産経新聞が明確に南京事件否定論に舵をきったのは最近のような気がする

pr3さん経由*1で知ったコラム。
タイトルにああ書きましたが、最近はそれほど産経新聞を見ていなかったので、結構前からかも知れません。ただ4〜5年前くらいまでは、否定的なニュアンスではあったものの「虚構」と明言まではしてなかったような記憶があります。

産経新聞京都総局の牧野克也総局長氏署名入りで「南京大虐殺や強制連行という虚構までまき散らしている」などと書いています。
領土問題に関しては、日本政府見解を盲信する産経新聞は、南京事件に関しては、日本政府見解を否定するという姿勢です。もちろん、発言者によってではなく、発言内容によって姿勢を決めるのは正しいのですが、産経新聞の場合は、日本政府見解と異なる視点を領土問題で教えようとすると「どこの国の教科書か分からなくなる」などとして糾弾するわけですから*2、それなら南京事件に関しても政府見解に則って報道するべきでしょう。そうでなければ産経新聞は、どこの国の新聞か分かりません。

最近は、ネトウヨの一部が差別主義・排外主義を露骨に先鋭化していく一方で、”中立”や”中道”、”保守”を標榜する右派・右翼的発言がネット上でもリアルでも大勢を占めつつあるように思えます。右翼と左翼の平均値を中道とみなす単純思考を持つ人たちが、右翼の極右化によって平均値自体が右に引っ張られているにも関らず、その右にずれた平均値の上で「我こそ中道」「右も左もどっちもどっち」的な主張をしている、そんな感じです*3
産経新聞もまた、そういう風潮の中で安心して面舵を切っているように見えます。

元々自虐史観サヨクの偏向教育がのさばっていた反動!とかいう反論もあるかもしれませんが、実際問題として南京事件をテーマとした(もちろん否定論ではなく)映画やドラマ、小説、漫画など1970年代以降、どれほどありましたでしょうか。1990年代以降、従軍慰安婦をテーマとした映画はどうでしょうか?

朝日新聞の「反日」キャンペーン”的なものはネトウヨら否定論者の虚構に過ぎず、歴史研究者や趣味として歴史を学ぶ人たち以外の場では、南京事件従軍慰安婦の問題は語られることなどほとんどなく、細々と歴史研究の場だけで南京事件従軍慰安婦に関する研究が続けられただけで*4、一般人の目に触れる機会はせいぜい教科書の片隅に載った程度でしょう。

太平洋戦争に関する映画は山ほどありましたし、原爆や空襲被害に関する映画、ドラマも山ほどありますが、南京事件従軍慰安婦に関してはほとんどありません*5。あったとしても「国が燃える」事件のように圧殺されますし、海外で映画が作られても日本での上映はほとんど不可能な状態です。
真っ当な歴史研究の場以外の一般人を対象としたキャンペーンとしては、歴史修正主義者による否定論が圧勝していると言っても過言ではないでしょう。

さて、本題を外れてしまいましたが、否定論圧勝の空気の中、安心して否定論をぶっている産経の牧野氏のコラムを突っ込んでおきましょう。

世間ではそれを洗脳と呼ぶ 欺瞞に満ちた反戦・平和
2011.11.14 09:45 [記者の奮闘・葛藤]
 噂に違わぬ偏向ぶりというべきか。休日に訪れた立命館大国際平和ミュージアム(京都市)。いくら反戦・平和がテーマとはいえ、歴史をみる上で不可欠なバランス感覚がまるでなく、「日本悪玉論」一色で塗り固められていた。

http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/111114/wlf11111409460001-n1.htm

立命館大国際平和ミュージアム*615年戦争の展示には「国民総動員」とか「空襲・沖縄戦・原爆」と言ったテーマの展示もあるので、「「日本悪玉論」一色で塗り固められていた」というのはとてつもなくうそ臭いですね。

