すわ!すわ!すわ!『エレクション』

『エレクション』をDVDで鑑賞。手元にDVDはあって、観ようと思ってもなかなか食指が伸びなかったが、トー熱が再燃したのと人に勧められたこともあって観た。

香港黒社会の中で5万人の構成員を抱える最大級の組織「和連勝会」。古くからの伝統によって確固たる地位を築いているが、二年に一度、会長を選挙で決めるというしきたりがあり、そこに二人の男が候補者としてあがった。一人は組織の年長者から人柄を好かれているロク。もう一人はサヤに納まってない刀のような狂犬のディー。ディーは決して人柄は良くないが、金を稼ぐ手腕にかけては天才的で、組織の稼ぎ頭として評価されていた。裏工作などを謀り、会長の座を虎視眈々と狙うディーだったが、ロクが会長に決まったと聞かされた瞬間にふざけんじゃねぇ!と激高。会長の証である「竜頭棍」を奪いやがれ!と手下に指示すると同時に幹部連中を拷問。さらに「新しい組織を作ってお前らジジイとロクと戦争してやんよ!」と宣言。そこから血みどろの戦いに発展していくというお話。

こんなことばっかり書いて申し訳ないが、やっぱりおもしろい!!すげぇおもしろい!!ジョニー・トーファンの人がこれは傑作だ!とおすすめしてくれるのにハズレがないのは驚異的である。

膨大な登場人物と複雑な関係図をもちながら、説明的なセリフは極力少なめで、登場人物の人となりや関係性などの情報はわずかしか提示されないというあいかわらずのミニマリズム演出。映画は一切立ち止まることなくものすごいスピードで展開されていくので、すこし置いてけぼりをくらうかもしれない。それだけすさまじい情報量なのにもかかわらず、会長の座を巡る組織内の攻防と、会長の証である「竜頭棍」というマグガフィンの奪い合いが同時に展開されていくという手の込みようでまばたきすらも許してくれないくらいサスペンスフル。

さらにこの映画を盛り上げるのはなんといっても狂犬ディーを演じたレオン・カーフェイのハイテンション演技。『スカーフェイス』のアル・パチーノよろしく、組織のトップや年配者たち、警官、マスコミとありとあらゆるものに噛み付き吼えまくる。正直『炎の大捜査線』から演技を見ていなかったし、元々『愛人/ラマン』のイメージしかなかったので、最初ディーがレオン・カーフェイだと気付かなかったくらいの変貌ぶり。もちろん彼を迎え撃つサイモン・ヤムは淡々とした演技で、きっちり映画の中で静と動が躍動している。

そして眼を背けたくなるバイオレンス描写はさすがの一言。拳銃による殺戮は登場せず、基本は刀や鈍器によるもので、これがやけに新鮮であった。こんなの見たことない!というシーンもあって、その中でも木の箱に閉じ込めてそのまま何回も山頂から落すという拷問はすさまじかった。あとレンゲをバリバリ喰らうとか……まぁその辺は是非映画をチェックしていただきたい。

ただ、この映画が他のギャング映画と一線を画すのはその展開。ものすごくベタな言い方をすると最後の最後までまったく予測の付かない映画になっているのだ。しかもそれが「いきなりカエルが降って来たよ!」とか「ブルース・ウィリスがホントは!」とかそういうたぐいものではなく、各キャラクターの性格や行動、立場などを充分に前半で把握させてることが前フリになってる裏切りなのでとても小気味良い。キャラクターが突拍子もなく、映画の予定調和を破壊するたびに「すわ!レンゲ喰ったよ!」「すわ!急に守る側になったよ!」「すわ!信号変わっても車から降りなかったよ!」といちいち驚きの声をあげてしまう。そしてラスト………あまりの展開に空いた口がふさがらず、映画は急に終わってしまうため、どゆこと???と思ったのだが、なんとこの映画は二部作だったのでありました。

エレクション~死の報復~ [DVD]

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なるほどー。続くのねー。

というわけで『ゴッドファーザー』や『グッドフェローズ』『男たちの挽歌』と言った先輩たちにも負けてないギャング映画の雄『エレクション』は必見。意外とジョニー・トーをこれから観るというのもぜんぜんありだと思われます。すわ!

エレクション~黒社会~ [DVD]

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