2013-12-28

人工知能学会誌の表紙を通して、批判と攻撃との差をみる

面白いな、と思って見てたんだけど、いくつかのブコメ結構危ういなと思ったので、

なぜそう思ったのか、自分の中で整理しておきたい。

kyoumoe

それがどうしたとか言ってる馬鹿は「これは男の性欲を具現化した女性差別象徴!!!!!」みたいなこと言ってるやつを全員黙らせてこいよ。男だからこそ女性差別ができるみたいな考え方の馬鹿は全員死ね

okbc99

“例えばアメリカ学会誌表紙が黒人黄色人種掃除アンドロイドだったらというのを想像してほしい。”これで伝わらない人もいるのか……。

特にこのお二人に思うところはないが、判りやすポイントだと思ったので。

主語をむやみに大きくしない

まず、kyoumoeさんの意見はどちらともとれるので難しいが、

「このイラストレーターがどのような意図で描いたか」を想定して話すのは、酷く危険だと思う。

イラストレーターへの批判/攻撃」に容易に繋がるからだ。

イラストレーターバックボーンが明示されていない状況では、話すとしても一般的な仮定を用いて話すべきだ。

まり「表紙のイラスト発注者意図に基づいて描くものだし、学会誌の表紙になるイラストは、学会誌意志決定者が採用の有無を判断する」

こういう仮定を置いた場合イラストレーターをこの話題の渦中に置くのは、誤っている。

同様に、「人工知能学会所属している研究者は」と主語を大きくするのも、誤っている。

例えば、この増田を読むのはほとんどが日本人だろうが、「日本をあげての性差別に見える」とされれば異を唱えたくなるだろう。

論点が同じだと思う場合は、説明する。

okbc99さんがどちらの意見かは判らないが、例示に賛同しているようにとれる。

これは、話題が異なるので、同質であると思う場合は、そのポイントを説明する必要がある。

少し判りにくいので、3例を示す。

  1. 日本人工知能学会誌の表紙が箒を持った女性ロボットに見える。
  2. “例えばアメリカ学会誌表紙が黒人黄色人種掃除アンドロイドだったらというのを想像してほしい。”
  3. 例えばPTA会報の表紙が扇情的ポーズの裸の掃除アンドロイドだったらと言うのを想像してほしい。

例えば、1番を批判する意図で3番を例示して「同質だと判らないのは、理解力が足りない」という非難は的外れだろう。

なぜならば、人工知能学会誌には、扇情的ポーズの裸の掃除アンドロイドは描かれていないからだ。

同様に、1番を批判する意図で2番を例示するのであれば、

日本での箒を持った女性ロボット」と「アメリカでの黒人黄色人種掃除アンドロイド」が同じ意味を持つと説明できなければならない。

批判する場合には、暗黙の前提は出来るだけ無くして、同じ前提を共有しなければ、すれ違いになる。

(2番は、暗に「黄禍論黒人奴隷歴史を考えれば、政治的な主張以外で米国では表紙になりえない」という前提を置いているのではないか

 後述するが、さらにここには暗に「掃除という作業」が差別的表現であるという前提をおかなければ成り立たない)

攻撃では無く、批判するために

悪意を持たずに解釈した上で、さらに非難/批判する点がある場合には、前提を共有する努力を怠らないこと。

例えば、この人工知能学会誌の表紙は、素直に解釈すれば以下のような意図を示しているだろう。

この場合、本が明らかな作業手順書ではなく、棚に入っている一般的な本(人間の知識)に見えること、

箒を持ちながら読んでいる(作業中に違う行動を取る)ことは、使役される立場から人間と同様に知識を得る、

(もしかすると、好奇心面白いと思う情動すら)いずれロボットが獲得するであろう、

人工知能学会は、そういったロボットを作り出す基礎研究をしている場なのだ、という自負にも見える。

(個人的に人工知能学会誌の表紙に相応しいイラストだと思っているため、後半はかなり好意的に解釈してしまっているが。だからリストからは外した)

