘミアの海岸線

    [影の中の一つの星] Antoine-Jean-Baptiste-Marie-Roger de Saint-Exupery Vol de Nuit,1931. 夜間飛行 (新潮文庫) 作者: サン=テグジュペリ,堀口大學出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1956/02/22メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 75回この商品を含むブログ (209件) を見る ――天候いかが?」彼は無線で搭乗員に尋ねさせた。 十秒ほど時間が過ぎた。 ――快晴」と、返信が来た。 小さい頃の私は、夜のライトを見ると興奮して走り出す奇癖があったらしい。ちびっこのすばしこさに手を焼いた親は、人ごみにまぎれて見失わないよう、子供の背中に風船をくくりつけた。私は夜が来るたび、オレンジ色の街燈、赤いテールランプ、遠くに見えるカフェの窓に灯る光に向かって走り出したそうで。風船をくくりつけられなくなった今でも夕暮れ時を

    『夜間飛行』サン=テグジュペリ - ボヘミアの海岸線
  • 『少女ソフィアの夏』トーベ・ヤンソン - ボヘミアの海岸線

    [対等な関係] Tove Jansson Sommarboken ,1973. 少女ソフィアの夏 作者: トーベ・ヤンソン,Tove Jansson,渡部翠出版社/メーカー: 講談社発売日: 1993/11/15メディア: 単行購入: 1人 クリック: 14回この商品を含むブログ (11件) を見る 北欧の小さな島で暮らす祖母の家に遊びに行く、少女ソフィアの夏の話。トーベ・ヤンソンの懐かしい記憶で描かれた、美しい作品だ。 親から子へと伝わるものがあるらしい。それは血であり、感情であり、好き嫌いであり、気がつくと似たようなものを手に取っていたりして、自分自身の選択に驚くことがある。 トーベ・ヤンソン好きは、どうやら母から受け継いだようだ。馬鹿がつくほどトーベ・ヤンソンが好きで、ムーミンシリーズにまつわる珍妙な武勇伝は、家族内でのネタになっている。当然のことながら、私も小さい頃ムーミンシリー

  • 『トーベ・ヤンソン短篇集』トーベ・ヤンソン - ボヘミアの海岸線

    [自然を描く] Tove Marika Jansson トーベ・ヤンソン短篇集 作者: トーベ・ヤンソン,冨原眞弓出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2005/07/06メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 30回この商品を含むブログ (49件) を見る トーベ・ヤンソン、彼女の小説は、「書く」より「描く」という言葉がにあう。フィンランドといえばムーミン。トーベは、そんなステレオタイプさえ生み出した、フィンランド生まれの女性作家。「ムーミン」シリーズは、アニメでおなじみの人も多いだろう。かばのような(失礼)ムーミンと、さすらいのスナフキン、そのほかゆかいな仲間が繰り広げるほのぼの物語……それが、日におけるムーミンの一般的なイメージだろうと思う。 ところがあのアニメ版ムーミンは、当のムーミンやトーベ・ヤンソンの作風とはちょっと違っていて、原作は、もうちょっとシュールで、野生味がある

    『トーベ・ヤンソン短篇集』トーベ・ヤンソン - ボヘミアの海岸線
  • 『島暮らしの記録』トーベ・ヤンソン - ボヘミアの海岸線

    [静寂の日々] Tove Marika Jansson Anteckningar fran en o ,1993. 島暮らしの記録 作者: トーベ・ヤンソン,冨原眞弓出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1999/07/01メディア: 単行購入: 3人 クリック: 79回この商品を含むブログ (28件) を見る まあ、人間には失策(へま)がつきものだ。だから、なんだというのか。 トーベ・ヤンソンは、その人生の大半を島(ハル)で過ごした。島、と言っても、フィンランドの島々は日のそれとは雰囲気がだいぶ異なる。海面上に岩礁がでこぼこと頭をのぞかせ、見渡す限り海は薄い青灰色、風雨は人の営みなどおかまいなしに気ままに振る舞う、そんな土地である。だからこそ、トーベ・ヤンソンと相棒トゥーリッキ、母親のハムは、孤島クルーヴハルに住もうと考えた。 芸術家の女性たちが3人、それにが1匹。たまに手伝いをし

    『島暮らしの記録』トーベ・ヤンソン - ボヘミアの海岸線
  • 『問いの書』エドモン・ジャベス - ボヘミアの海岸線

    [砂漠の言葉] Edmond Jabes Le Livre des Questions、1963. 問いの書 (叢書 言語の政治) 作者: エドモンジャベス,鈴木創士,Edmond Jabes出版社/メーカー: 書肆風の薔薇発売日: 1988/10メディア: 単行購入: 1人 クリック: 23回この商品を含むブログ (3件) を見る 人は夜のなかにわけ入る 針に糸を通すように、 幸福な それとも血まみれの入り口を通って、 このうえなく光り輝く裂け目を通って。 針と糸たらんとして 人は夜のなかにわけ入る あたかも己れのなかにわけ入るごとく。 エジプト生まれのユダヤ人による、書物の断片。 「砂漠の思考」が書かれているという話を聞いて以来、ずっとジャベスを読みたいと思っていた。 思うに世の中には、心に砂漠を持つ人間と持たない人間がいる。これまでいくつかのエントリで書いてきたが、私は砂漠や荒野、

    『問いの書』エドモン・ジャベス - ボヘミアの海岸線
  • 『インド夜想曲』アントニオ・タブッキ - ボヘミアの海岸線

    [合わせ鏡の旅] Antonio Tabucchi Notturno Indiano , 1984. インド夜想曲 作者: アントニオタブッキ,アントニオ・タブッキ,須賀敦子出版社/メーカー: 白水社発売日: 1991/01メディア: 単行 クリック: 10回この商品を含むブログ (21件) を見る 「あなたのにはなにか納得のいかないところがあるわ」 「なんだかわからないけれど、どこか納得がいかない」 「ぼくもそう思う」 イタリアの作家よる、インドをめぐる幻想の旅行記。主人公は、インドという外部の異国と、自分の内部の両方を旅する。 私の通う大学には、月に1、2回、古市が立つ。書は、その市で買ったものだ。2回このを読んだ。まずは大学図書館で、友人を待っている間に。その年の夏休みに、インドに行く予定だった。旅行資金のためにひどく貧乏で、を買うお金がまったくなかったので、図書館のすみ

    『インド夜想曲』アントニオ・タブッキ - ボヘミアの海岸線
  • 渦の真ん中に立つ|『供述によるとペレイラは…』アントニオ・タブッキ - ボヘミアの海岸線

    [渦の真ん中に立つ] Antonio Tabucchi SOSRIENE PEREIRA. UNA TERTMONIANZA , 1994. 供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑) 作者: アントニオタブッキ,Antonio Tabucchi,須賀敦子出版社/メーカー: 白水社発売日: 2000/08/01メディア: 新書購入: 2人 クリック: 22回この商品を含むブログ (25件) を見る イタリアの作家、タブッキの代表作。「供述によると、ペレイラは・・・」という書き出しが印象的な作品。タブッキはどこか幻想的な作風を持つが、この物語はどちらかといえば、ファシズムや社会主義に立ち向かう姿勢が描かれる。 タブッキの中でも異色作。彼はイタリア生まれだが、ポルトガルをこよなく愛した。作も、舞台は1938年のファシズムの影が忍び寄るリスボンである。 夕刊紙の文芸欄を担当し

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  • 『レクイエム』 アントニオ・タブッキ|これもまた追憶 - ボヘミアの海岸線

