Twitterでフォローしている知人の間で「ブラウザ三国志はやばい」、「WoWを引退した人がみんなブラウザ三国志に行った」といった噂が流れ始めたのは、2009年の年末頃だった。ちょうどその頃、才能の限界を感じてWoWを引退した私は、「ソーシャルアプリ系はサンシャイン 牧場しかやったことないので、ちょっと覗いてみるか」という程度の軽い気持ちでブラウザ三国志を始めたのだった。

■ 初めての接触 - 14鯖でゲーム開始、そしてアカウント停止
右も左もわからなかった私は、まだ始まったばかりだった14鯖でゲームを開始した。フムフムなるほど、畑を耕したり伐採所を作ったりして内政を強化しながら、ブショーダスという「武将カードのガチャガチャ」を引いて良い武将を引き当て、成長させていくわけか。ブショーダスで当てられる武将には超低確率のレアカードもあるらしい。

・・・ということは、アカウントを複数つくってブショーダスをたくさん引けば、そのうち良いカードが出るのでは?

翌朝には14鯖にはlalha、 lalha2、lalha3、lalha4という4人の君主が誕生していた。4人が所属する同盟の名もまた「lalha」だった。

その翌週、突然4アカウント同時にアカウントが停止された。

複垢禁止であることを知らなかったわけである。今振り返れば、開始直後の垢バンは、その後のプログラマー同盟の激動の4ヶ月の予兆に過ぎなかった。

■ 17鯖「プログラマー同盟」の誕生
その後、知人の鈴木健がいた16鯖などで少し遊んだりしていたのだが、14鯖でのアカウント停止までの1週間で「かなり面白そうだ」という感触を得た私は、17鯖が開始されるということで、そちらに新規に「lalha」という君主を作った。

北西地区での、今度は単身(1アカウント) でのスタートである。

「この鯖を本鯖にしよう」 − そう心に決めた私は、ブログで募集告知を出した。たちまち20人強の君主から書簡が届き、17鯖に「プログラマー同盟」が誕生した。

しかし、ブラウザ三国志を単なる「良くできた内政&武将育成ゲーム」としてしか認識していなかった私は、ここで致命的なミスを犯すことになる。ブログ経由で参加してくれたメンバーや知人だけで同盟を構成しようとしていたため、盟主であるにも関わらず、周辺の君主にまったく関心を向けず、同盟に勧誘していなかったのである。

私が知人だけ勧誘している間に、盟主である私の周囲の君主は次々と大同盟に組み込まれていった。ラビアン同盟、金獅子同盟、 【愛】総本部、ジェントルメン同盟 − 周囲にはいつ戦争になって攻めてきてもおかしくない大同盟の城や砦が無数に立ち並んでいた。

ようやく危険性に気づいた私は、急いで周囲の単独君主に書簡を送り、同盟への参加を呼びかけた。しかし返信書簡の多くは、「既に加入先が決まっている」といった断りの書簡であった。

気づくのが遅すぎたのである。

■ 軍神 mzkn
その頃、ブログ経由で参加していたmzknというブラウザ三国志熟練メンバーが、「くれぐれも内密に」という前提付きで私に書簡を送ってきた。曰く、プログラマー同盟はどう考えても規模が小さすぎる。しかしこれからでは勧誘しようにも手遅れの状態になっている。自分の周囲にいくつか大き目の同盟があるので、戦争をしかけて盟主ごと陥落させ、その後の戦後処理の中で、敗戦した同盟から選りすぐりの同盟員を引き抜くしかない。ただし、もしmzknが負けた場合には同盟対同盟の全面戦争に突入してしまうので、一度同盟を脱退し、一人で大同盟陥落を狙いたい。もし失敗したら、いつかプログラマー同盟員が助けに来てくれるのを待ちたいと思う − 戦争を酸いも甘いも経験した今ならはっきりとわかるが、mzknは、領地状況的に、もし負けたら誰も助けにこれないことをわかっていたのである。

mzknたった一人での、背水の陣での大同盟への宣戦布告である。


その2週間後、mzkn周辺の地図を見た私は自分の目を疑った。

周囲一面、画面に映る全ての同盟がmzknの配下になっていたのだ。
ゲーム序盤であるにも関わらず、mzknの配下同盟の数は、累計同盟員数で既に50人を超えていた。

たった一人で、辺り一面を焼け野原にしてしまったのだ。しかもmzknはどさくさに紛れてNPC砦まで単独攻略していた。

■ 金獅子同盟との外交戦争
mzknが単独で無双状態で周囲を荒らしまわっている頃、プログラマー同盟は外交上の重大な危機にさらされていた。私の本拠地を取り囲む金獅子同盟が、私たちが築いていた防護壁の間隙をついて領地に侵入してきたのである。

完成しつつあった防護壁に対しての明らかに意図的な侵入だったため、金獅子の盟主宛に、侵入意図を問い合わせる書簡を送った。金獅子盟主からの返信は、「内容について理解した。すぐ同盟員に領地破棄させる。交換条件としてそちらの領地XXを破棄してもらえるか?」といった内容のものだった。

盟主間の合意も得られたし、一件落着 − そう思っていた私の安堵感を打ち砕いたのは、約半日後に届いた金獅子盟主からの書簡だった。

「該当領地を取得した同盟員が領地を破棄したくないと言っている」

盟主同士で同盟としての合意が得られたのに、当事者である君主がどうしても聞かないというのだ。

私は、同盟方針が決まったのにそれを周知徹底できないのは盟主としての責任が全うできていないのではないかと抗議の書簡を送った。金獅子の盟主は、私のロジカルな抗議と同盟員の「納得できない。破棄したくない」というイロジカルな主張との間を取り持つ中で、明らかに疲れてきていた。

この頃から、私はブラウザ三国志のある側面に気付き始めていた。

「これは……まるで現実世界じゃないか。しかも現実世界よりずっとトラブルに満ちている。」

日頃の生活の中で、絶体絶命の状況に追い込まれることはそうそうない。

しかし、ブラウザ三国志の世界では、外交を一歩間違うと戦争を仕掛けられて敗北し、同盟員にとんでもない迷惑をかけてしまう。だから盟主は絶対負けるわけにはいかない。しかし高レベルの領地やNPC砦・城は限られている。必ず争奪戦が発生し、その過程で自然と揉め事が起きるように絶妙なバランスで設計されている。

「楽しい…これは最高に楽しい」

その日、私はブラウザ三国志の世界の住人になった。

(皇位継承編に続く)