『君の名は。』『シン・ゴジラ』ヒットは東宝ばかり…カンヌ受賞監督が嘆く東宝独占状態と映画業界の歪な構造

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 こういった大手寡占の状況は興行収入の数字をみるとよく分かる。「キネマ旬報」16年3月下旬号のデータによれば、15年の興行収入でハリウッドメジャー6社(ウォルト・ディズニー、20世紀フォックス、パラマウント、ソニー、NBCユニバーサル、ワーナー・ブラザース)と邦画大手3社が占める割合は全体興行収入(2171億1900万円)の85%に達する。この9社以外の映画会社で残りの15%のパイを奪い合っているのだ。

 その一方で、これら9社が昨年公開した映画の本数は全体(1136本)のうちの13.5%(153本)しかない。インディペンデント映画は983本で前述のたった15%の部分を取り合うという状況なのである。

 こういったインディペンデント映画にとっての向かい風の要因のひとつとなっているのが、ミニシアターの相次ぐ閉鎖だ。

 今年1月にミニシアターの象徴的な存在だった渋谷のシネマライズが閉館したのは大きな話題となったが、ここ数年、国内国外問わず良質なインディペンデント映画を上映してきた映画館が次々と姿を消している。シネセゾン渋谷、シネマ・アンジェリカ、吉祥寺バウスシアター、銀座シネパトス、銀座テアトルシネマなど、東京の映画館に限っても列挙していけばキリがない。

 その主な理由として、郊外出店で成功をおさめたシネコンが都市中心部にも進出してきたこと、フィルムからデジタルに上映方式が移行していく変化に合わせる体力が閉館したミニシアターにはなかったといった要因が挙げられるが、そういった状況に陥ったそもそもの原因は日本の映画ファンの変化にある。大作映画でもなく、有名俳優が出ているわけでもないアート系作品に関心を寄せる人の総数自体が減ってしまったのだ。

『ヴィデオドローム』『ゆきゆきて、神軍』など伝説的なカルト映画を世に送りだし、現在でも営業を続けている渋谷のミニシアター・ユーロスペース支配人である北條誠人氏は「創」13年7月号(創出版)でこのように語っている。

「学生の来場者は明らかに減っています。
 美大生がミニシアターを支えているというのは誤解で、以前なら渋谷周辺の青山学院や国学院、さらに早稲田、東大といった学生が学割で映画を見るために学生証を提示したものですが、今の客層は完全に中高年にシフトしています。
 1996年頃までは何を上映しても入る、と感じていましたが、2000年辺りから完璧に落ち始めたのを肌で感じました」

 少数の人に支持されるアート系作品をかけられる劇場が減り、加えて、そういった作品を好む目の肥えた若い映画ファンも育っていかない。そんな悪循環は結果的に映画の「多様性」を失わせていく。

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