    [これもまた追憶] Antonio Tabucchi,Recuiem,1992. レクイエム (白水Uブックス―海外小説の誘惑) 作者:アントニオ タブッキ発売日: 1999/07/01メディア: 新書 今日は7月最後の日曜日ですね、足の悪い宝くじ売りが言った。町はからっぽ、木陰にいても40度はある。記憶のなかにしか存在しないひとに会うのには申し分のない一日だと思いますよ。 7月最後の日曜日にはいつも『レクイエム』を開くのがここ数年のならわしになった。陽炎が立ちのぼるような暑さのなかでは、この世とあの世の境が曖昧になっていく。かつて愛した「もう会えない」人々に会いに行くにはうってつけの季節である。 男は、うだるような蒸し暑いリスボンを彷徨する。人と会い、別れてゆく。ただこれだけの物語なのに、なぜこんなにも不可思議な魅力を放つのだろうか。 あんたは両手を広げて風景のなかを通り過ぎる夢遊病者の

    『レクイエム』 アントニオ・タブッキ|これもまた追憶 - ボヘミアの海岸線
  • 『東方綺譚』ユルスナール - ボヘミアの海岸線

    [東洋の青] Yourcenar Marguerite NOUVELLE ORIENTALES , 1983. 東方綺譚 (白水Uブックス (69)) 作者: マルグリット・ユルスナール,多田智満子出版社/メーカー: 白水社発売日: 1984/12メディア: 単行購入: 4人 クリック: 45回この商品を含むブログ (29件) を見る ベルギー生まれのフランスの小説家による、異国情緒短編集。 このには、「異国情緒」という言葉がぴったり似合う。中国、ギリシア、バルカン、ヒンズー教、イスラム教、そして日。いわゆる「西方」から見た「東方」、だけど私たち東洋人も、この「東方」を知らない。実際、日が舞台で、源氏が主人公の物語もあるのだが、どこか別の国の物語のように感じる。誰もが知っていそうで、誰もが知らない、そんな架空の異国の物語。 この作品ですばらしいと思うのは、東方の持つ湿気というか、水

    『東方綺譚』ユルスナール - ボヘミアの海岸線
  • 『グアテマラ伝説集』アストゥリアス - ボヘミアの海岸線

    [鉱物、あるいは古酒] Miguel Angel Asturias Leyendas De Guatemala,1930. グアテマラ伝説集 (岩波文庫) 作者: M.A.アストゥリアス,牛島信明出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2009/12/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 24回この商品を含むブログ (17件) を見る ある世紀に、幾世紀も続いた一日があった。 (「火山の伝説」より) 彼らは、あの腐植土の海のなかに、時として星の破片を、あるいは黄金虫の都市を見出した。そして、年老いた根はこう説明したものだ――この隕石に乗って、天から蟻がやって来たのだ、と。蚯蚓(みみず)ならそう言うことができるだろう、闇でものを見分ける力を失ってはいないのだから。 (「春嵐の妖術師たち」より) 南米文学の言葉には酒が入っているのではないかと、時々思うことがある。『グアテマラ伝説集』を読

    『グアテマラ伝説集』アストゥリアス - ボヘミアの海岸線
  • 『黄泥街』残雪│びっくりするほど糞尿まみれの街 - ボヘミアの海岸線

    「なんたる風だ、人の頭の中まで吹き散らかしおって、世界最後の日まで吹こうってんじゃないか?」 まみれる びっくりするほど糞尿まみれである。 「黄泥街」という街が、かつてあったらしい。一の通りで、黄色がかった灰色をしている空におおわれている。真っ黒な灰が降って積もる街。予想を軽く越える、すさまじい話だった。頭の中が真っ黒な風に吹き散らかされたかのような眩暈をおぼえる。 黄泥街 (白水Uブックス) 作者:残雪発売日: 2018/10/12メディア: 新書 街と住民は、常に糞と蛆と蝿、そのほかもろもろの虫、どろどろの腐敗によって描かれる。住民の会話は、カフカを思わせる不条理っぷり。ほとんどかみ合わず、らちもあかない妄想がくり広げられる。人が死に、なのに生きている。失踪した人間が、別の人間として現われたと思ったら、やっぱり違っている。すべてが剥離し、こぼれ落ちていく。 この混乱した世界の背景には

    『黄泥街』残雪│びっくりするほど糞尿まみれの街 - ボヘミアの海岸線
  • 『死んでいる』 ジム・クレイス - ボヘミアの海岸線

    [死の向こう] 死んでいる (白水uブックス―海外小説の誘惑) 作者: ジムクレイス,Jim Crace,渡辺佐智江出版社/メーカー: 白水社発売日: 2004/07/01メディア: 単行購入: 2人 クリック: 34回この商品を含むブログ (22件) を見る 死の向こうには、何が待っているだろうか。 英国の無神論者作家が描く、死にまつわる物語である。 この物語はちょっと変わっている。 主人公の動物学者夫婦は、物語のはじめから死んでいて、最後まで死んでいる。しかも彼らは殺されているのにも関わらず、犯人探しとか、残された家族の悲しみとか、ありきたりな方向へちっとも進んでいかない。 死体は一週間近く放置され、自然の掟のままにわれて腐敗していく。 なかなかシュールな描写なので、事中には読まない方がいいだろう。(死体はおうおうにしてべ物にたとえられる) 天国も地獄も煉獄も、輪廻転生も永劫回

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  • 『一つ半の生命』ソニー・ラブ・タンシ - ボヘミアの海岸線

    [地獄だ! 地獄だ!] Aony Labou Tnasi La Vie et Damie,1979. 一つ半の生命 作者: ソニーラブ・タンシ,Sony Labou Tansi,樋口裕一出版社/メーカー: 新評論発売日: 1992/04メディア: 単行 クリック: 24回この商品を含むブログ (1件) を見る ……<地獄>の文字が彼の額に輝く。 「いとしい兄弟よ、いとしい姉妹よ。私は諸君を私から救うために死ぬことにした。この中(彼は自分の胸を叩いた)、そのとおり、この中はもはや完璧に人間的でなくなったことを私は認める。ここもだ(彼は自分の頭を示した)、そのとおり、ここも人間的ではなくなった。そこで、わたしは諸君を私から救うために死ぬことに決めた。私を愛さねばならぬ。私を祝わねばならぬ。私の名を宝として残さねばならぬ」 人が死ぬ、息を吸うように人が死ぬ。 人々は、何の理由もなしに銃撃の雨を

    『一つ半の生命』ソニー・ラブ・タンシ - ボヘミアの海岸線
  • 『アレクサンドリア四重奏』ロレンス・ダレル - ボヘミアの海岸線

    [愛、この一言が] Laurece Darrell The Alexandria Qualtet,1957-1962. アレクサンドリア四重奏 1 ジュスティーヌ 作者: ロレンス・ダレル,高松雄一出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2007/03/17メディア: 単行購入: 5人 クリック: 81回この商品を含むブログ (45件) を見るアレクサンドリア四重奏 2 バルタザール 作者: ロレンス・ダレル,高松雄一出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2007/05/20メディア: 単行購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (23件) を見るアレクサンドリア四重奏 3 マウントオリーブ 作者: ロレンス・ダレル,高松雄一出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2007/06/20メディア: 単行購入: 1人 クリック: 5回この商品を含むブログ (16件)

    『アレクサンドリア四重奏』ロレンス・ダレル - ボヘミアの海岸線
  • 『白鯨』ハーマン・メルヴィル|世界は鯨でできている - ボヘミアの海岸線

    あのゆるぎない塔、あれはエイハブだ。あの火山、あれもエイハブだ。あの雄々しい、不とう不屈の、かちどきの声をあげる雄鶏、あれもエイハブだ。何もかもがエイハブだ。 「おお、エイハブ!」スターバックがさけんだ。「いまからでも遅くはありません。ご覧ください! モービィ・ディックはあなたを求めてはいません。やつを狂ったように求めているのは、あなた、あなたなのです!」 メルヴィルが心の中に抱いていた地球儀は、きっと鯨型であるに違いない。 白鯨 上 (岩波文庫) 作者: ハーマン・メルヴィル,八木敏雄出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2004/08/19メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 148回この商品を含むブログ (70件) を見る白鯨 中 (岩波文庫) 作者: ハーマン・メルヴィル,八木敏雄出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2004/10/15メディア: 文庫購入: 3人 クリック:

    『白鯨』ハーマン・メルヴィル|世界は鯨でできている - ボヘミアの海岸線
  • 『魔術師のたいこ』レーナ・ラウラヤイネン - ボヘミアの海岸線

    [世界に歌あふれ] Leena Laulajainen Taikarumpu Kertoo,1980. 魔術師のたいこ 作者: レーナラウラヤイネン,Leena Laulajainen,荒牧和子出版社/メーカー: 春風社発売日: 2006/06/01メディア: 単行購入: 1人 クリック: 33回この商品を含むブログ (6件) を見る 東風は西へヌンヌンヌー 西風は東へヌンヌンヌー 南風は北へヌンヌンヌー 北風は南へヌンヌンヌー 約束通りの風の道 東西南北正しい向きに ヌンヌンヌー ヌンヌンヌー (「風の帽子」より) 風が荒れ狂ったら、四角い帽子を振りふり「ヌンヌンヌー」と歌えばいい。風は魔術師とした約束を思い出して、自分がとおるべき風の道をヌンヌンヌーと吹き抜けるだろう。 ノルウェイ、フィンランド周辺に住むサーメ人が語り伝えてきた12の物語を収める。かつて世界には魔術師がいて、人々の生

    『魔術師のたいこ』レーナ・ラウラヤイネン - ボヘミアの海岸線
  • 『わが町』ソーントン・ワイルダー - ボヘミアの海岸線

    [平凡な日々] Thornton Wilder Owr Town,1938. ソーントン・ワイルダー〈1〉わが町 (ハヤカワ演劇文庫) 作者: ソーントンワイルダー,Thornton Wilder,鳴海四郎出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2007/05/24メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 44回この商品を含むブログ (35件) を見る レベッカ:……牧師さんから手紙が来たんだって。その封筒に書いてある宛名がさ、こうなのよ。ジェーン・クロファットさま、クロファット農場、グローヴァーズ・コーナーズ街、サトン郡、ニューハンプシャー州、アメリカ合衆国。 ジョージ:どこがおかしいんだい? レベッカ:聞いてなさい、まだあるんだから。アメリカ合衆国、北アメリカ大陸、西半球、地球、太陽系、宇宙、神のみ心――そう書いてあったのよ、封筒に。 ジョージ:へええ! 老若男女とわずこれまで私が好きだ

    『わが町』ソーントン・ワイルダー - ボヘミアの海岸線
  • 『夜の果てへの旅』 セリーヌ - ボヘミアの海岸線

    [Nonを言い続けたその果ては] Louis-Ferdinand Céline Voyage au bout de la nuit, 1932. 夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫) 作者: セリーヌ,Louis‐Ferdinand C´eline,生田耕作出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2003/12メディア: 文庫購入: 11人 クリック: 224回この商品を含むブログ (73件) を見る夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫) 作者: セリーヌ,Louis‐Ferdinand C´eline,生田耕作出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2003/12メディア: 文庫購入: 9人 クリック: 44回この商品を含むブログ (50件) を見る フランスの作家が語る「世界の果て」。著者の遍歴は変わっていて、医者をやったり、戦争に従軍したり、フランスを批判して追われたりしている。書の

    『夜の果てへの旅』 セリーヌ - ボヘミアの海岸線
  • 『審判』フランツ・カフカ - ボヘミアの海岸線

    [なにかがおかしいはずなのに] Franz Kafka DER PROZEß ,1925. 審判―カフカ・コレクション (白水uブックス) 作者: フランツカフカ,Franz Kafka,池内紀出版社/メーカー: 白水社発売日: 2006/05/01メディア: 新書 クリック: 21回この商品を含むブログ (36件) を見る 平凡なサラリーマンのKが、なぜか裁判に巻きこまれ、何の裁判かも分からないまま、次第に追いつめられていく話。 この小説には、全体を通して形の見えない、しかしとてつもなく大きく見える不安がある。 なにかが根的におかしくて、不安はどんどん大きくなっていくのに、いっこうにその正体がつかめない。 道端で出会った人が、自分の名前を知っていて、自分が裁判にかけられていることも知っている。 そんな状況は、普通に考えて明らかにおかしい。 しかし、おかしいことが説明もなしに続いていくと

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  • 『消去』トーマス・ベルンハルト|消してしまいたい、こんな思いは - ボヘミアの海岸線

    私の頭に最終的に残っている唯一のものは、と私はガンベッティに言った、「消去」というタイトルだ。というのも私の報告は、そこに描写されたものを消去するために書かれるからだ。私がヴォルフスエックという名で理解しているすべて、ヴォルフスエックであるすべて、ガンベッティ君、私の言っていることが分かるかね、当にそして実際にすべてを消去するために書くのだ。この報告の後には、ヴォルフスエックであるものすべてが消去されていなければならない。私の報告は消去以外の何ものでもないのだ、と私はガンベッティに言った。 ーートーマス・ベルンハルト『消去』 消してしまいたい、こんな思いは 少しの欺瞞も許せない潔癖な男が、呪いの言葉を吐きながら、静かに自分を消していく瞬間を見た。 「私はあなたたち一族が嫌でしかたがない。私が不幸になったのは全部あなたたちのせいよ」と、彼女は私に言った。彼女は世界を呪いながら生きている。十

    『消去』トーマス・ベルンハルト|消してしまいたい、こんな思いは - ボヘミアの海岸線
  • 『不穏の書、断章』フェルナンド・ペソア - ボヘミアの海岸線

    [自己という迷宮] Fernando Antonio Nogueira de Seabra Pessoa Bivro do desassossego. 不穏の書、断章 作者:フェルナンド ペソア出版社/メーカー: 思潮社発売日: 2000/10メディア: 単行新編 不穏の書、断章 (平凡社ライブラリー) 作者:フェルナンド・ペソア出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2013/01/10メディア: 単行 神の不在。それもまた、ひとつの神である。 他人を理解することは誰にもできない。 自分の精神以外のものは、どんなに努力してみても、私の眼には画き割りや装飾品でしかない。……だから、私はいつも人間の動きを――歴史上の共同体の大いなる悲劇や出来事を――色のついた流れのように感じた。そこには、事件を体験する人々の魂は不在なのだ。私や中国で起きた事件のために心を悩ましたことはない。それは、たとえ血

    『不穏の書、断章』フェルナンド・ペソア - ボヘミアの海岸線
    inmymemory
    inmymemory 2010/10/29
    "ベルナルド・ソアレス、リカルド・レイス、アルヴァロ・デ・カンポス、アルベルト・カエイロ、そしてフェルナンド・ペソア。彼は異なる略歴と思想を持つ詩人たちを自己の中に見出し70人近くの人格を生み出した"
  • 『砂時計』ダニロ・キシュ - ボヘミアの海岸線

    [影揺れる] Danilo Kis Pescanik, 1972. 砂時計 (東欧の想像力 1) 作者: ダニロ・キシュ,奥彩子出版社/メーカー: 松籟社発売日: 2007/01/31メディア: 単行購入: 1人 クリック: 23回この商品を含むブログ (10件) を見る …煙の道は、ランプにたどりつくまでは見えないが、火屋をすぎると、青みがかった色が流れていくのが見える。炎に近づいていく、一の手。 ほの暗い書斎の中で、ゆらりと炎が燃えている。一通の手紙が光のそばにあり、そこからまるで魔法のように、ある男、今はもういなくなってしまった男の肖像が立ちのぼる。 ひさびさに魔法を見た。書は、「E.S.」という男を中心とした物語の断片からできている。断片では、「旅の絵(写実描写)」「ある狂人の覚書(手記風)」「予審(他者の会話)」「証人尋問(会話形式)」といった、文学的なさまざまな形式が試み

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  • 『肉桂色の店』『砂時計サナトリウム』ブルーノ・シュルツ - ボヘミアの海岸線

