アップルストアからウォルマートまで、ジャンルを問わず、店の数多くは、華やかなシーンや心躍る音楽、心地よい香りで満たされ、ついテンションが上がってしまうもの。

もちろんこれらはすべて、来店した客により多くお金を使わせるために仕掛けられた巧妙なトリックです。ココナッツの甘い香りが漂う夏ファッションコーナーも、ガラクタだらけの特売コーナーも、消費者にはけして気づかれないよう、うまく計算されているのです。

では、具体的に、お店はどのような方法で、消費者の五感を操っているのでしょうか。米ゴールデンゲート大学(Golden Gate University)の消費者心理学者で、『Gen BuY: How Tweens, Teens, and Twenty-Somethings Are Revolutionizing Retail(若者は小売りをどう変革しているか・英書)』の共著者であるKit Yarrow博士に、詳しく聞いてみました。

  1. 視覚:より多くのお金を使わせるために、消費者の視覚をどう刺激しているのか?
  2. 触覚:なぜ、商品に触れると買いたくなるのか?
  3. 嗅覚:いい匂いを嗅ぐと、なぜお金を使いたくなるのか?
  4. 聴覚:音楽によって、高価な商品をどのようによく見せているのか?

1.視覚

──より多くのお金を使わせるために、消費者の視覚をどう刺激しているのか?

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消費者の視覚こそ、小売業者が狙い撃ちにする主なターゲット。そのために仕掛けられた細かな仕掛けの数々には驚かされます。彼らがしかける小さな"刺激"が消費者の購買判断に大きな影響を与え、店に長居させるよう作用するのです。

・色をうまく使う

例えば、色は消費者の購買選択に大きな影響を及ぼします。なんらかの感情を喚起し、また表現する色の利点を、小売業者はうまく利用しています。この点について、Yarrow博士は、次のように説明しています。

商品の色や、色をグループ化して陳列したディスプレイは、感情に訴えやすくなります。色はそれぞれ異なるものと結びついており、この結びつきが人にも影響を及ぼします。

例えば、赤は人の行動を促す刺激を与える色。セールと結びつきやすいです。もし、米ディスカウントショップのひとつ「ターゲット」(Target、赤い二重丸のロゴマークが特徴)のロゴが青だったら、今ほどお買い得なスーパーとしては認知されなかったかもしれません。

お買い得をウリにする店の多くはロゴに赤やオレンジを使っています。一方で黒は、"高価格"や"ラグジュアリー"というイメージと結びつくことが多いです。

色は、人の消費に様々な影響を及ぼしています。たとえば、赤い服を着たウェイトレスはチップをより多く得られる(英文記事:参照)とか、オンラインでも赤がより多くのお金を使わせる(英文記事:参照)といったことが、研究結果で明らかになっています。

・あえて客を遠回りさせる

また、小売業者は、簡単な障害物を設けることで、消費者の無意識に働きかけます。例えば、牛乳のような商品だと、それ一品だけを買うためにスーパーに立ち寄る、なんてことがありますが、牛乳は店の奥にあることが多いです。そうすることで客は目当ての牛乳にたどり着くまでに店内を歩いて回ることになり、自然と他の商品も視界に入ります。牛乳を手に取るまでに、いくつかの商品をすでにカゴに入れているかもしれません。

小売業者は、より多くの商品を見てもらおうと、消費者を店内で迷わせようとしています。たとえば、IKEA(イケア)の店舗は、来店客が店内をぐるっとまわり、迷うように設計されています。必要以上に多くの商品を見て、いくつか多くの商品を手に取ってほしいからです(欲しい商品だけ手にとり、迷わずレジで支払をするための「ウルトラC」として、ライフハッカーアーカイブ記事「イケアでは出口から入ればサクッと買い物して帰れる」を紹介しましたが、すべての店で通用するハックではありません)。

・イメージを創りあげる

アップルやIKEAのように、ライフスタイルのイメージを創りあげようとする店もあります。テーマやライフスタイルをお店の中の創造すると、消費者はそのライフスタイルの中で生活できるように感じ、この感情が「このブランドの商品を買いたい」という購買欲につながります。

IKEAが店内にモデルルームを配置しているのはこのためです。照明を買いに行くと、なぜか突然、カウチソファーも欲しくなるのです。米インテリアショップのポッタリーバーン(Pottery Barn)は、この手法をうまく取り入れています。部屋やパーティのテーマを創りあげ、この空間全体が欲しくなるようになっています。

