インフラ技術者注目の「さくらのクラウド」、サービスの狙いと使い勝手は

スナップショットからテンプレ作成、サーバー増設はコピーするだけ

 さくらインターネット株式会社は、人気の「さくらのVPS」に続いて、サーバーの台数を自在に増減できるIaaSサービス「さくらのクラウド」を11月に開始する予定だ。現在、βテストがユーザー限定で実施されている。

 このβ版を試用する機会を得たので、レポートしたい。

本物のネットワークに近い感覚で仮想ネットークを組める

 さくらのクラウドに興味を持つ人が共通で思うのは「さくらのVPSとどう違うのか」「Amazon EC2とどう違うのか」ということだろう。少なくとも筆者はそうだ。

さくらのクラウドは11月に正式サービスを開始

 今回試してみた筆者の結論を先に書くと、「本物のネットワークに近いやりかたで仮想ネットワークを構成できる」のが、さくらのクラウドの特徴だ。さくらのVPSが登場したときには、VPSでありながら実際に素のサーバーにOSをインストールして使っているかのような自由度が、ユーザーから歓迎された。それと同じように、クラウドというより実際にネットワークセグメントを切ってインターネットと接続していくような感覚が、さくらのクラウドにはある。

 つまり、複数のNIC(ネットワークインターフェイス)を持つサーバーを使い、ファイアウォールなどを設定し、スイッチでLANセグメントを構成する、といった構成を組める人や、やってみたい人には、腕のふるいがいのあるインフラだ。一方、そんな面倒なことは嫌だ、という人には、VPSなどのサービスのほうが向いているだろう。

筆者が試しに組んだ3層構成のサーバー(コントロールパネルでの表示)。仮想ルーターにつながったLANに、リバースプロキシ、Webアプリケーション、DBの3つのサーバーがフラットに並ぶ、自宅サーバーっぽい簡易的な構成だ

 そのほか、VPSとの大きな違いとして、日数と台数に応じた料金体系が予定されている。1台のサーバーを動かし続けた場合にはVPSより料金がやや高くなるということなので、そのような使い方にはVPSが向いているだろう。一方、急にスケールアウトしたりする可能性のある利用にはクラウドが向いているだろう。

サーバーとスイッチを作ってネットワークを構成する

 概要はこれぐらいにして、実際にさくらのクラウドのβ版を操作してみよう。

 Webでコントロールパネルにアクセスすると、さくらのVPSとはかなり違った画面が表示される。基本となるのは右上に種類が表示されているように、「サーバ」「ディスク」「スイッチ」「テンプレート」それぞれの一覧表示だ。各項目をクリックすると、タブ切り替えのように表示が切り替わる。

コントロールパネルのサーバーの画面。まだ1台も作られていない一連のサーバーを立てた後のサーバーの画面。4台が一覧表示される

 さっそく前節の図のようなサーバー構成を作ってみよう。まずはいきなりだがスイッチから作ってみる。といっても、スイッチの画面から「新規作成」をクリックし、ゾーンを選んで名前を付ければ、それだけで作成できる。

スイッチの画面。まだスイッチは作られていないスイッチを作る。ゾーンを選んで名前を付けるだけでいい

 続いて、インターネットゲートウェイのサーバーを作ってみる。サーバーの作成にはISOイメージから作る方法とテンプレート(雛形)から作る方法がある。ISOイメージから作る場合にはWeb上の仮想コンソールからOSのインストーラを操作する必要があるが、テンプレートからであればコントロールパネルから指定するだけで済み、時間も数十秒でインストールできる。

 試した時点で、LinuxベースのソフトウェアルーターOSである「Vyatta Core」のテンプレートが用意されていたので、これを使うことにする。

 サーバーの作成で注意したいのが、インターネット接続を持つ「共有インターネット回線に接続」と、インターネット接続を持たない「スイッチに接続」の2種類があることだ。インターネット接続を持つタイプは接続料金を含むため、インターネット接続を持たないタイプより少し料金を高めに設定する見込みだという。ただし、料金体系についてはまだ変更の可能性もあるとのことで、正式な発表を待ちたい。

