居酒屋を定食づかいしてもいいの？
話は簡単で、居酒屋で「ごはんセット」を頼めば良い。しかし、居酒屋でお酒を飲まないでご飯を食べる、ということに一抹の後ろめたさを感じることも確かである。
不安なので、今回は最近知り合いになったWさんについてきてもらった。Wさんはお酒が飲めない。
行ったところは新宿の「天狗」
聞いてみるとWさんの友達にもお酒を飲めない人が多くて、居酒屋でのファーストオーダーで「ご飯セット」が飛び出すことも少なくないとのこと。
僕としては居酒屋でお酒を飲まないでご飯を食べる、というのは相当な決心がいることだ。飲めない人からしたら普通のことなのだろうか？
心の中で一度作った言葉を慎重に吐き出す
ほっけ＋ご飯セット
僕が居酒屋メニューから作り上げたのは「ほっけ定食」である。
定食屋っぽい、というか大戸屋っぽい
「作り上げた」といっても、ほっけを注文しただけなのだが。いやしかし見事な定食屋っぷりでほれぼれする。これに比べるとWさんの「からあげ定食」はどことなくまだ居酒屋メニューの延長っぽい。
ごはんセットにからあげがいまいち馴染めていないように見える
自分のほうが隣の人よりもやや良い物を食っている…というのは、ほのかに嬉しい。さて、Wさんにもう少し「お酒の飲めない人の居酒屋事情」を聞いてみよう。
・周りが酒飲んでいようとWさんはご飯セット頼む
・一人がご飯セットを頼むとみんなつられて頼みだすことが多い
・学生のときに貧乏旅行をして朝までやっている居酒屋で夜をすごした
Wさんは、大学生のころに飲めないのに居酒屋で泥酔してしまい、記憶がないまま帰路でADSLの契約をしてしまったことがあるという（二日酔いで起きたら枕元にモデムがあったとのこと）。それから酒を飲むのを一切やめたそうだ。
そういえば、僕も路上でADSLの契約をしてもらうバイトをしていたことがある。ちょうど時期も重なるな…
契約させたのは僕かもしれない
Wさんは「お酒を飲まない人の間ではご飯セットはごく当たり前の存在」と言っていた。たしかにWさん、けっこう自由に居酒屋を利用しているんだなと思った。お酒を日常的に飲む僕の方が固定観念に縛られているのかもしれない。
ソフトドリンクはストローつきで提供される（ということを今まで知らなかった！）
実に堂々と居酒屋で定食食べてる
居酒屋で味噌汁なんて、相当泥酔した後にしか飲んだことがなかったよ
ほっけ定食は819円、からあげ定食は609円。なんだか申し訳ないような金額だが、ここにウーロン茶代の294円がプラスされる。
「定食屋づかい」と思うと、急にウーロン茶代が惜しくなりますが、やっぱり飲み物を頼まないわけにはいかないですよね、心理的に。
本物の定食
後日、大戸屋に行ってみた。本物の「ほっけ定食」はどんなものか比べてみたくなったのだ。
ほっけ定食８１０円
価格は天狗でご飯セットとほっけ焼きを頼んだときの値段とほぼ同じである。しかし、そこに細かいヒジキなどの付けあわせがついてくるのが憎い。座ればお冷が出てくる。
改めて、これが定食屋か…と唸る。居酒屋を定食屋づかいするのは、値段的にやや苦しいか。もう少し違う角度から考えてみたい。
豪華なカルビ丼を作る
居酒屋で定食を食べると、ちょっと高くついてしまう。それなら思い切って料金以外のところで楽しみを見出したらどうか。
たとえば、これは松屋の「カルビ丼」というメニューだ。
カルビ丼390円
同じコンセプトのものを、居酒屋で強力にチューンナップしてみる。向かった先は牛角である。何をするかおわかりですね。
カルビとハラミ
ホルモン三種
焼きます
これをご飯に乗せて、豪華なカルビ丼を作る。
原理や構造は松屋と同じである。しかし、肉を焼き始めた瞬間、僕の体温がわずかに上昇したような感覚を覚えた。炭火があるというだけで、人間こうも沸き立つのだ。
ふだんならテンションのあがったままビール、と行くわけだが、今日は頼まずご飯である。肉は焼けているが、あくまでも行動はストイックに行きたい。