    グロテスクなのに美しい Bruno Schulz Skeipy Cynamonowe,1934. Sanatorium pod klepsydra,1937. シュルツ全小説 (平凡社ライブラリー) 作者: ブルーノシュルツ,Bruno Schulz,工藤幸雄出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2005/11/10メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 50回この商品を含むブログ (39件) を見るコスモス―他 (東欧の文学) 作者: ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ,工藤幸雄出版社/メーカー: 恒文社発売日: 1990/03メディア: 単行購入: 3人 クリック: 28回この商品を含むブログ (10件) を見る 書を読んでいる時の私は、きっとかなりの不審者だっただろう。いったい何回「うわあ……」とつぶやいたのか、もはやさっぱり覚えていない。 ゴンブロヴィッチ、ヴィトキエヴィチらとともに

    『肉桂色の店』『砂時計サナトリウム』ブルーノ・シュルツ - ボヘミアの海岸線
  • 『密会』ウィリアム・トレヴァー - ボヘミアの海岸線

    [愛は沈黙の裏に] William Trevor A Bit on the Side,2004. 密会 (新潮クレスト・ブックス) 作者: ウィリアムトレヴァー,William Trevor,中野恵津子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/03/01メディア: 単行購入: 1人 クリック: 32回この商品を含むブログ (39件) を見る 彼らは愛を抱きつつ、離れてゆき、お互いから立ち去った。未来は、今2人が思っているほど暗いものではないと気づかずに。 ——「密会」より 「Weep」という単語は、アメリカ大陸のためではなくブリテン島のためにある。書に収められている短編「ローズは泣いた」(原題“Rose Wept”)を読んで、そんなことを思った。ジョージ・ハリスンだって“While My Guitar Gently Weeps”と歌っている。 このはそこそこの厚さがあるが、どこま

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  • 『島とクジラと女をめぐる断片』アントニオ・タブッキ - ボヘミアの海岸線

    [難破船のような物語の断片] Antonio Tabucchi Donna di Porto Pim,1983. 島とクジラと女をめぐる断片 作者: アントニオ・タブッキ,須賀敦子出版社/メーカー: 青土社発売日: 2009/12/24メディア: 単行 クリック: 17回この商品を含むブログ (7件) を見る 火を吐く山々、風、孤独。16世紀、ここに最初に上陸したポルトガル人の1人は、アソーレス諸島についてそう書いている。 ポルトガルをこよなく愛するイタリア人作家が書いた、果ての島にまつわる物語の断片たち。このを「短編集」と呼んでいいのかどうか分からない。書物というよりは、砂浜に流れ着いたボトルメールに似ている気がする。 難破船の甲板に座りながら、一面青の「無音の風景」をずっと眺めているような、不思議な読後感にとらわれた。読了してからしばらく経った時の方が印象深くなる。だから、この

    『島とクジラと女をめぐる断片』アントニオ・タブッキ - ボヘミアの海岸線
  • 『ブラッド・メリディアン』コーマック・マッカーシー|暴力と血が沸騰する狂信の荒野 - ボヘミアの海岸線

    こうして2つの集団は真夜中の平原で分かれてそれぞれが他方のたどってきた道をたどり、すべての旅人がしなければならないように他人の旅路の上で果てしない反転を行っていくのだった。 この世界のあり方は花が咲いて散って枯れるというものだが人間に関しては衰えというものがなく生命力の発現が最高潮に達する正午が夜の始まりの合図となる。……人間の絶頂(メリディアン)は同時に黄昏でもあるんだ。 ――コーマック・マッカーシー『ブラッド・メリディアン』 ブラッド・メリディアン 作者:コーマック・マッカーシー出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2009/12/18メディア: ハードカバー 「命の価値」について考察する時、「自分の命と他人の命は同等か」という問いにぶちあたる。もちろん、倫理的に答えるなら「すべての命の価値は等価である」。しかし、タイタニック沈没においてはまず女子供が救助ボートに乗り、老人は後に残され

    『ブラッド・メリディアン』コーマック・マッカーシー|暴力と血が沸騰する狂信の荒野 - ボヘミアの海岸線
  • 『デス博士の島そのほかの物語』ジーン・ウルフ - ボヘミアの海岸線

    [綺想きらめく] Gene Rodman Wolfe The Island of Doctor Death and Other Stories ,1970. デス博士の島その他の物語 (未来の文学) 作者: ジーンウルフ,Gene Wolfe,浅倉久志,柳下毅一郎,伊藤典夫出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 2006/02/01メディア: 単行購入: 2人 クリック: 56回この商品を含むブログ (135件) を見る 去年から、国書刊行会「未来の文学」シリーズを読み始めている。70年代のモダンSFってけっこう好きかもしれない。 ごつい表紙とは裏腹に、端正で美しいSF短編集。「博士」3部作とその他2編を収める。どれも超絶技巧の職人技みたいな構造で、うっかり流し読みしようとすると置いてかれる。このはゆっくりと腰を落ち着けて読みほどきたい。 ジーン・ウルフの作品では、非情な現実とロマンが

    『デス博士の島そのほかの物語』ジーン・ウルフ - ボヘミアの海岸線
  • 『トラストD.E.―小説・ヨーロッパ撲滅史』イリヤ・エレンブルグ - ボヘミアの海岸線

    [愛しているから滅ぼしたい] Илья Григорьевич Эренбург Трест Д.Е.,1923. トラストDE―小説・ヨーロッパ撲滅史 (文学の迷宮) 作者: イリヤエレンブルグ,小笠原豊樹,三木卓出版社/メーカー: 海苑社発売日: 1993/03メディア: 単行購入: 1人 クリック: 63回この商品を含むブログ (2件) を見る 愛するがゆえに、ヨーロッパを滅亡させた男の物語。 1920年代のソ連で生まれた、寓話的なディストピア。「自ら破壊しながらノスタルジーにふける」という離れ業をやってのける男をユーモラスに、しかし淡々と描き出す絶品の小説。陰なディストピア小説には辟易しているが、書のようなものなら歓迎だ。 モナコ公の落胤エンス・ボートはヨーロッパで育った後にアメリカへ渡り、ヨーロッパを絶滅させることを思いつく。 エンス・ボートの行動はすばやい。「トラストD.

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  • 『ドン・キホーテ 後篇』セルバンテス - ボヘミアの海岸線

    [夢破れて] Miguel de Cervantes Saavedra Don Quijote de la Mancha,1615. ドン・キホーテ〈後篇1〉 (岩波文庫) 作者: セルバンテス,Miguel De Cervantes,牛島信明出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2001/02/16メディア: 文庫 クリック: 18回この商品を含むブログ (13件) を見る 「ご主人は狂人だ。しかし、ずる賢さはない。魂が水瓶の水のように澄んでいる。よいことばかりをしようとなさる」 「サンチョは裸で生まれて今も裸。損もしなけりゃ得もしねえ」 遍歴の騎士の行く先に、暗雲立ちこめる。愉快痛快な「前篇」とはうってかわって、後篇では憂さが増してゆく。 おそらく、『ドン・キホーテ』が前篇のみで終わっていたら、これほどの名声を博することはなかっただろう。前篇という愉快なコメディの上に、セルバンテスは

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  • 『ドン・キホーテ 前篇』セルバンテス - ボヘミアの海岸線

    [最も愉快で憂な] Miguel de Cervantes Saavedra Don Quijote de la Mancha,1605. ドン・キホーテ〈前篇1〉 (岩波文庫) 作者: セルバンテス,Cervantes,牛島信明出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2001/01/16メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 130回この商品を含むブログ (57件) を見る 名だたる文豪100人が選ぶ「史上最高の文学百選」第1位。 スペイン文学に手厳しい南米人に「ドン・キホーテは別格」といわしめる。 ドストエフスキーが「これまで天才が創造した書物の中で、最も偉大かつ最も憂な書物」と評した。 『ドン・キホーテ』という、このなんとも桁外れな作品について語るにあたっての前置きはこれくらいにしておこう。一言でいえば「めちゃくちゃおもしろい。とりあえず読むべし」で済むのだが、これではいくら何で

