日本でいち早くシンセサイザーを導入した音楽家の小久保さん。ヒーリングミュージックを手がける一方で、携帯の緊急地震警報音も作成していた

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 昨年の震災以降、地震による被害を最小限に抑えるツールとして一般に広く認知されているのが、携帯電話の緊急地震速報「エリアメール」だ。

 気象庁が配信する緊急地震速報を、当該エリアへ一斉配信するこのシステム。携帯電話から突如鳴り出す「ウィウィウィ」という音は、一瞬にして人を緊張状態に誘(いざな)う絶大な効果がある。

 この警報音を作成したのは、小久保隆さんという音楽家だ。小久保さんは1970年代からシンセサイザーと電子音の分野で最先端を走り続けてきた人物で、ヒーリングミュージックのCDを数多くリリースするとともに、六本木ヒルズアリーナや東京ディズニーリゾート「イクスピアリ」などの空間音楽を手がける「音環境デザイナー」としても活躍中。いうなれば“癒やし音楽”の巨匠といえる音楽家である。

 その小久保さんは、「本当に、僕の予想以上に頻繁に鳴ってしまい……。皆さんを怖がらせて申し訳ない気持ちです」と恐縮しながら語る。

 2007年にドコモから依頼を受けて作成、同年末からサービスが開始されていたのだが、小久保さん自身、一度も聞く機会はなかったという。

「10年の5月に初めて自分の携帯からあの警報音が鳴って、『どこかで聞いたことがある』と思ったら、自分が作った音でして……」

 癒やし音楽の巨匠が、なぜ注意喚起が目的である警報音を作る依頼を受けたのか。

「警報音と癒やしの音は、対極にある音と思われがちですが、自分の中ではかけ離れた仕事ではないんですよ。“癒やしの音楽家”というイメージは小久保隆の一面で、自分では『人と音の関係を極める、音のデザイナー』であると考えていますから」

 依頼を受けてから3ヶ月間、国内のあらゆる警報音を聞き、地震の警報音に必要な機能、効能という定義を探る。そして、実際に制作にかかると20分で完成させてしまった。

 この警報音の真の狙いを、小久保さんはこう話す。

「地震は、起きるときには起きてしまうものです。だからこそ自分にとってベストの準備をしておくことが大切だと思います。あの警報音は皆さんを不安にさせるためではなく、脳のモードを『注意』に切り替えてもらうための音だということはわかっていただきたいです。もちろん、鳴らないことが一番なんですけどもね……」

(取材/佐口賢作、撮影/本田雄士)

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