評価されすぎ?それとも傑作?『キック・アス』

遅ればせながら『キック・アス』鑑賞。

スーパーヒーローに憧れるアメコミオタクの高校生デイヴくんがキック・アスと名乗って自警活動を始めた。デビュー戦で彼はいきなり腹をナイフで刺され、その直後に車に轢かれるという重傷に遭う。瀕死の状態から復活して懲りずに自警活動を再開するも今度はチンピラを見事に撃退。その様子を動画で撮影され、youtubeにあがるやいなや、彼の知名度は急上昇――――その頃、マフィアに復讐を誓うため、日夜殺人術の特訓を重ねるビッグ・ダディとヒット・ガール親子はキック・アスの活躍に目をつけた。奇しくもキック・アスが麻薬の売人のアジトを襲うところでピンチに陥ったとき、その仕込まれた殺人術でチンピラたちを皆殺しにしたヒット・ガール。ところがこれをキック・アスの仕業によるものだと勘違いしたマフィアはキック・アスをさらってこいと部下達に指令を出すのであった……というのが主なあらすじ。

ヒーローを主演にした映画は数あれど、なんの能力も持ち合わせていない凡人が、ヒーローに憧れて自警活動をする発想にまずは感服。ヒーローという現象は一体何なのか?何をもってしてヒーローなのか?もし超人ではない一般の人間だったらヒーローものは成り立つのか?という批評性と共に、現実にスーパーヒーローを目指すと一般人はどうなってしまうのか?というシミュレートのような展開が小気味良い。ところが映画はリアル指向ではなくケレン味ぷりたつで、要所要所に笑わせてくれるポイントも抑えてあり、基本的にはフィクショナルでポップである。そのキック・アスの行動と平行して描かれるのは『子連れ狼』や『修羅雪姫』よろしく幼少の頃から殺人術を仕込まれるヒット・ガールの活躍で、彼女が首をつっこんでから映画はハードな血で血を洗う抗争劇に発展していく。そこに謎のレッド・ミストというヒーローが現れてからはプロットが二転三転し、一本で複数の作品を体験したような気分にさせてくれる。

目を見張るのはやはりアクションシーン。『マトリックス』以降、やたらめったらモーションを変えたり、ワイヤーで飛ばしたりする作品が増えたが、今作はその影響を受けつつもそこから一歩抜け出したという感じ。ワンカットで撮って編集でジャンプさせたり、洋ゲーのような視点になったり、すべてのシーンが独創的で新しい。特にクライマックスで魅せるヒットガールのかちこみシーンはジョン・ウーよろしくの2丁拳銃による銃撃シーンが待ち構えており、『ウォンテッド』と見せ方は同じだが、音楽のかっこ良さも相まって、ここだけでも100回見続けたいと思うほどに盛り上がる。

評価されすぎだという感想も目立つが、個人的に『キック・アス』はヒーローものを根底から覆した革命的な傑作だと思う。実はこの作品には一人もスーパーヒーローが出て来ない。そもそもスーパーヒーローというのは「なんらかのアクシデントで超人的な力を持ってしまった人」のことであって、それ以外はコスプレをしてチンピラを叩きのめしてる人になるのだ。故に『ダークナイト』でもバットマンはそのように描かれていたし、ヒーローとは何か?を問いかけた『ウォッチメン』でもDr.マンハッタン以外は普通の人に毛がはえたようなバイオレントなキャラクターになっていた。

つまり『キック・アス』はヒーローのコスプレをした普通の人がマフィアと抗争をする暴力映画であって、裏を返せばヒーローの出て来ないヒーロー映画は描き方によっては暴力映画になってしまうということを明確に誇示した作品でもある。血が噴き出すほどの激しいバイオレンスがキッチリ描かれるのはそういう理由だし、そこが『ダークナイト』になかった部分でもある。もっと言えばこの映画は人を殺すことをなんとも思ってない(むしろノリノリ)ヒット・ガールの復讐に巻き込まれてしまった人の話であって、キック・アスは一般人の目線を持った狂言回し的な役割を果たしている。ヒット・ガール側のドラマが描かれないのも、目線がキック・アスから離れないようにするためだ。

もちろん過去のアメコミヒーローものと比較しても全然問題ないし、キック・アスが全然活躍しないうえに、ヒット・ガールのドラマパートが薄い!というのもすごくよく分かる意見で、なんやかんや言って『キック・アス』はそういう様々な見方を提示してくれる素晴らしい作品だった。新潟では元旦に二週間限定と銘打って公開されたのにもかかわらず、その後、さらに二週間公開が伸びたくらいのヒット。まもなくDVDが発売されるが、是非スクリーンで観れる人は駆けつけることをおすすめしたい。あういぇ。

Kick-Ass Music from the Motion Picture

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キック・アス Blu-ray(特典DVD付2枚組)

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キック・アス (ShoPro Books)

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