    『ドン・キホーテ 前篇』セルバンテス - ボヘミアの海岸線
    inmymemory
    inmymemory 2010/10/29
    "文豪100人が選ぶ「史上最高の文学百選」第1位。スペイン文学に手厳しい南米人に「ドン・キホーテは別格」といわしめる。ドストエフスキーが「これまで天才が創造した書物の中で最も偉大かつ最も憂鬱な書物」と評した"
  • 『競売ナンバー49の叫び』トマス・ピンチョン - ボヘミアの海岸線

    [陰謀か幻想か?] Thomas Pynchon The Crying of LOT 49,1966. 競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫) 作者: トマス・ピンチョン,志村正雄出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2010/04/07メディア: 文庫購入: 7人 クリック: 63回この商品を含むブログ (46件) を見る競売ナンバー49の叫び (Thomas Pynchon Complete Collection) 作者: トマスピンチョン,Thomas Pynchon,佐藤良明出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2011/07/01メディア: 単行購入: 5人 クリック: 18回この商品を含むブログ (32件) を見る さてエディパの方は、というのに、なんとも多数の部分から成り立つ<神>の隠喩に直面している。……このごろはどちらを向いても偶然ばかりが花ざかり、その偶然を結びつけるも

    『競売ナンバー49の叫び』トマス・ピンチョン - ボヘミアの海岸線
  • 『青い野を歩く』クレア・キーガン - ボヘミアの海岸線

    人生のある時点で、ふたりの人間が同じことを望むことはまずない。人として生きるなかで、ときにそれはなによりもつらい。 だれかに触れられたのは3年ぶりで、他人の手の優しさに、彼ははっとする。どうして、やさしさのほうが怪我よりも人を無力にするのだろう? ――「青い野を歩く」より 秘めた心を 振り返ってみれば、白水社が「エクス・リブリス」シリーズを刊行し始めたのは、2009年のことだった。もうずいぶん長い間付き合ってきたような気がするが、まだそんなものだったらしい。このシリーズはどれも好きだが、中でも作はすばらしかった。 青い野を歩く (エクス・リブリス) 作者: クレアキーガン,Claire Keegan,岩正恵出版社/メーカー: 白水社発売日: 2009/12/01メディア: 単行購入: 2人 クリック: 84回この商品を含むブログ (30件) を見る アイルランドの女性作家が描く、憂愁

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  • 『パルムの僧院』スタンダール - ボヘミアの海岸線

    [愛を中心に、踊れ世界] Stendhal La Chartreuse de Parme,1839. パルムの僧院(上) (新潮文庫) 作者: スタンダール,大岡昇平出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1951/02/19メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 11回この商品を含むブログ (12件) を見るパルムの僧院(下) (新潮文庫) 作者: スタンダール,大岡昇平出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1951/03/27メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 6回この商品を含むブログ (11件) を見る 「こんなことを笑いながら話すのはまちがっている」 イタリアに恋する作家が、イタリアで恋する人々の群像劇を書いた。「愛」を中心に、小さな世界で人間がぐるぐる踊る物語。 スタンダールはイタリアが当に好きなんだなあと思った。とにかく、人物全員がそれぞれ自分の思うままに生きていて、きらき

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  • 『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ - ボヘミアの海岸線

    [歴史と人の心の、巨大ジオラマ] Лев Николаевич Толстой Анна Каренина,1877. アンナ・カレーニナ〈上〉 (岩波文庫) 作者: トルストイ,中村融出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1989/11/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 6回この商品を含むブログ (14件) を見るアンナ・カレーニナ〈中〉 (岩波文庫) 作者: トルストイ,中村融出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1989/11/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 2回この商品を含むブログ (6件) を見るアンナ・カレーニナ〈下〉 (岩波文庫) 作者: トルストイ,中村融出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1989/11/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (7件) を見る ドストエフスキーにして「非の打ち所のない傑作」と言わ

    『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ - ボヘミアの海岸線
    inmymemory
    inmymemory 2010/10/29
    "ドストエフスキーにして「非の打ち所のない傑作」と言わしめた、文学史上に不滅の名を残した作品"
  • 『一角獣・多角獣』シオドア・スタージョン - ボヘミアの海岸線

    [奇妙な味わい] Theodore Sturgeon E Pluribus Unicorn,1953. 一角獣・多角獣 (異色作家短篇集) 作者: シオドアスタージョン,Theodore Sturgeon,小笠原豊樹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2005/11メディア: 単行購入: 2人 クリック: 70回この商品を含むブログ (74件) を見る 早川書房「異色作家短編集」シリーズの一作、まさに「異色」という言葉が似合うスタージョンの短編集。マニア垂涎もののらしい。新装版としてシリーズが復刊される前までは、『一角獣・多角獣』は古書店の高値取引リストに名を連ねていたという。 スタージョンの作品は変だ。変だが、奇妙な魅力がある。いきなり船から海に突き落とされて、「えっ?」と思う間に救助ロープがおりてくる。やれやれ助かったとロープをにぎった瞬間、ロープがばっさり切られて呆然とする。ス

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  • 『外套・鼻』ゴーゴリ - ボヘミアの海岸線

    [あることはあり得る] Николай Васильевич ГогольНос,1836. Шинель,842. 外套・鼻 (岩波文庫) 作者: ゴーゴリ,平井肇出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2006/02/16メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 20回この商品を含むブログ (72件) を見る ……実際、不合理というものはどこにもありがちなことだから――稀にではあるが、あることはあり得るのである。(「鼻」より) 一昨年買ったコートの裏地が破けてしまった。今年は新調しなくては。というわけで、ゴーゴリ。 昔から、このが大好きである。高校生時代に読んだころは、「何て変てこな物語なんだ!」と驚嘆した。それからいろいろなを読んで、久しぶりに読み返してみたらやっぱり変てこだった。ああもう好きだ、ゴーゴリ。 「外套」は、貧乏士官のアカーキイが、長年使い古した外套をとうとう買い直すと

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  • 『賢い血』フラナリー・オコナー - ボヘミアの海岸線

    [清潔であることの生きにくさ] Flannery O`Connor WISE BLOOD , 1952. 賢い血 (ちくま文庫) 作者: フラナリーオコナー,Flannery O'connor,須山静夫出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1999/05メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 12回この商品を含むブログ (28件) を見る 「祈るな、それは嘘だ」 39歳で不治の病で逝去する、アメリカ女性作家による、いかれたコメディ。「祈るな。それは嘘だ。」という帯の一文があまりに印象的だったために手に取った。 神はいるかいないか、救いはあるのかという宗教的な問題がテーマの物語だ。 「キリストのいない教会」を説いてまわる主人公ヘイズは、言動ともにかなりクレイジーな人間だ。自家製の宗教をあがめ、あちこちで布教する。いわゆる「新興宗教」みたいなものだが、これがさまざまな矛盾をはらむ代物で、じつ

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  • 『冬の犬』アリステア・マクラウド - ボヘミアの海岸線

    私たちは、将来のいつかまたその時が来るまで生き長らえることになった。 犬はもはや、将来のいつかそのときのために命を救われることはなかった。(「冬の犬」より) 流氷のような 昔よりも、寒い季節が好きになった。おそらく冬好きの人間がそばにいたせいだろう。うまいスープを飲んで、暖かい部屋でのんびりとを読む。冬の楽しみ方が少しだけ上手になったように思う。 冬の犬 (新潮クレスト・ブックス) 作者: アリステア・マクラウド,中野恵津子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2004/01/30メディア: 単行(ソフトカバー)購入: 4人 クリック: 56回この商品を含むブログ (68件) を見る 日よりもずっとずっと寒い極北の地、カナダの現代作家による短編集を読んだ。舞台はカナダ東端にある厳冬の島、ケープ・ブレトン。冬には流氷が接岸する。 このは、白と深緑、そして赤のイメージがある。しんしんと積

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  • 『死者の軍隊の将軍』イスマイル・カダレ - ボヘミアの海岸線