 常設展示の「一五年戦争」。満州事変から先の大戦の敗戦までの間、日本は一貫して侵略を繰り広げた−という歴史観がにじむ呼称だ。爆撃や捕虜・民間人の殺害、抗日・反戦活動の取り締まりなど、日本の加害行為を断罪する展示、解説が続く。「過去の過ちを直視して反省します」。そんな“善意”に満ちた言葉が聞こえてくる。

http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/111114/wlf11111409460001-n1.htm

「一五年戦争」の言葉は、満州事変から終戦までの期間を指す言葉として別におかしくありません。勝手にイデオロギーを感じるほうがどうかと思います。ちなみに、この15年の間、露骨な武力侵略を控えた時期もありましたが、全体としては「日本は一貫して侵略を繰り広げた」と表現して問題ないでしょう。

「日本の加害行為を断罪する展示、解説が続く。」ですが、「空襲・沖縄戦・原爆」の展示は見なかったんでしょうか?

 しかし、当時は弱肉強食の時代。分裂状態だった中国やアジア支配を強める白人国家の欧米列強に翻弄され、独立を守る自衛の側面も強かった戦争を侵略の一言で片付け、影の部分だけを誇張、強調するのはフェアではない。日本を「悪い国」にしておきたい国々のお先棒を担ぎ、南京大虐殺や強制連行という虚構までまき散らしている。

http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/111114/wlf11111409460001-n1.htm

白人国家の欧米列強に習って日本も侵略を行ったと言うのが、ヘレン・ミアーズらの指摘ですね*7。そして中国に対する日本の行為はまぎれもなく「侵略」です。
「影の部分だけを誇張、強調するのはフェアではない。」そういうなら、靖国神社に”アメリカ軍が日本軍を叩き潰してくれたおかげで民主主義国家になれました”と飾ってみてください。
南京大虐殺や強制連行という虚構までまき散らしている」これにいたっては、もう明確に南京事件否定論を主張してますね。ちなみに強制連行だって歴史的事実ですし、犠牲者遺族だって存命ですから、立派なセカンドレイプですね。

 日本将兵の無残な遺体写真の前で足が止まった。玉砕してまで国や家族を守ろうとした英霊を悼む心はないのか。人に罪悪感を植え付け、都合のよい情報だけを刷り込む。世間ではそれを洗脳と呼ぶ。(京都総局 牧野克也)

http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/111114/wlf11111409460001-n1.htm

日本人だけで300万人から犠牲になり、アジア全体では数千万人が犠牲になったのに、それを悼むどころか無視し踏みにじって欺瞞に満ちた自己正当化で、読者を洗脳しようとしていますね。

正直な感想として、ここまで露骨な否定論・歴史修正主義が平然と紙面を飾っている現状から、10年前に比べて洗脳は着々と進んでいるように思えます。

在特会のようにあからさまにおかしな主張の陰に隠れて、こういった思考が広まっていくわけですね。結構怖い話です。

*1:http://d.hatena.ne.jp/pr3/20111114/1321275174

*2:http://sankei.jp.msn.com/life/news/111031/edc11103102530000-n1.htm竹島問題と教組 「日本領でない」は論外だ」「日本政府の見解を真っ向から否定するものだ。採択への悪影響のみならず、学校教育で誤った領土認識が広がりかねない。」

*3:先の日韓スワップの記事で語った”自称中立”の人たちにその傾向が見受けられます。韓国が借金を踏み倒してなどいないことは少し調べればわかるはずなのに、嫌韓厨のデマを否定しつつ、韓国の借金踏み倒しは彼らの脳内では既成事実となっていて疑ってさえいないようでした。

*4:それすらも金にあかして、大量の書籍を出版する否定論に押され気味です。まあ、UFOや超能力を否定する本より肯定する本の方が売れる実態を考えれば、商業的にこういう事態になるのは当然ともいえますが。

*5:そもそも日中戦争を舞台にした映画自体少ない。

*6:http://www.ritsumei.ac.jp/mng/er/wp-museum/museum/index.html

*7:「アメリカの鏡・日本」