最近、ITガジェット好きFPとして取材を受けるようになったFP山崎(@yam_syun)です。現在Google Readerの乗り換え先を検討中です。iPhoneではByline、iPadではFeeddlerProを使ってましたが、今後はさてどうしましょうかね。

さて、行動ファイナンスなど心理学を活用し、マネー・投資の難しさや対策法を考える「マネーハック心理学」。今回は「選択肢が多いことが必ずしもいい結果にはならない」という話です。

基本的に、選択肢が多いことは個人あるいは消費者にとっていいことです。しかし、選択肢の多さがむしろ個人を非合理的な世界に押しやることもあります。とはいえ、選択肢が少なすぎるとそもそも質の悪い商品を押しつけられる恐れもあります。

心理的トラップに陥らずに、上手に商品選択をする方法を考えてみます。

選択肢は多いのと少ないのとどちらがいいか

10年ほど前、セイシェルに旅行したことがあります。自由時間が少しあったので、地元のスーパーマーケットに入りました。セイシェルは社会主義志向の国家(といっても資本主義でもあり、フランス等のリゾート地としてユーロも使えるのですが)ということもあってか、スーパーの商品点数の少なさに衝撃を受けました。例えば「衣料洗剤」「シャンプー」はそれぞれ1銘柄(あるいは2銘柄)しかなく、同じ銘柄の商品が棚をひとつ占有しているのです。

これはなかなか衝撃的でした。日本のドラッグストアなら、衣料洗剤だけで10種類近くが並びます。シャンプーであれば20種類を超えます。柔軟剤やリンスなども左右に並ぶので、1つの商品に与えられる棚はせいぜい2列というところでしょう。選択の自由がある、ということがいかにありがたいことか感じるとともに、多様な選択肢は国家の産業力とセットであることを考えさせられました。

基本的に選択肢が多様であることは消費者にとってポジティブなものと考えられます。金融商品においてもこれは同様で、投資信託についていえば5000種類以上の投資信託が国内で販売されています。ひとつの銀行において100種類くらい取り扱われることも珍しくありませんし、ネット証券などでは1000種類以上の投資信託ラインナップを競い合っています。

しかし、あまりにも多すぎる選択肢は、結果として合理的な判断を邪魔する可能性もあります。むしろ思考停止を招いたり、非合理的行動に走らせる恐れがあるのです。

選択肢は多いのと少ないのとどちらがいいか

選択肢が多すぎるとむしろ合理的に選べなくなる

ドラッグストアの例に戻りますが、20種類あるシャンプーを私たちは合理的判断において選択しているわけではありません。「安かった」「前に使ったものと同じ」「CMで見た」「友人に勧められた」のいずれかが選択理由ではないでしょうか。成分表示、内容量、価格等を仔細にチェックしてポイントをつけるなどしながら比較検討を行い、吟味のすえシャンプーを選ぶ人はほとんどいません。

NHKのテレビ番組や著書「選択の科学」で有名なシーナ・アイエンガー教授のリサーチに「選択の難しさ」を伝える有名な調査があります。それはあるスーパーマーケットでジャムの試食とセールスの関係を調査したものです。

同じお店で24種類の試供品提示と6種類の試供品提示をしてみたところ、結果に大きく差が出たのです。圧倒的に注目を集めたのはやはり選択肢の多い24種類の試供品テストでした。しかし、セールスに結びついたのは明らかに6種類の試供品テストだったのです。6種類テストでは30%の人が実際に商品を会計し、24種類テストではなんと3%しか購入行動には結びつかなかったといいます。

この調査の分析に対してはたくさんの意見がありますが、投資においてもほぼ同じ傾向があるように思います。例えば、銀行が取り扱っている100本の投資信託を全部リスト化して提示することはありません。「選択肢がたくさんあるのはすごいね!」といっても、実際には買ってくれない可能性が高いからです。

また、販売側のリソースの限界もあります。100種類を全部学習してからセールスに向かうのでは出遅れてしまいます。現実的にはセールス用に10本以下のラインナップをまとめあげ、広告資料等を集約し、集中的にプロモーションしたほうが効率的です。