    [雨と死はいたるところに] Ismail Kadare Gjenerali i Ushtris〓 s〓 Vdekur,1963. 死者の軍隊の将軍 (東欧の想像力) 作者: イスマイルカダレ,Ismail Kadare,井浦伊知郎出版社/メーカー: 松籟社発売日: 2009/10メディア: 単行購入: 4人 クリック: 70回この商品を含むブログ (25件) を見る 「これだけの名簿や手順書をもってしても、われわれは無力だ。彼らの死の後を追ってあちらこちらとうろつき回り、一つまた一つと集めていく。何だってこんな目に遭うんだ?」 「運命ですよ」 将軍はうなずいた。やっぱりまるで芝居だな、と思った。 「死者の埋葬」は、人と獣を分ける分水嶺のひとつだと言われている。人を弔う。不在を悲しむ。さてそれは、恐れのためか慰めのためか? アルバニア作家 イスマイル・カダレの処女作。外国で死んだ兵士を掘り

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  • 『コンゴ・ジャーニー』レドモンド・オハンロン - ボヘミアの海岸線

    [なんだこれは] Redmond O'Hanlon Congo Journey,1996. コンゴ・ジャーニー〈上〉 作者: レドモンドオハンロン,Redmond O'Hanlon,土屋政雄出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/04/01メディア: 単行購入: 6人 クリック: 56回この商品を含むブログ (23件) を見るコンゴ・ジャーニー〈下〉 作者: レドモンドオハンロン,Redmond O'Hanlon,土屋政雄出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/04/01メディア: 単行購入: 6人 クリック: 11回この商品を含むブログ (17件) を見る 「でも、マヌー、なぜラリーの言うようにしない? 霊なんて捨ててしまえ。さよならを言って、自由になれ。ラリーは正しいんじゃないのか。生活の邪魔になる霊などいらないだろう」…… 「あんたたち白人って……」マヌーは私をじっと

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  • 『鰐 ドストエフスキーユーモア小説集』ドストエフスキー - ボヘミアの海岸線

    [ワニに呑まれた] Фёдор Михайлович Достоевский,Крокодил,1865. 鰐 ドストエフスキー ユーモア小説集 (講談社文芸文庫) 作者: ドストエフスキー,工藤精一郎,原卓也出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/11/09メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 46回この商品を含むブログ (21件) を見る ……当然のことながら君には、鰐の根的な特質はどんなものか、という疑問が生ずる。答えは明瞭――人間を呑むことさ。(「鰐」より) 書を読んでいると、何人から「その題名、何て読むの?」と聞かれた。「ワニ」と読む。川に潜んで、動物や人を待ち伏せてパクリとやる、あのワニである。ワニに呑まれる。何ともぞっとしない話である。しかし、ワニの腹の中は住み心地が良いらしい。 書は、ドストエフスキーのユーモア小説を集めた短編集。表題「鰐」は、ワニの腹の中で

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  • 『可笑しい愛』ミラン・クンデラ - ボヘミアの海岸線

    [笑えない悲しみ] Milan Kundera Risibles Amours,1968. 可笑しい愛 (集英社文庫) 作者: ミランクンデラ,Milan Kundera,西永良成出版社/メーカー: 集英社発売日: 2003/09メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 29回この商品を含むブログ (17件) を見る 私たちは目隠しをしたたま現在を横切る。私たちにできるのはせいぜい、自分が何を経験しつつあるのかを予感し、推察することぐらいだ。のちになって目隠しが解かれ、過去を検証するときになってやっと、私たちは自分がなにを経験したのかに気づき、その意味を理解するにすぎない。 (「誰も笑おうとしない」より) チェコの作家としては、日ではカフカの次に有名であろうミラン・クンデラの初期短編集。クンデラの作品は非常に都会的だ。笑顔で容赦なく、しかもエレガントに人の心を暴いてくる。繊細な美学を持つ

    『可笑しい愛』ミラン・クンデラ - ボヘミアの海岸線
  • 『黒い時計の旅』スティーブ・エリクソン - ボヘミアの海岸線

    [交錯する20世紀たち] Stive Erickson Tours of the Black Clock,1989. 黒い時計の旅 (白水uブックス) 作者: スティーヴエリクソン,Steve Erickson,柴田元幸出版社/メーカー: 白水社発売日: 2005/08/01メディア: 単行購入: 9人 クリック: 115回この商品を含むブログ (128件) を見る お前はおれを覚えているはずだ。何といってもこれは20世紀がまっ二つに切り裂かれる瞬間なのだ。 3年後、のぼり行く月がバニング・ジェーンライトの20世紀からもうひとつの20世紀へとひそかに移動する。 現代アメリカ作家が描く、2つの「20世紀」の物語。 20世紀の忘れがたい傷跡としての「ナチス・ドイツ」。ヒトラーが負けたのはソビエト進軍が原因といわれているが、もしヒトラーがソビエト進軍をしなかったとしたら? 物語はヒトラーが死ん

    『黒い時計の旅』スティーブ・エリクソン - ボヘミアの海岸線
  • 『罪と罰』ドストエフスキー - ボヘミアの海岸線

    [罪は意識] Фёдор Михайлович Достоевский,Преступление и наказание,1866. 罪と罰〈上〉 (新潮文庫) 作者: ドストエフスキー,工藤精一郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1987/06/09メディア: 文庫購入: 10人 クリック: 197回この商品を含むブログ (206件) を見る罪と罰〈下〉 (新潮文庫) 作者: ドストエフスキー,工藤精一郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1987/06/09メディア: 文庫購入: 13人 クリック: 34回この商品を含むブログ (114件) を見る 「人間には空気が必要ですよ、空気、空気が……何よりも!」 ドストエフスキー作品は超一流のエンターテイメントである。私にとって「変態」と「エンターテイメントとしていける」は最高の褒め言葉だが、ややもすると誤解を招く。まあつまりは「びっくりす

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  • 『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス|追憶と忘却の雨 - ボヘミアの海岸線

    [追憶と忘却の雨] Julio Llamazares La lluvia amarilla , 1988. 黄色い雨 作者:フリオ・リャマサーレス発売日: 2005/09/01メディア: 単行 毎年秋になると必ずあの雨が降る。家々と墓石を埋め尽くす雨。人々を老いさせる雨。人の顔を、手紙や写真を少しずつ破壊してゆく雨。 「記憶と忘却」は、わたしがこよなく愛するテーマのひとつだ。だからこの作品との出会いは至福である。なぜ人は生きた証を残そうとするのか? なぜ人は忘れるのか? 人の歴史とは、記憶と忘却の天秤のゆらめきか? 人はいつ死ぬか。呼吸が止まったときに人の体は滅びるが、死んだ後も記憶は残る。ある意味で、死んだ人は記憶の中で生き続けている。当に死ぬのは、誰にも思い出されず、誰からも弔われなくなったときだ。ならば、誰か忘れずに思い出し続けていればいい。そうして男は、暮れなずむ廃村の中でただ

    『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス|追憶と忘却の雨 - ボヘミアの海岸線
    inmymemory
    inmymemory 2010/10/29
    "「記憶と忘却」は、わたしがこよなく愛するテーマのひとつだ。だからこの作品との出会いは至福である。なぜ人は生きた証を残そうとするのか? なぜ人は忘れるのか? 人の歴史とは、記憶と忘却の天秤のゆらめきか?"
  • 『狼たちの月』フリオ・リャマサーレス - ボヘミアの海岸線

    [逃走か死か] Julio Llamazares Luna De Lobos, 1985. 狼たちの月 作者: フリオリャマサーレス,Julio Llamazares,木村榮一出版社/メーカー: ヴィレッジブックス発売日: 2007/12メディア: 単行購入: 2人 クリック: 33回この商品を含むブログ (20件) を見る 「山の匂いがするわ」と彼女が言う。「狼みたい」 「じゃあ、ぼくは人間じゃないのかい?」 「帰る場所」について、考えることがある。「ただいま」といえる場所、「おかえり」といってくれる存在は、おそらく人間が望んでやまないものではないだろうか? もし、家、家族、土地、友人、恋人――帰る場所をことごとく、しかも永遠に失ってしまったとしたら、人はどこまで人でいられるか。 スペイン内乱に巻き込まれ、逃げるか死ぬかののっぴきならない状況を生き延びた男の10年。語り手アンヘルと3人