サーバーの作成を開始する。ゾーンとサーバーのプラン(CPU数とメモリ容量)を選び、テンプレートから作るかISOイメージからインストールするかを指定するテンプレートから作る場合は、テンプレートを選んで、ホスト名と管理ユーザーのパスワードを入力する。また、ここでSSH公開鍵を貼り付けてサーバーの~/.ssh/authorized_keysに設定することもできる
インターネット接続を持つタイプにするかどうか選ぶ。インターネット接続を持つタイプは接続料金がかかるという一覧表示から探しやすいように、名前と説明、タブ、アイコンを設定できる

 インストールが完了し、サーバーを起動すると、仮想コンソールにサーバーの画面が表示される。これは、ウェブカメラのように静止画の切り替えでコンソール画面を表示しているもので、サーバーの動作状況がわかって便利だ。さらにこの画像をクリックすると、JavaベースのVNCクライアントが起動し、画像表示と同じ場所に表示されるという凝りようだ。

静止画の切り替えによるコンソールの表示画面部分をクリックすると、同じ場所にVNCクライアントが埋め込まれて表示される

 このサーバーをLANにも接続してゲートウェイとするので、NICを追加しよう。サーバーが停止している状態で、コンソール表示の下の詳細情報からNICを追加できる。この追加したeth1を、さきほど作ったスイッチに接続する。

 この状態でVyattaを起動してログインし、sshアクセスやファイアウォール、NAT、DNSフォワーディング、宛先NATなどを設定した。

新しいNICを追加したVyattaの設定内容(一部)

スナップショットからテンプレートを作れて楽

 続いて、スイッチに接続するサーバー3台を作成する。ここではまず1台、テンプレートになかったDebianをISOイメージからインストールしてみた。通常のインストーラを使ったインストールなので、それなりの手間と時間がかかる。

 インストール後にサーバーを停止すると、ディスクの画面からスナップショットをとれる。スナップショットをとっておくと、後からいつでもその時点のディスク内容に戻れるという機能だ。

 さらにそのスナップショットからは、自分だけのテンプレートを作れる。このテンプレートから2台目や3台目のサーバーをインストールできるのが、とても楽だった。なお、テンプレートから作ったサーバーは、元のサーバーのネットワーク設定が消された状態で起動したため、IPアドレスが衝突するようなことはなかった。

ISOイメージからインストールする場合は、ディスクサイズとISOイメージを選んでインストーラを起動するディスクの画面からスナップショットを取る
スナップショットを選んで「テンプレート化」を実行する

 必要なサーバーを立てたら、スイッチの画面に移り、さきほど作成したスイッチを選んで「マップ表示」をクリックしてみよう。すると、コントロールパネル上に、作成したネットワークの構成図が表示される。ここまで作業してきた結果が形として見えて、ちょっと感激した。

スイッチの画面の「マップ表示」で、作成したネットワークの構成図が表示される

 以上、さくらのクラウドでネットワークとサーバーを構成する簡単な例を見てきた。「本物のネットワークに近いやりかたで構築できる」と書いた意味が、いささかなりとも伝わっただろうか。

 なお、IaaSといえば、サーバーをプログラムから増減させたりといった操作をするための管理APIがつきものだ。執筆時点では管理APIはまだ公開されていないが、リリースまでには公開されるとのことだ。

「自分で使ってみて、サーバーのコピーが楽だった」

さくらインターネット株式会社 田中邦裕社長

 さくらのクラウドがリリース時にどのような形になるのかなどについて、さくらインターネット株式会社社長の田中邦裕氏に話を聞いた。

―― さくらのVPSとの差別化は

田中:あまり考えていないんですよね(笑)。基本的には、VPSは安価で固定的な使い方、クラウドは機能性重視、という違いです。ただ、VPSでも管理APIやディスクイメージのコピーを予定しているので、VPSもクラウド的な使い方ができるようになっていきます。

