ECRRは「今後10年間で10万人が癌で死亡する」と主張
ECRRのクリス=バズビーはこのとんでもないリスク計算なるものを発表しています。
ECRR Fukushima Risk Calculation p9
Assuming that no one moves away and that the contamination remains at this level, using the Tondel et al 2004 regression coefficient of 11% cancer increase per 100kBqm-2 and assuming the same spectrum of radionuclides and pathways for exposure the cancer increase in the 100km population is 66% and these cancers will be manifest in the next ten years.
誰も退避せず、汚染が減衰しない事を仮定し、トンデル2004の100kBq/m2に対して癌の増加の再帰係数が11%であることを使い、放射性核種の種類と被曝の経路が同じであると仮定すると、100km内の集団での癌の増加は66%になり、この癌はこの10年以内に発生する。
参考文献として、
ECRR Fukushima Risk Calculation p13
こいういうようにTondelの論文が引かれています。
もとの論文の表題を見てみる。
もとの論文は、J Epidemiol Community Health 58:2011, 2004 です。
私は普通こういう論文の表題だけをコピーするなどということはしないのですが、今回は例外です。
何か、ECRRが参考文献に載せているものと違いませんか?普通に注意力のある人には、
ECRRのクリス=バズビーが参考文献をひいた時に『due to the Chernobyl accident?』を消している
ことが分かります。なんで、ECRRはこういうショウモナイことをするのか。もとの論文が断定してないことを、さも断定的に取り扱うために、ハテナを削っているのです。こういう程度の低い団体の相手は本当はしたくありませんが、騙されている人がいるので仕方ない。
都会に住むだけで癌は5−16%増える。
これがトンデルの出してきた、補正一覧です。
左側の拡大。最初の欄Aをみると、人口密度が40人/km2以上になるだけで癌のリスクは1.09から1.10になります。
ちなみに、トンデルはもっともらしい数字を出そうとしてこんな補正を出してきたのでが、トンデルの主張を両方とも真に受ければ、『100kBq/m2の放射能汚染によるリスク(11%の増加)は、都会に済むリスク(10%の増加)とだいたい同じ』。ECRR風に言えば、『都会は人間で汚染されている』ということになるでしょうか。二番目の欄BのH regionというのは、コミュニティの分類(農村とか、都会とか)によっておこる癌のリスク。三番目のCは、肺がんのリスク。これで大気汚染とか、喫煙のリスクとかを代表させていると主張しています。4番目のDは、86−87年の全癌のリスク。
右側の拡大はこんな感じ。
補正を重ねた数字に、有意差なし。
放射能汚染で癌がおこるためには、『問題の』60−79kBq/m2のところでも癌が増えてもらわねばなりません。それで前述の補正を重ねて出してきた数字がこれです。
左側を拡大する。60-79kBq/m2の所に注意。
右側を拡大すると、60-79kBq/m2のところが線量に応じて危険率が上がるようになっているのは、様々な補正を全て加えた後であることに注意。しかも、括弧内の95%信頼度のところは全て1を含んでいる。ということは、別に1(=対照としたところと同じ)であっても不思議はないということ。
この表をよく見ると、60−79kBq/m2の領域の数字が1を越えて、もっともらしく癌のリスクがあがると結論づけるためには、全部の条件による補正が必要だったことがわかります。ところが悲しいかな、この数字すべて有意差がありません。95%信頼範囲をみると、全部偶然であるといっても良いのです。ところが、この数字をポワッソン分布だと仮定して再帰曲線を書くと、11%という数字が出てきました。ただし、これの信頼度95%の範囲は、3−20%です。計算の綾で、ぎりぎり正の相関が出てきていますが、もとにしているデータの有意差がないことを考えると信頼にたるものとは思えません。
独立していない数字で補正しているのは、ほどんど漫才。
しかも、この補正、よく考えるとおかしなことが分かります。人口密度によるリスクと、コミュニティの分類によるリスク、肺がんのリスク、全癌のリスクは独立なんでしょうか?こんなの独立な訳はありません。
昔聞いた漫才で、お父さんはよく働いている、というのがありました。『お父さんは1年365日よく働いている』『でも1/3は寝ているから、123日は働いてない』『分かった、お父さんは242日よく働いている』『でも土曜、日曜があるから、土日で102日休んでいる』『分かった、140日働いている』。この後、国民の祝日、風呂、食事、テレビを見る時間など引き算して行くと、1日も残らない。
もちろん、これは土日などと、寝てる時間を二重に数えているから、こんな馬鹿げた引き算になっているわけです。独立していない補正で数字をいじっているのは、ほとんど漫才です。それで踊っているECRR、さらにそれに踊らされている人などは、踊る阿呆に見る阿呆の世界ではありませんか。
120kBq/m2程度の汚染では、癌のリスクは他の環境因子の影響よりも小さくて問題にならない。
では、このトンデルの論文から分かる事は何か。それは、セシウム137の120kBq/m2くらいの汚染がおこったスウェーデンでは、癌や死亡率などは他の環境因子(例えば都会に住むことなど)の方が大きく、少なくとも10年くらいの観察では、問題にならない大きさだということです。小児甲状腺癌の増加がないことも、私の結論が妥当である事を示していると言って良い。実際、この論文の表7はこうなっています。
左側を拡大すると、それぞれの地域での甲状腺癌の比率がでています。例えば、40kBq/m2以上のところでは、十万人あたり1.84。
右側を拡大すると、その同じ地域の甲状腺癌が1.55に下がっています。
ロシア、ウクライナ、ベラルーシでは、小児甲状腺癌が10年でざっと100倍程に跳ね上がったことを思い起こすと、10倍程度でもあがれば簡単に分かった筈です。ところが、スウェーデンでは甲状腺癌は実数でほぼ同じか減っていることが分かります。*1しかも、9歳以下の小児甲状腺癌はゼロ。*2一番感度の良い、被害のよく分かる甲状腺癌ですら影響が出ていないのだから、他の癌で目に見えるような変化がないのは不思議ではありません。
トンデルの論文と、LNTを使ってECRRは10年で10万人という福島リスク計算を出している。
元に戻ってECRRは福島リスク計算をどうやって出したのか。
- 2µSv/hで100キロ圏が一様に汚染され、全部セシウム137だと仮定した。
- 空間線量のデータから逆算して表面汚染の崩壊数を計算した(空間線量と表面汚染の関係は以前に書きました)。
- 放射性物質は崩壊しても減衰しないと仮定した。
- 人は退避しないと仮定した。
- 表面汚染による外部被曝と癌の発症の増加比率は比例すると仮定した=ほぼLNT。*1。
- 癌の死亡は10万人あたり462人を使った。
- 100キロ範囲の人口338万人を使った。
- その係数にトンデルの論文の100kBq/m2で増加比率11%という値を使った。
以上です。これらのうち、どれが間違った仮定であるかは、ここまで読んできた人には分かると思いますが、一番の肝はトンデル論文です。これが上に述べたようにガタガタです。そもそも、トンデルのいう係数は補正をしないと2番目に高濃度に汚染されている60-89kBq/m2の地域、90−120kBq/m2に隣接した地域、にすら当てはめることができない。その計算をなぜ福島なら当てはめられるのか。従って、
ECRRの数字は妄想から繰り出したもの
であると言えます。