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  • 『日はまた昇る』アーネスト・ヘミングウェイ - ボヘミアの海岸線

    [それでいい] Ernest Miller Hemingway The Sun Also Rises, 1926. 日はまた昇る (新潮文庫) 作者: アーネストヘミングウェイ,Ernest Hemingway,高見浩出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/06/28メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 31回この商品を含むブログ (63件) を見る これでいいのだ。恋人を旅立たせて、ある男と馴染ませる。次いで別の男に彼女を紹介し、そいつと駆け落ちさせる。そのあげくに、彼女をつれもどしにいく。そして電報の署名には“愛している”と書き添える。そう、これでいいのだ。ぼくは昼を取りにいった。 簡潔な文章を読みたくて、ならばとヘミングウェイを読んだ。いわゆるハードボイルド、「男の美学」がどうにも苦手で敬遠がちなのだが、この作品はさらりと読めた。 性的に不能な男、ジェイクが主人公である。

    『日はまた昇る』アーネスト・ヘミングウェイ - ボヘミアの海岸線
    inmymemory
    inmymemory 2010/10/29
    この仮説は限りなく正しい→"失ったものを知りながら、それでも「これでいいのだ」と嘯いてみせる。ううむ、まさにハードボイルド。村上春樹好きはこの本が好きなんじゃないかな"
  • 『かもめ・ワーニャ伯父さん』チェーホフ - ボヘミアの海岸線

    [それでも人は生きていく] Антон Павлович Чехов Чайка,1895. Дядя Ваня,1899. かもめ・ワーニャ伯父さん (新潮文庫) 作者: チェーホフ,神西清出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1967/09/27メディア: 文庫 クリック: 22回この商品を含むブログ (39件) を見る 「……あなたは、名声だの幸福だの、何かこう明るい面白い生活だのと仰るが、わたしにとっては、そんなありがたそうな言葉はみんな、失礼ながら、わたしがわず嫌いで通しているマーマレードと同じですよ」 (「かもめ」より) 「へん、気がふれているのはこの地球の方さ。のめのめと君たちを生かしとくなんてね」(「ワーニャ伯父さん」より) チェーホフ4大戯曲のうち、初期に書かれた2作品。「絶望」と「耐えること」について。 ノートに書きつけた「かもめ」「ワーニャ伯父さん」の感想を数年ぶりに

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  • 『十二夜』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線

    [のっぴきならない恋愛は] William Shakespeare Twelve Nights, 1599-1601. 十二夜 (白水Uブックス (22)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/10/01メディア: Perfect購入: 2人 クリック: 3回この商品を含むブログ (9件) を見る どうせ恋の餌になるなら、狼よりも ライオンべられるほうがどんなにましか。 シェイクスピアの恋愛喜劇の中でも、特にお気に入りの1作。男女入れ替え、勘違い、3つ巴、片思い、兄妹愛、これでもかとラブコメ要素を積んでいながら、道化や脇役のいたずらといったシェイクスピアらしさも忘れない。 なんといっても、男装の麗人、ヴァイオラの格好良さが尋常でない。ヴァイオラは船の遭難を生き延びて、イリリアの地にたどり着いた令嬢である。船には双子の兄も乗ってい

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  • 『ジュリアス・シーザー』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線

    [ブルータス、お前もか] William Shakespeare Jurius Caesar,1599. ジュリアス・シーザー (白水Uブックス (20)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/10/01メディア: 新書 クリック: 4回この商品を含むブログ (7件) を見る シーザー:3月15日がきたぞ。 占い師 :きましたが、シーザー、まだ過ぎ去ってはいません。 「Et tu, Brute――ブルータス、お前もか?」 という台詞があまりにも有名な「ジュリアス・シーザー」を読んだ。 3月15日、自分が暗殺される日を、シーザーは占い師から知らされていた。が止めるのをあしらって彼は元老院に出向き、そこで陰謀者に取り囲まれて、23の刺し傷を負って絶命した。あまりにもあっけない死である。しかし彼の死の影響力は強大だった。 書は、「ジュリ

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  • 『テンペスト』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線

    [魔法は消えるか] William Shakespeare The Tempest ,1611? テンペスト シェイクスピア全集 〔36〕 白水Uブックス 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/01メディア: 新書購入: 3人 クリック: 15回この商品を含むブログ (10件) を見る だが、大地に礎をもたぬいまの幻の世界と同様に、 雲に接する摩天楼も、豪奢を誇る宮殿も、 荘厳きわまりない大寺院も、巨大な地球そのものも、 そう、この地上に在るいっさいのものは、結局は 溶け去って、いま消えうせた幻影と同様に、あとには いっぺんの浮雲も残しはしない。 「私の魔法は消えました」。そう語るのは稀代の魔術師プロスペロー、そしてウィリアム・シェイクスピア人ではないだろうか。 舞台で夢を見せ続けた作家による、「最後の作品」。作数を重ねるごとに、ます

    『テンペスト』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線
  • 『リア王』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線

    [老いの盲目] William Shalespeare King Lear, 1605. リア王 (白水Uブックス (28)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/10/01メディア: 新書 クリック: 10回この商品を含むブログ (11件) を見る これでは墓場にいるほうがまだましだろう。激しい風雨にその裸身をさらすよりは。人間とはこれだけのものにすぎぬのか?(第3幕第4場) もっと落ちるかもしれん、「これがどん底」などといえるあいだはほんとうのどん底ではないのだ。(第4幕代1場) 人間、生まれてくるとき泣くのはな、この阿呆どもの舞台に引き出されたのが悲しいからだ。(第4幕第6場) 老いて疑惑の盲にとりつかれ、狂気の果てに死んだ哀れな王の悲劇。最初から最後まで激情が渦を巻いて吹きすさぶ、すさまじい迫力を持つ作品である。 娘3人の愛情

    『リア王』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線
  • 『コリオレーナス』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線

    [目的なき英雄] William Sharekspeare The Tragedy of Coriolanus,1623. コリオレーナス (白水Uブックス (31)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/10/01メディア: 新書 クリック: 3回この商品を含むブログ (3件) を見る コリオレーナス:ああ、そんなことがおれにやれるか! おれの真実をみずから汚し、からだの動きを1つ1つもって消し難いいやしさを心に教えるようなことが! 高潔な英雄か、はたまた傲岸な堅物か? コリオレーナスの心を読みきれない。 ローマの英雄 コリオレーナスの一生を描いた、シェイクスピア後期の悲劇。それなりの厚さであるはずなのに、最初から最後までコリオレーナスの性格や信条が分からなかった。言っていることははっきりしているし、行動もしているのに、その動機がさ

    『コリオレーナス』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線
  • 『マクベス』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線

    [人殺しの覚悟] William Sharekspeare Macbeth ,1606. マクベス (白水Uブックス (29)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/10/01メディア: 新書購入: 1人 クリック: 26回この商品を含むブログ (15件) を見る マクベス: 明日、また明日、また明日と、時は 小きざみな足取りで一日一日を歩み、 ついには歴史の最後の一瞬にたどりつく、 昨日という日はすべておろかな人間が塵と化す 死への道を照らしてきた。消えろ、消えろ、 つかの間の燈火! 人生は歩き回る影法師、 あわれな役者だ、舞台の上でおおげさにみえをきっても 出場が終われば消えてしまう。白痴のしゃべる物語だ、 わめき立てる響きと怒りはすさまじいが、 意味はなに一つありはしない。 To-morrow, and to-morrow, a

    『マクベス』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線
  • 『ハムレット』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線

