1956年日活作品。監督は川島雄三、主演は新珠三千代と三橋達也、他の出演者に轟夕起子、河津清三郎、芦川いづみ、植村謙二郎、小沢昭一他。
新珠三千代と三橋達也の三十絡みのカップルが、大きな橋の上で途方に暮れています。彼等には定職はもちろん、今夜落ち着くねぐらさえもありません。所持金は新珠が煙草を買ったお釣りの60円だけ。彼等には頼りになる人や「あて」もないみたいです。そして新珠は頼りない三橋を「あんた男でしょう?」と詰るのですが、三橋にはもちろん何の策もありません。それに業を煮やした新珠の先導でバスに乗り込むと、降りた場所は「洲崎弁天町」、つまりは洲崎遊郭の最寄りのバス停。バスを降りて橋を渡ると洲崎遊郭に入って行けます。実は新珠は元々は洲崎遊郭で働いていた女郎さんで、今は足を洗って堅気になっているはずなのですが、いざとなったらまた元の遊郭で働けばいいや、という算段でこの場所に舞い戻って来たのでしょうか。しかし新珠は橋の手前にある、轟夕起子が切り盛りする居酒屋兼食堂の「千草」に職を求めてなんとか住み込みで採用されて、遊郭行きはかろうじて踏み止まります。
一方三橋も轟の紹介で近所の蕎麦屋の出前持ちに採用されるのですが、プライドの高い彼はその仕事に精を出せません。それを温かく見守る蕎麦屋のレジ係の芦川いづみ。その後新珠は、「千草」常連の遊び人で、秋葉原の電気屋の中年主人の河津清三郎のお気に入りとなって、そして愛人になってアパートまで世話してもらうのですが・・・・。
という感じで、崖っぷちにいる主演両者がどっちに転ぶのか、つまりは新珠が再び洲崎遊郭に堕ちて行って、三橋も彼女のヒモになり下がるのか?それとも何とか踏ん張って堅気のまま活路を見出すのか?それを売春防止法施行前の昭和30年当時の洲崎遊郭近辺の風俗描写を背景に、よく切れるナイフで「時代の空気」を切り取ったかのように鮮やかに描いてゆく川島演出が極め付き!例えば、洲崎遊郭内のシーンは一つもありませんが、「千草」に集まる遊郭内の人々、女郎さんや若い女郎に入れ込む純真トラック運転手の若者etc.を巧みに登場させて遊郭内での身もフタもないエピソードを披露していく語り口の妙味、そして主要登場人物たちとその周辺の生活・風俗をきめ細やかに描いてゆくことで、時代そのものをさりげなくも的確に描くことに成功している卓越した表現力など、やっぱりこの監督は凄いひとなんだと、改めて感じ入りました。さらに洲崎周辺のドキュメンタリー・タッチのロケ撮影や、ロケ撮影とスタジオ撮影の切り替わりに違和感のない、高村倉太郎のキャメラも秀逸。
役者さんでは元玄人で蓮っ葉だけれども、ほんの少し純なハートも体内に残しているキャラを熱演する新珠三千代が最高です。三橋も愚直で融通の利かない優柔不断男を絶妙に演じていますし、轟夕起子も場末の飲み屋の女将を好演、河津清三郎は相変わらずの堂々たる存在感、芦川いづみもとっても可愛いです。
ラスト近くで新珠は、河津清三郎との生活を諦めて三橋の許に帰って来ます。そして洲崎での生活にも見切りをつけてまた路上で途方に暮れる二人ですが、今度は三橋が先頭に立ってバスに乗り込むのです。この二人がどこに行くのかは分かりませんが、「今度はしっかりやれよ!」と思わず声援を送りたくなる二人なのです。
本DVDは2011年に「日活100周年記念」としてリリース、特典映像に同時期に発売されたDVDの広告映像のみ。画質は中の上程度です。個人的には本作は川島監督日活時代の最高作。未だの方は必見です。