これが牛角のカルビ丼
メニューの中には「カルビ丼専用ライス」というのがあった。僕は一応オリジナルな企画だと思ってやっているのに、すっかり先回りされている。一瞬悔しいという感情が頭をよぎるが、すぐに現在進行形で焼けている肉の世話に頭が切り替わった。
企画の独自性より、おいしいカルビ丼を食べる…ということの方が重要じゃないか？
薬味とタレがついた「カルビ丼専用ライス」に焼けた肉を載せまして
出来た
焼きたてのうちに食べないとな、と考えるとどうしてもかっこんでしまう。食べ始まったほとんど次の瞬間、丼の底が見えた。ビールを頼まなかったときに溜め込んだ力が、ここで流れ出したたような感じがした。ダムの放流のような力の使い方である。
あっという間の出来事だったが、丼にして食べると、より「肉を食べている感」が際立っておいしい。不思議だ。
あとでレシートを見て計算したらこの一杯だけで2000円を超えていた。2000円を一瞬で食べれるのはご飯のなせる業である。酒を飲まないの、面白い！
バイト視点
居酒屋でご飯食べるのいいな、と思うようになってきた。
ところが、こういう行為はやっぱり店員さんからは嫌われてしまうらしい。友達に今やっている企画の話をしたら、結構冷ややかな反応が返ってきた。
今まで言われてたのか
お客がお酒をたくさん頼まないと、売上げが上がらない。そういう店側の事情はたしかにわかる。しかしせっかく見つけた居酒屋ご飯の楽しみを捨ててしまうのも、しゃくである。
さくら水産に向かう
それなら「お酒を頼むように次々とご飯をおかわりする」というのはどうだろう。ご飯をたくさん頼めば売り上げも増える。利益率なんか、お酒よりいくらか高いくらいなんじゃないのか。
こんな風に店員をやりこめたい
さくら水産のご飯セットが充実しすぎている
しかしこの作戦は誤算だったことに、席についてすぐに気づいた。さくら水産のご飯セットは「安すぎる」のだ。
ご飯のほかにもいっぱいオプションがついてきて(生玉子が魅力的！)250円
特筆すべきは「ご飯のお代わり100円」というシステムで、これではいくらおかわりしてもたいした売上にならない。
どうしたものか。店員さんにこっちの心意気がちゃんと伝わるだろうか。ファーストオーダーに緊張が走る。この状況でベストのチョイスはこれだ！
タイトル「旅館の朝」
ご飯セットについてくる「生玉子」「味付海苔」にひっぱられて、朝食っぽいコーディネートにしてみた。
ちなみに今は金曜の夜で、カウンターの周りは中年サラリーマンで騒々しい。「旅館の朝」とは対極にある環境で、この不自然なオーダー！気づけよ店員おれは飯を食うぞ！
３杯食べておなか一杯
さくら水産、ご飯の「盛り」がみょうに良い。天狗ではお茶碗くらいのご飯だったが、ここではちょっとした丼くらいの量がある。
ひょっとしたらここは「ご飯をふつうに食べることを推奨してる居酒屋」なんじゃないかと思う
強力なおかず類を次々と投入したのだが
やはりご飯が予想を超えて重たい
結局食べられたのは、ご飯３杯。「酒を飲むようにご飯を食べる」とはいかなかったが、どうだろう。今までこの店でこんなにご飯おかわりしたやついるのだろうか？（強気で押しても内容弱いな、おかわり２回しただけだ）
最終的にご飯とおかずで1880円食べている。売上的にはお酒を飲んだのと同じくらいなのだが…
どうでしょうか、全国の居酒屋スタッフの方々
居酒屋ご飯は楽しい
最初は「居酒屋が定食屋にもなったら便利だなあ」と便利さを求めて企画を始めたのだが、最終的になんだか店側にすり寄るような形で終わってしまった。やはり、居酒屋は居酒屋、定食屋は定食屋、という垣根を完全に崩すことは難しい。
しかし、居酒屋ご飯はやってみたらなかなか楽しかった。「定食屋の代替」なんて考えずに、新しい居酒屋の楽しみ方として、悪くないと思う。
2012年4月19日
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