―― 料金は

田中:報道ではすでにAmazonの半額とか書かれてますね(笑)。サーバーはメモリとCPU数の組み合わせをあらかじめいくつかのプランで決めて、基本は月額料金ですが、途中解約の場合はその月分を日割り計算します。サーバーとディスク、スイッチの3つで課金しますが、インターネット回線の転送量課金はナシというか、サーバーの単価に定額で含まれます。

―― サーバーにインターネット接続とローカル接続の2つのタイプがありますね

田中:いまはローカル接続と共用インターネット接続の2つですが、専用インターネット接続タイプも予定しています。接続タイプはいちどサーバーを作った後には変えられないんですが、仕様変更したいですね。

 ローカル接続は仕組みとしてはVLANなんですが、これを専用サーバーサービスと接続できるようにするのも検討しています。これができると、他社に比べて優位性があると思います。石狩データセンターなどで、クラウドと専用サーバーが同じデータセンターにあれば低レイテンシー(遅延)で接続できますし。

―― さくらのクラウドのシステムは自前で開発したのでしょうか

田中:オープンソースのソフトウェアをベースに、あとは自社で開発しています。

―― OpenStackなど既存のプラットフォームを使わなかった理由は

田中:3つあります。まず、ベンダーの意向や仕様に左右されずに自分たちのやりたいようにやること。次に、既存のソフトが対応していないような新しいテクノロジーも使いたいこと。InfiniBandや独自コンソールなどですね。最後に、なんといっても自分たちでやったほうがエンジニアが楽しいことです。やり切るつもりがあれば、自前でやったほうが、何かあっても自分たちでなんとかできるので。

―― 開発は何人くらいの体制で

田中:クラウド固有の部分でいうと、メインはコントロールパネルとAPIに1人ずつの2人です。あと、リリースに向けて課金システムに1人。それに、運用やネットワーク、ストレージなど、従来からやっている分野のメンバーが参加しています。私もコミット権を持っていますし。

―― コントロールパネルが、さくらのVPSとかなり違いますね

田中:コントロールパネルは、がんばりました。VPSではシンプルなものを目指しましたが、クラウドではユーザーエクスペリエンスで、おっ、と思ってもらうように考えて作ったので、考え方が違っています。

―― 仮想コンソールが画像で表示されていて、クリックするとVNCクライアントが同じ場所で動くのに驚きました

田中:実は、HTML5とWebSocketで作ったVNCクライアントも開発しています。これならJavaを入れたくない人や、iPadから操作する人にも使える。βにはまだ出していませんが、社内のテストサーバーでは“コナミコマンド”でこのHTML5のVNCクライアントが起動するようになっています。

 そのほか、Javaベースではない外部のVNCクライアントを起動する機能も予定しています。ちなみに、静止画が切り替わるコンソールは便利なので、さくらのVPSにも入れたいと思っています。

―― 管理APIの提供は

田中:10月中にもリリースします。今のコントロールパネルも内部的にはAPIを呼び出しているので。ただ、他人のサーバーを操作できてしまったりしないようになど、安全性の面を詰めているところです。後発なので、他社よりスマートなAPIになっていると思います。

―― さくらのクラウドの想定用途は、Webのサービスでしょうか

田中:最初はそうですね。実績を積んで、専用インターネット回線や、専用サーバーとの接続などを用意した後は、エンタープライズ寄りの用途も考えていきたいですね。

―― ご自身で作った「まどマギジェネレータ」も、さくらのクラウドで動いていると聞きましたが

田中:そうです(笑)。フロントはVPSで、バックの重い画像生成がクラウドで動いています。前作の「とある櫻花の画像生成」がさくらのVPSなので。

 自分で使ってみた感想としては、サーバーのスナップショットをとってコピーを作るのがAmazonのAWSより楽でしたね。100台とか作るならイメージを作るのでしょうが、気軽にコピーして同じ構成のサーバーを作るなら、数十秒でできます。


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(高橋 正和)

2011/10/11 00:00