その上で、批判すべき点は批判する。

Togetterまとめは攻撃的すぎると思ったため、HUFF POSTの記事から引用する。

saebou @Cristoforou

この表紙むちゃくちゃ気持ち悪い。こういう表紙にするって決めた人たちの中には女性学会員はいたんだろうか?女性ロボットがつながれてて家事をしてるってヘテロ男性の性幻想丸出しだよね。

http://www.huffingtonpost.jp/2013/12/27/artificial-intelligence_n_4506691.html

ヘテロ男性の性幻想」に触れる前に、差別の話を振り返っておこう

差別区別階層の差

差別には明確な定義存在しない為、性差別という単語に、どういった意味があるかは、人によって異なる可能性が大きい。

ここでは「ある集団からの除外行為や拒否行為、ある集団に属させようとする強制行為」を指すとする。

このため、「性差別とは、性別性的指向によって除外/拒否/強制される行為」とする。

こうすると、例えば「女性男性より力が弱いことが多いので、力仕事男性に割り振る」ことは区別であり、

女性から仕事を選べない。男性から仕事を拒否できない」ことは性差別であると言える。

(あくまでも上記の定義の範囲内であるから、「性差別」と表現する人の全てが同じ意見と推測するのは危険

性差別である条件

この上で、先ほどのsaebouさんの発言を「批判」と捉えるとすると、いくつかの条件が暗に仮定されている。

なぜならば、人工知能学会誌の表紙は、性別によって除外/拒否/強制が行われているイラストではないからだ。

(もちろん批判ではなく、好悪の表明である可能性もある。「私は嫌いだ」と「この表紙は非難に相当する」は異なる)

この場合、「家事をする」という行為が、性差別であるという前提条件が必要になる。

これは、先に挙げた「アメリカで、黒人黄色人種掃除アンドロイドだったら」という表現とも共通になる。

(個人的には、黄色人種でなくヒスパニック系が例示として適当だと思うし、またアメリカではその意見の表明こそが差別的であるとは思うが、別の話になる)

例えば、「南アフリカ共和国で、この表紙を採用した」場合は、白人への侮蔑的表現だと過激派から攻撃の対象になる可能性がある。

これは、アパルトヘイト苛烈人種差別に晒された歴史から、未だ人種差別意識が根強く、またロボット奴隷を容易に想像させるからだ。

まり差別的表現とは、表現する場所における背景が重要であるし、それは世界中で同質だと捉えて良いものではない。

すると、以下のような前提条件が必要になる。(全て「日本おいては」がついている)

  1. 掃除とは、家事に属する
  2. 家事とは、他に比べて劣った作業(奴隷的な労働)と同質である
  3. 家事女性が行うと仮定することは、女性に対する性差別である

3つの前提を置くと、ケーブルで繋がれた女性ロボットが、掃除を行う行為は、性差別表現している、と推測する事が出来る。

職業差別との差

ただし、先ほどの3つの前提は「掃除という作業に対する、職業差別である」とはすぐには言えない。

差別とは背景情報重要であると前述したとおり、日本における「家事」の背景情報を知る必要がある。

ここでは大枠で振り返るが、1950年代より女性低賃金で働くのではなく「家事」と呼ばれる家の作業を行うライフスタイルが推奨されだした。

1970年代に入ると、政策も含めてそれは性差別性別によってライフスタイルを強制される)と言って良い状況になったと思う。

すなわち、日本おいて「家事」とは「専業主婦代表する、性差別象徴」と捉えられる可能性がありうる。

これは、現代おい性差によって賃金格差が無く、ライフスタイルの強制がほぼ行われていなければ、職業差別であるという批判に相当する。

しかし、未だ性差による賃金格差がある現状では、「家事とは、性差別象徴である」という意見は相応の妥当性がある。

すなわち、「掃除をするいかなる人種性別を描いたとしても、同様に差別と批判されるのではないか」という意見は、

「前提条件が共有されている限りにおいて」妥当性がない。

もちろん、上記の前提条件は、暗黙に仮定して良いものではない。明示する必要がある。

(明示しなければならない現状は教育環境が整っていない、という批判はできるが、前提条件を共有できていない相手に対して非難する事とは異なる)

