「これから本格的に動くことを報告したい」――ウィルコムの記者説明会で、同社代表取締役社長の宮内謙氏はこう切り出した。ウィルコムは11月30日に東京地方裁判所から更生計画の認可を受け、ソフトバンクグループ傘下の通信会社として再出発をすることになった。宮内氏は「ソフトバンクモバイル、ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコムに続く、ソフトバンクグループ4社目の通信事業者になったので、本格的に始動したい」と話す。
ウィルコムは、定額で音声通話ができる「ウィルコム定額プラン」やスマートフォン「W-ZERO3」などで話題を集めたが、他社にもキャッチアップされ、ここ1〜2年は革新的なサービスや端末を投入することができなかった。次世代PHS事業「WILLCOM CORE XGP」の展開も財政的な事情から困難となった。そうした状況に呼応するように契約数は右肩下がりとなり、純減の歯止めが利かないのが現状だ。
今回、更生計画の認可が下りたことを受け、同社は“新生ウィルコム”として再出発を図る。その最初の施策となるのが、宮内氏が「常識を打ち破る新しいプラン」と呼ぶ、月額980円でウィルコム以外の携帯電話や固定電話との通話料が無料になる「だれとでも定額」だ。宮内氏は同プランをウィルコムの主力サービスに据え、「遅くとも3カ月以内には純増に持ち込みたい」と意気込む。
宮内氏がだれとでも定額の効果に自信を見せるのには2つの理由がある。1つがソフトバンクモバイルのホワイトプラン。ホワイトプラン、Wホワイト、ホワイト家族など、ソフトバンクはホワイトシリーズで一気に加入者を増やした。ウィルコムもウィルコム定額プランで同じ成功体験をしてきた。「キャリア網内の通話無料はソフトバンクがやっていたので、それをもう少し進化させる。そのためには、他社にかける電話も有料という常識を打ち破りたい。日本中に通話の喜びをもう1度持ち込みたい」と同氏は語気を強める。
もう1つの理由が同社のマーケティングリサーチだ。キャリアを変更したい人の理由のうち39.1%が「通話料を安くしたいから」、ケータイを複数台持つ理由の40%が「トータルの料金を安くしたいから」とのデータを踏まえ、ウィルコムは2010年4月から、だれとでも定額のサービスを沖縄で試験的に開始した。すると5月には沖縄では2009年5月以来の純増を記録した。ウィルコムマーケティング本部長の寺尾洋幸氏は「通話に対するニーズが高いことをあらためて実感した」と手応えを感じたようだ。試験サービスは沖縄のほかに北海道、広島、仙台でも実施し、いずれの地域でも成果があったようだ。
だれとでも定額は10分以内の国内通話料が毎月500回まで無料になるというもの。この「500回(約83.3時間)」という数字も、試験サービスを通じて十分なARPUを得られる最適解だと判断したという。宮内氏も「通話とメールを楽しめればいいというマーケットは確実にある」と自信を見せる。
宮内氏は「10分を超える通話はほとんどない。一般のお客さんが使うには十分」と話すが、長電話をする人も確実にいるだろう。だれとでも定額の通話は1回につき最長で10分だが、10分経過する前にいったん電話を切ってもう1度かけ直してもよい。少し面倒だが、10分ごとに切りながら通話を続ければ、長電話も可能にはなる。10分という制限を設けたのは「予期しない犯罪などに悪用されるケースがあるため」(宮内氏)。
なお、だれとでも定額はW-SIM対応機種では利用できず、今後の対応については未定。「技術的に裏付けが取れたらサービスを始めるかどうかを検討している」(寺尾氏)
あわせて、ウィルコム取り扱い店舗数を、11月時点の2754店舗から2011年3月までに4000店舗に増やし、販売チャネルも強化する。
ウィルコムのPHS基地局はソフトバンクが譲り受ける形になったことから、ウィルコムのネットワークが弱体化するのではと心配する人もいるかもしれない。寺尾氏は「ネットワークについては孫社長と夏以降、密に議論してきた。ウィルコムとして品質を維持することはもちろん、もっと拡大していこうと。通信事業者のコストはインフラが一番大きいので、売り上げを増やしながらコストを下げていきたい」とプラスの方向に転じていることを強調する。
そのために、従来のPHS基地局に加え、ソフトバンクの3G基地局(鉄塔)にもPHS基地局を設立する。ソフトバンクの鉄塔を使うと高い場所にアンテナを設置できるため、PHS基地局よりも広いエリアをカバーできる。さらに「PHSアンテナ」と「3G+PHS共用アンテナ」を併用する“デュアルアンテナ”の開発も2010年夏から進めており、12月から稼働する。これらの施策により「コストを下げつつ十分なエリアを拡大できる」と寺尾氏は話す。
基地局のカバーエリアが広がると、ウィルコムの強みである(数十〜数百メートルの範囲に基地局を設置する)マイクロセルのメリットが半減する恐れもあるが、宮内氏は「マイクロセルの強みは生かしながら、ユーザーが減っているところは(広範囲をカバーする)マクロセルを使って面を維持する。マイクロセルとマクロセルは補間関係になる」説明した。
ウィルコムの基幹網(バックボーン・ネットワーク)については、NTTの交換機を介するISDNネットワークから、ITX(IP Transit eXchange)という交換機を用いたIPネットワークへの切り替えがほぼ完了している。現在、IPネットワークの基幹網にはNTTコミュニケーションズのネットワークを利用しているが、今後はソフトバンクテレコムのネットワークへの切り替えを進め、ソフトバンクグループとの連携を強めていく。他社よりもグループ会社の方がコストの融通が効くため、ここからもコストの抑制につながるとみられる。
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