この手法は、高額商品に限ったものではありません。小額の「ついで買い」にも、この手法が取り入れられています。新作ジーンズが並ぶ傍に陳列されたクツや、スカートの横に置かれたスマホケースも、同様のからくりです。実際の商品を使ったり着たりしている自分の姿を消費者に見せることで、頭の中では無意識のうちに、それぞれの商品がつながっているように見せているのです。

以上のように、小売業者は、消費者の視覚を巧みに操り、欲しがりそうな商品をより多く視界に入れたり、「こんな風に暮らしたい」と感じるようなライフスタイル全体を見せようとしています。残念ながらいずれも一般的には非常にうまく機能している手法なので、浪費の防止策としては、これらの店の意図と手法を認識し、うまくはめられないように気をつけることくらいです。

2.触覚

──なぜ、商品に触れると買いたくなるのか?

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店は、華やかなもので消費者の目を引きつけるためだけに設計されているわけではなく、より多くのものに触れさせようとしています。なぜなら、往々にして、触れることによって購買を促すことができるからです。Yarrow博士は、次のように説明しています。

・ディスプレイひとつで購買意欲が変化する

環境心理学者のPaco Underhill氏は、障害物を作り、来店客を立ち止まらせるよう設計している店について採り上げています。Underhill氏いわく、人は触れると、より買いたくなるそう。皆さんも、一度くらいはこういう経験があるでしょう。

研究結果によると、モノに触れることで、より買いたくなりやすいとか。そのため店は、消費者が手に取りやすい場所に商品を陳列しようとします。完璧なディスプレイではなく少しバランスを崩すことで、消費者が躊躇なく商品を手に取りやすくしています。たしかに、ジーンズ屋さんに入って、すべての商品がキレイに畳まれ、整然とディスプレイされていたら、自分のサイズを探したり、試そうとは思わないでしょう。

必然的に、商品を手に取る時間が長くなれば、それを買う可能性も高くなります。つまり、店は、消費者が常にものを手に取れるように設計されているのです。

商品が山積みされているお買い得コーナーや、散らかっているように見える棚ですら、「消費者に商品を触らせよう」という意図が隠されているかもしれません。棚だけに限りません。棚での商品の置き場所ですら、お客の目に止まりやすく、手にとりやすいようになっています。

棚のディスプレイは、非常に興味深く、比較的新しい概念です。消費者は、実はディスプレイの真ん中に引っ張られがちです。人は一種の帰巣本能をもっており、ディスプレイの真ん中にある商品のほうが、より買いやすいという研究結果があります。

このように考えると、消費者に商品を触れさせることが、店にとっていかに重要なことか、わかるでしょう。私たちは、本当は欲しくない物まで、知らず知らずのうちに手に取っているかもしれません。

3.嗅覚

──いい匂いを嗅ぐと、なぜお金を使いたくなるのか?

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自覚はないかもしれませんが、買い物の間に嗅ぐ匂いが購買判断に影響を与えることがあります。Yarrow博士は、シンプルな例を使って次のように説明しています。

人の感覚は意識を飛び越えます。ベビーパウダーのようなものを嗅ぐと赤ちゃんへの温かい気持ちが芽生え、ベビー専門店に行ってお金を使ってしまいます。同様に、ココナッツの香りを嗅ぐと、"ビーチに行きたい熱"がすぐにあがるでしょう。

これらの例は極端かもしれません。ただ、研究によると、小売業者が消費者の購買選択を巧みに操る様々な手法が明らかになっています。『Journal of Business Research』からの研究(英文記事、PDF・参照)が指摘しているとおり、匂いや香りは記憶と強く結びつきます。つまり、小売業者が消費者から適切な記憶を喚起できれば、買いたい気分にさせることができます。

もちろん、「香水コーナーといえば、むせるような香りにうんざりする」といったように、いい記憶と結びつかなければ、小売業者の思惑通りにはいきません。店の匂いは、商品の質に対する捉え方に間接的な影響を及ぼし、うまくいけば、好意的な購買経験をもたらします。

・ヒューゴ・ボスが香りを使ってやったこと

広告業界誌『ADWEEK』によると(英文記事・参照)、HVACディフューザー(冷暖房などの空調)のようなものを使って、香りを店内に吹き込むことがあります。高級ファッションブランドであるヒューゴ・ボス(Hugo Boss)の例を見れば、どれだけ長い時間をかけて、小売業者がこのテーマを考えてきたかがわかるでしょう。

