近藤誠氏への反論III①抗がん剤は副作用で苦しめるだけだ? | がん治療の虚実

近藤誠氏への反論III①抗がん剤は副作用で苦しめるだけだ?


今回から近藤誠氏のがん治療思想への反論を開始します。

週刊文春1月27日号で近藤誠氏は以下のように主張しています。

・「抗がん剤は患者さんを副作用で苦しめるだけだ」

そもそも抗がん剤が普及してきたのはその副作用以上にがんによる症状を緩和する効果があるからなのだ。
いろいろな固形がんのstage IV患者さんを対象とした臨床試験で抗がん剤を投与した患者さんの方が、しなかった患者さんより生活の質が上だったということが何度も証明された歴史的経緯があるのだ(つまり抗がん剤の副作用よりもがんが縮小あるいは増大を遅らせ、がんによる痛みなどを緩和する効果の方が高いことを示している)。
またその症状緩和だけでなく、その結果として延命効果も得られているのから標準治療とされているのである。
単に延命するだけに価値があるなら、がんで死にかけていても人工呼吸器を取り付け無理矢理延命の方向にもっていくことも正当化されるではないか。
自分も世の中の多くの癌治療医も終末期がん患者さんに対しては無理な延命は勧めない。もちろん家族の気持ちとしてはなるだけ長生きしてほしいという素朴な感情があるのは分かっている。
しかしそれは本人にとって拷問の時間を延長することになることを説明すると家族もそこまでは望まないことがほとんどだ。

近藤誠氏は最近の新規分子標的薬もひどい皮膚障害や腸の障害が多く、クオリティオブライフ(生活の質)を非常に下げていると主張している。
確かに15年以上前は抗がん剤治療で最も嫌われる吐き気に対する制吐剤もいいものがなく、支持療法(副作用をコントロールするテクニック)も未熟で患者さんの苦悶は筆舌に尽くしがたいものだったし、治療関連死は10%近くなることもあった。
しかし今は支持療法の発展でかなり副作用を抑えられるようになってきた。
最近流行の分子標的薬の皮膚症状もアトピー性皮膚炎のひどい人並みに苦しみ続けることは少ない。減量中止で改善するし、一部では早期に対応策が開発されつつあるからだ。
第一ほとんど副作用が問題とならない患者さんもいるのも事実(ここで重要なのは起こらないかどうかだけではなく、本人にとって切実なものになるかどうか、対処可能かどうかも含む)。
一律副作用が起こるからやめた方がいいと言うのはチャンスがあるかもしれない人の犠牲を前提としている主張だ。
ひどい副作用に見舞われる事になるはずだった一部の患者さんにとってはいいかもしれないが、代わりに患者さん全員を腫瘍に対する治療法はないと絶望に陥れる事になる。そんなことが正当化されるとはとても思えないのだ。

結論
抗がん剤は副作用以上にがん症状緩和と延命に寄与する部分が大きい。

残りの反論テーマ
・「治らないと意味がない」
・「腫瘍内科医になると患者さんの苦悶に鈍感になる」