しかし、商品が優れているよりキャンペーン中であるとか、金融機関に手数料販売の儲けが多い商品がプッシュされたとしたら、この絞り込みは一見分かりやすくなったようですが、消費者がデメリットとなった可能性もあります。

やはり「少なくて、良い選択肢がある」と考えるのは危うい発想です。しかし「多い選択肢の中のひとつを選ぶ」ことはなかなか容易ではありません。

たくさんある選択肢から合理的に妥当な選択肢を選び取る方法はないものでしょうか(ところで、前掲の「選択の科学」には自分で主体的に選択したと思っていても、それは相手方に「選択させられた」かもしれない、というエピソードがあり、これも興味深いのですがまた改めてネタにしてみたいと思います)。

多様な選択肢をシンプルに絞り込め

1000種類の投資商品をすべて吟味することは当然ながら不可能です。しかし、数十程度の選択肢ではベターな商品選択肢を得られるとは考えにくいはずです。また、コマーシャルされたものが優れたものである、という判断は明らかに非合理的です。そこで、「数多い選択肢」は活かしつつ「現実的な絞り込み」を行うことが必要になります。

個人にとって有力な投資対象である「投資信託」についていえば、実は絞り込みはそれほど苦労するものではありません。実はネットのサービスで簡単にフィルタリングができるからです。「モーニングスター」、あるいは「投信まとなび」といった投信評価会社のサイトにいけば、無数にある投資信託をフィルタリングし、ソートして、好みの条件でベターな選択肢を見つけることができます。

そのとき、合理的な絞り込みルールは以下のとおりです。

・効果的な絞り込み

投資対象:そもそも何に投資をするかをまず決めること。国内の株式・債券、海外の株式・債券、その他の投資対象(不動産とかコモディティとか)かも分からず買わないこと。投資対象によって市場の騰落は異なるので、単純に成績のいいものだけを条件にランキングしないこと

手数料の低さ:手数料が高ければ運用成績が高い、という単純な関係はほとんど生じない。むしろ手数料が低い商品を探す努力のほうが効果が大きい。最後のソートは手数料が低い順に並び替えて検討すること

注意したい絞り込み

CM等の露出の多さ:CMが実績を保証することはないので、ネームバリューだけで買うのは非効率的。また、新商品であることも好成績を保証しないので、注意して選びたい

直近の好成績:過去の好成績が将来の好成績を約束するわけではないので、あまり過去の実績に頼らず選ぶ。また、ここ4カ月は市場の平均そのものが大きく上昇しているので同程度のプラスであることは普通の成績と考えたい。

候補をラクして5本以下にしぼりこむ

候補をラクして5本以下にしぼりこむ

5本程度の候補にしぼる方法が分かれば、100本であろうと1000本であろうと自分の現実的な選択肢にすることができます。また、こうした外部サイトを活用することで「実はA銀行では売っていないがいい商品」を見つけるチャンスも生まれます。A銀行の担当者に質問する限り、自行取り扱いリストからしか答えは返ってきませんが、「日本にあるすべての投資信託」を検索対象にしてしまうことも、ネットであれば可能なわけです。

「お好みの投資信託」をみつけて「買うことのできる金融機関」を選ぶようになれば、セールストークに惑わされることなくたくさんの選択肢からベターな商品を見つけ出せます。最初は惑うこともあるでしょうが、いろいろ検索をかけてみるといいでしょう。

なお、絞り込みのキーワードについて筆者の個人的意見をご参考まで。

まず「投資対象」を決めます(日本株式、外国株式、双方に投資するバランス型あたりから選べばよい)。

次に「インデックス運用」「販売手数料ゼロ(ノーロード)」をフィルタリング条件とします。

最後に、「信託報酬(運用手数料)が低いランキング」を作成します(可能なら確定拠出年金専用ファンドを除外する)。

「たくさんのジャムがあるのに、ひとつも購入できなかったお客」は、結果としてどんなフレーバーも翌朝の食事に出ることはありませんでした。選択肢が多いというメリットを有利なものとして活用することが大切です。「絞り込む武器(ツール)」としてネットのサービスを使ってみてください。

(山崎俊輔)

Photo by Thinkstock/Getty Images.