奴隷労働との差

「他に比べて劣った作業(奴隷的な労働)」と書いたのには理由がある。

例えば、「掃除とは、奴隷的な作業だ」と表明することは、職業差別だ。

業として清掃作業を行う人達は、他人の所有物ではないし、売買の対象にもなっていない。

賃金格差がある」ではなく、「劣った作業である」と表現するのも、差別的表現と言える。

これは、「家事女性が行う仮定は、性差別である」と「家事とは、奴隷的な作業である」が異なるという事でもある。

まり、「家事とは、社会的尊敬の対象となるし、賃金的にも恵まれている」と仮定したとしてもなお、

女性から家事を強制されるのは、性差別」と言える、という事だ。

女性だという、性別によって家事を強制される」ことは、性差別と言えるが、

「(掃除を含む)家事は、劣った労働である」という意見は、職業差別と言える。

ヘテロ男性の性幻想」という差別表現について

性差別とは、性別性的指向によって除外/拒否/強制される行為」とした場合

ヘテロ男性(より穏やかな言い方であれば異性愛指向する男性表現できる)」だから、性幻想を持つ、というのは、性差別である

なぜならば、異性愛同性愛両性愛などの性的指向を持つグループは、こうである、という批判になるからだ。

もちろん、男性から、というのも同様である

まり、「専業主婦代表される家事性差別を肯定するのは、ヘテロ男性である」という仮定は、性差別だ。

(なお「それが事実である」という反論は、むしろ差別を肯定していると言える。現に女性家事をしているじゃないか、という指摘と同質だからだ)

どう批判すべきであったか

という表現は、

などの表現妥当だと言える。

ロボットが繋がれて」という表現は「奴隷(強制された労働)」を容易に想像しうるし、

ヘテロ男性」という表現は、性差別からだ。

性差別を批判する際に、その表現の中に性差別を含んでいるからと言って批判そのものには影響しないが、好ましい態度では無いと思う。

同様に、攻撃的な表現は避けるべきだと信じる。

「バカは」「愚かならば」「カス」と言った表現は、攻撃的である

男性から」「科学者から」「理系から」と言った表現は、差別的である

どういうイラストにすべきであったか

上記のような、(長くなってしまったが……)前提条件を置いた上で、なお、批判すべき点があるとすれば、

いずれ家電としてロボットが普及する世界で、ロボットは作業機械という意味合いを越え、知識を自ら学習するだろう、

その基礎を研究するのが人工知能学会だという主張を表紙のイラストに持たせたいのであれば、

日本おいては、未だ性差別的な意味合いを取られがちの「家事」を連想させるものに「女性」を置かない方が良かった、となるだろう。

(例えば、背景に男性ロボットが同様に働いている様子を描く等、回避手段はいくつか思いつくだろう)

まとめるとすると

この件で、日本理系研究者を非難するのは、主語を大きくしすぎだと思う。

自分が嫌いなイラストだという事と、性差別的なイラストだと非難する事とは、異なる。

また「家事女性がすべきだと思ってるんだろう、若ければ若いほど良いんだろう」という推測は、邪推と言って良いと思う。

ただし「女性ロボット掃除を行っている表現は、性差別的な「家事」を連想させ、肯定している態度ではないか」という批判は、成り立つ。

掃除は、奴隷的な作業である」ならば職業差別だし、「ヘテロ男性から」というのは性差別である

差別的表現や攻撃的な表現を含んだ批判は、攻撃と言って良いと思うし、差別を批判する態度として好ましいとは思えない。

(そんな事を考えて批判やツイートは出来ないというのであれば、人工知能学会イラストも同様だろう。

 批判とは独立だが、その態度は、自分に甘く他人に厳しいようにしか見えない)

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