ヒューゴ・ボスのヴァイス・プレジテントであるWard Simmons氏は、「ヒューゴ・ボスがコーポレイト・セント(企業を象徴する香り)を調合するのに、2カ月を費やした」と述べています。Simmons氏いわく、この香りには、「バニラ・サンダルウッド・シダーウッド・琥珀をベースに、トップノートには、フルーツとシトラスにココアをわずかに加え、クチナシ・ジャスミン・すずらんのグリーンフローラルの香りがこれに続く」という軽いアクセントが含まれているそう。

この発想は、ライフスタイルを視覚で演出する手法と、非常によく似ています。ライフスタイルを創り出し、微妙な香りによって、そのライフスタイルに合った感情を喚起することができるのです。うまく機能すれば、消費者は、ほとんど意識せずに、お金をより多く使ってしまうかもしれません。

4.聴覚

──音楽によって、高価な商品をどのようによく見せているのか?

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店内に流れる音楽もまた、店が創り出そうとしている全体のイメージを補完しています。オリジナルソングを流している小売業者も少なくありません。10代の若者をターゲットとしたショッピングモールでは、大音量のポップスがかかっていますし、高級宝石店ではクラシック音楽が流れているかもしれません。Yarrow博士は、この理由について、次のように述べています。

音楽には、感情を生み出す以上の力があると考えています。それゆえ、店は、消費者の感情へのきっかけを、音楽と結びつけようといています。例えば、音楽が一切ない映画を観ると、「なんだか安っぽいな」と感じることでしょう。音楽は人の感情を呼び起こすものであり、これこそ、小売業者がやりたいことなのです。消費者に、考えるのではなく、感じてもらいたいのです。

英科学誌『European Journal of Scientific Research』の研究によると、大音量の音楽を流すと、人々は店内をより素早く移動する一方、ゆったりと静かな音楽を流すと、長居する傾向があるとのこと(英文記事、PDF・参照)。また、スローテンポなポップスは衝動買いさせやすく(英文記事・参照)、音楽のテンポやピッチが、購買判断を変えるくらい、気分に影響することもある(英文記事・参照)そうです。

かける音楽の種類ひとつで、小売業者は消費者をコントロールします。例えば、ファストフード店のように食べ終わったお客さんにさっさと出て行ってほしいなら速いテンポの曲を流すでしょうし、できるだけ長居してほしいお店はゆったりとした音楽を使うでしょう。副次的な作用としては、音楽がその人のツボにうまくはまったとき、お金を使いすぎてしまうという点が挙げられます。

この記事では、五感に対するトリックが「どのように機能しているのか」、また、「消費者の購買選択にどのような影響を及ぼしているのか」について、詳しくみてきました。

小売業者の主たる目的は、消費者にお金を使わせること。消費者をいい気分にさせ、ぜひ手に入れたいと思うようなライフスタイルを見せることが、そのためのベストトリックのようです。消費者の五感に働きかけるこれらのトリックにハマらないようにするのは簡単ではありませんが、小売業者が実際にやっていることがわかれば、欲しくないモノまでつい買ってしまおうとする自分を止めやすくなるかもしれません。

米Lifehacker記事「How Advertising Manipulates Your Choices and Spending Habits (and What to Do About It)(購買選択と消費習慣を広告はどう操作しているか・英文」、ライフハッカーアーカイブ記事「買い物で後悔しないために知っておくべき6つの心理効果」、「『いますぐ買わなきゃ!』ゴコロをくすぐる、5つのセールスワード」など、ライフハッカーでは、「広告が消費者をどう操っているのか?」や「欲しくないものをつい買ってしまう脳のメカニズムは、どうなっているのか?」といったテーマをたびたび採り上げてきましたし、お金の節約術についても、たびたびご紹介してきました。

その一方で、小売業者は、消費者にお金をより多く使わせるための新しい方法を、常に模索しています。消費者の立場としては、小売業者が店に仕掛けたトリックやその狙い、効果を知り、意識することが、お金をより効果的かつ効率的に使うための第一歩かもしれませんね。

Thorin Klosowski(原文/訳:松岡由希子)

Photos by Mike Kalasnik, Julie & Heidi, Polycart, Vetiver Aromatics, Barry M and Thinkstock.