米国では911同時多発テロの大惨事を教訓として、インテリジェンス・コミュニティ内の情報共有の必要性を痛感。信頼される情報ネットワークの構築に乗り出した。ところが、このネットワークこそが、ウィキリークスへ漏洩した情報の抜け穴として使われていたのである。

菅原 出/国際政治アナリスト


 「インテリジェンス・コミュニティは『必要なことだけを知ればいい(need to know)』の文化から『必要なことを共有する(need to share)』文化へと脱皮すべきだ」。

 911独立調査委員会の報告書は、米国史上に残る大惨事となった2001年9月11日の同時多発テロの原因を調査した結果、インテリジェンス・コミュニティ内の情報共有の必要性を強調する数多くの提言を発表し、「信頼される情報ネットワーク(trusted information network)を構築しなければならない」と説いた。

 インテリジェンス・コミュニティは「点と点を結びつけることに失敗した」。つまり、コミュニティ全体を見渡せば、テロを予測可能な情報の「点」は存在したものの、各省庁間の厚い壁に阻まれて、そうした点と点が共有され、統合的に分析されることはなかった。

 911テロは米国のインテリジェンス・コミュニティや国家安全保障サークルに深い傷を残した。「もっとお互いに連携し、情報を共有していれば、あの惨事を防げたかもしれない…」。

 このトラウマが、かつてない大規模な機密情報の共有ネットワークの構築を可能にした。

 911後、国土安全保障省は米国内で収集・分析されたあらゆるテロリズム関連の情報をインテリジェンス・コミュニティ内で共有するため、「テロ脅威統合センター(Terrorist Threat Integration Center)」を創設し、米連邦捜査局(FBI)は情報局の中に「全国統合テロ・タスクフォース (National Joint Terrorism Taskforce)」を立ち上げて、他の関連機関からの情報を集約して捜査活動に反映させる体制を作った。

 政府の各省庁が個別に持っている情報をいかに共有するか。「インテリジェンス・コミュニティ内の情報共有」が、911後の大きなトレンドになった。

 こうした流れを受けて、「信頼される情報ネットワーク」の一つとして米国防総省内に創設されたメカニズムの一つに、「秘密インターネット・プロトコル・ルーター・ネットワーク(SIPRNET)」という機密情報のネットワークがある。

 正確に言えば、SIPRNET自体は1990年代に米国防総省内で構築されたものだが、911テロを経てそのネットワークが著しく拡大された。国務省が省内の機密ファイルのネットワークClassNetとSharePointをSIPRNETに繋げることを許可したのである。

 米政府の機密文書は、秘密性の高い順に「最高機密(top secret)」、「機密(secret)」、「秘密(confidential)」に分類されている。SIPRNETには米国防総省と国務省の機密レベルまでの文書が含まれていた。911後の「情報“共有”革命」の結果、60万人もの米軍人・米国防総省の文官たちがこのネットワークにアクセスすることが可能になっていた。

 そしてその一人にブラッドリー・マニングもいた。