    [それが疑問だ] William Sharekspeare Hamlet,1602? ハムレット (白水Uブックス (23)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/10/01メディア: 新書購入: 7人 クリック: 74回この商品を含むブログ (19件) を見る ハムレット: 死ぬ、眠る、 それだけだ。眠ることによって終止符はうてる、 心の悩みにも、肉体につきまとう かずかずの苦しみにも。それこそ願ってもない 終わりではないか。死ぬ、眠る、 眠る、おそらくは夢を見る。そこだ、つまずくのは。 この世のわずらいからかろうじてのがれ、 永の眠りにつき、そこでどんな夢を見る? それがあるからためらうのだ、それを思うから 苦しい人生をいつまでも長引かすのだ。(第3幕第1場) シェイクスピア作品の感想を書いているわりに、なぜ4大悲劇を無視している

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  • 『から騒ぎ』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線

    William Sharekspeare Much Ado About Nothing,1600. から騒ぎ (白水Uブックス (17)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/10/01メディア: 新書 クリック: 8回この商品を含むブログ (7件) を見る ベネディック:恋わずらいとはうまい形容だ。たしかにわずらわしい恋だものな、好きこのんで好きになったわけではないのだから。 ベアトリス:お心にそむいて、なのね。まあ、かわいそうなあなたのお心、あなたが私のためにお心にそむくのなら、私もあなたのためにあなたの心にそむきましょう、だってお友だちのあなたがきらいなものを私が好きになるわけにはいきませんもの。 ベネディック:あなたとおれは頭がよすぎて、やさしく恋を語ることなどできそうもないな。 ベアトリス:そうおっしゃるところを見ると、そう

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  • 『オセロー』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線

    [時に嫉妬は愛より重く] William Sharekspeare Othello , 1602. オセロー (白水Uブックス (27)) 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志出版社/メーカー: 白水社発売日: 1983/10/01メディア: 新書 クリック: 7回この商品を含むブログ (14件) を見る イアーゴー: お気をつけなさい、将軍、嫉妬というやつに。 こいつは緑色の目をした怪物で、人の心を餌とし、 それをもてあそぶのです。 「愛」がひっくり返って舌を出して笑ったら、それは「嫉妬」の顔になる。シェイクスピア4大悲劇のひとつ、嫉妬に狂って死んだ男の物語。嫉妬は重力であると思う。愛情が深ければ深いほど、真っ黒な深みの穴にはまって、自力では抜け出すことができない。 主人公オセローは、「ムーア人」と呼ばれる肌の黒い男だ。さわやかで有能な軍人だが、彼を恨む部下イアーゴーの姦計に

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  • 『創造者』ホルヘ・ルイス・ボルヘス - ボヘミアの海岸線

    [不死の先でまた] Jorge Luis Borges El Hacedor, 1960. 創造者 (岩波文庫) 作者: J.L.ボルヘス,Jorge Luis Borges,鼓直出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2009/06/16メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 27回この商品を含むブログ (47件) を見る そのとおりかもしれない、とわたしは呟く。だが、明日はわたしも死ぬ、わたしたち二人の時はない交ぜられ、年譜はかずかずの象徴の世界に消える、だからある意味では、わたしはこの書物を持参し、あなたは心よくそれを受けたと言っても良いのではないだろうか。 (「レオポルド・ルゴネスに捧げる」より) ボルヘスの書物は、錬金術師の書くそれのようだと思ってきた。秩序だった静謐な世界を論理で組み上げて、「不死」を顕現させるボルヘスの手腕はまさに魔法である。 『不死の人』の感想には「構成要素

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  • 『異端教祖株式会社』ギョーム・アポリネール - ボヘミアの海岸線

    [わたしは信じる] Guillaume Apollinaire, L'Heresiarque et Cie,1910. 異端教祖株式会社 作者: アポリネール,鈴木豊出版社/メーカー: 講談社発売日: 1974/09/15メディア: 文庫この商品を含むブログを見る かれは心の底で、このようにして、いつかカトリシスムに代わるに違いない輝かしい一宗派を、自分は準備しているのだと思っていた。あらゆる異端の教祖がそうであるように、彼も教皇の無謬の教義を認めず、自分こそ神から教会改革の権力を授けられたもの、と信じて疑わなかった。  (「異端教祖」より) ピカソ展やシュルレアリスム展に行くと必ず見かける「アポリネール」の名だが、彼がこんな小説を書いているとは知らなかった。 ローマ生まれ、ポーランドの血を引く作家による異色短編集。タイトルからして度肝を抜く書、掲載されている短篇すべて「異端だらけ」とい

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  • 『サロメ』ワイルド - ボヘミアの海岸線

    [狂い酔え] Oscar Fingal O'Flaherty Wills Wilde Salome, 1893. サロメ (岩波文庫) 作者: ワイルド,Wilde,福田恒存出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2000/05/16メディア: 文庫購入: 9人 クリック: 69回この商品を含むブログ (71件) を見る あたしはお前の口に口づけするよ、ヨカナーン。あたしはお前に口づけする。 恋した男の首を望んだ女の物語。あるいは赤い月夜の悲劇。 聖者ヨカナーンに恋をしたサロメは、しかし彼に手ひどく拒絶される。一方で王エロドは義理の娘サロメに欲情し、踊るなら国の半分をやろうと誓いを立てる。サロメは舞を踊り、望んだものは「ヨカナーンの首」だった。 強い濃密な原酒を飲んだ後のような読後感だった。ぐらぐらとくる。登場人物はあまり多くの言葉を語らない。彼らが語るのはひたすら自分の強い意思だけ。人の話

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  • 『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーブン・ミルハウザー - ボヘミアの海岸線

    [ぜんまい仕掛けの工芸品] Steven Millhauser:In the Penny Arcade,1990. イン・ザ・ペニー・アーケード (白水Uブックス―海外小説の誘惑) 作者: スティーヴンミルハウザー,Steven Millhauser,柴田元幸出版社/メーカー: 白水社発売日: 1998/08メディア: 単行購入: 4人 クリック: 30回この商品を含むブログ (50件) を見る そして彼はよく知っていた。十九世紀最後の四半世紀を覆いつくしている焦燥感と、ひそかな退屈とを。 (「アウグスト・エッシェンブルグ」より) ミルハウザーは、私が知る作家の中でも、際立って職人的である。彼の小説は「物語」というよりは「作品」と呼びたい。博物館の角にひそやかに飾られている、ぜんまい仕掛けの工芸品を思い出す。文章の一語一語はまるで銅製の小さな歯車のようで、組みあげられてかたり、と動き出す

    『イン・ザ・ペニー・アーケード』スティーブン・ミルハウザー - ボヘミアの海岸線
    inmymemory
    inmymemory 2010/10/29
    "ミルハウザーは、私が知る作家の中でも、際立って職人的である。彼の小説は「物語」というよりは「作品」と呼びたい。博物館の角にひそやかに飾られている、ぜんまい仕掛けの工芸品を思い出す"
  • 『僕はマゼランと旅した』スチュアート・ダイベック - ボヘミアの海岸線

    [紡げ追憶] Stuart Dybek I Saied with Magellan, 2003. 僕はマゼランと旅した 作者: スチュアート・ダイベック,柴田元幸出版社/メーカー: 白水社発売日: 2006/02/28メディア: 単行 クリック: 16回この商品を含むブログ (36件) を見る ダイベックが根の底から「街と記憶」の作家なのだと知ったのは、去年に行ったダイベックの講演会からだ。そして音楽を意識する作家でもあるということも。冒頭のテネシー・ウィリアムズの引用は、作品の方向性をよく表しているように思う。 「記憶のなかでは何もかもが音楽にあわせて起こる気がする」 舞台は、前作『シカゴ育ち』と同じシカゴのダウンタウンだが、今回はさらに描かれるものの「ダークさ」が増している。少年ペリーとレフティ叔父、家族に友達、周囲の人々の物語が、シカゴの路地のあちらこちらに散らばっているイメージ

    『僕はマゼランと旅した』スチュアート・ダイベック - ボヘミアの海岸線
    inmymemory
    inmymemory 2010/10/29
    柴田元幸のお気に入りの作家。『シカゴ育ち』の後の作品