980円のドコモ新「シンプルプラン」は強烈な格安スマホ潰しだ

NTTドコモが絶好調だ。

4月27日に発表した2016年度通期の決算は、売上高にあたる営業収益は4兆5846億円(前年度比1.3%増)、営業利益は9447億円(前年度比20.7%増)。2期連続の増収増益である。

その決算会見の中で、同社は新料金プラン「シンプルプラン」を発表した。月額980円で家族間の通話は無料、それ以外の通話は30秒20円かかる料金体系となっている。

これまでのNTTドコモの料金プランといえば、音声通話が何回、何分でもかけ放題の「カケホーダイプラン」もしくは、1回5分までの通話が無料となる「カケホーダイライトプラン」が中心だった。

NTTドコモの吉澤和弘社長は「これまでカケホーダイを提供してきたが、通話をしない人向けのプランが求められていた。LINEで通話をする人が増えている影響もあるが、とにかくそういうお客さんが多い。980円で充分にコミュニケーションができる。要望に応える形で実現した」と導入の経緯を語る。

NTTドコモが発表した「シンプルプラン」

NTTドコモが決算説明会で発表した「シンプルプラン」

石川 温

月額980円のプランは単独では契約できず、家族と複数回線でデータ通信量を分け合って使う「シェアパック」と組み合わせる必要がある。家族3人の場合、代表回線では月額6980円がかかるものの、ほかの家族2人はそれぞれ月額1780円で回線が持てるようになる(シェアパック5、代表回線が15年利用の場合)。NTTドコモとしては、この「1780円」という数字を強調したいのだろう。

15年契約している長期ユーザー(この例ではお父さん)と、家族2人でシェアパック5(データ量5GB)を分け合うと、家族の月額料金は1780円ですむ計算。通話をLINE電話などで済ませれば、通話料金はかからない。

この1年、NTTドコモはソフトバンクの格安スマホ「ワイモバイル」の躍進に悩まされてきた。

ワイモバイルは〝月額1980円でスマホが持てる〟という点をアピールし、CMを大量に投入している。昨年、社長に就任したばかりの吉澤氏にインタビューした際、「ドコモユーザーだった人が、初めてのスマホを持ちたいと思った際、ワイモバイルを選び、MNPで流出する状況が続いている。この流れを食い止めなくてはいけないと思っている」と本音を語ったことがあった。

ワイモバイルの躍進を許したドコモの反省

従来型のフィーチャーフォンを使うドコモユーザーが「スマホにデビューしたい」と思ったときに、まず頭に浮かぶのが「ドコモは高い」という固定観念だ。そこで、CMを大量投入しているワイモバイルが気になり、ドコモを辞めてワイモバイルに移っていく人が後を絶たなかったのだ。

NTTドコモ・吉澤和弘社長

決算説明会に立つNTTドコモ・吉澤和弘社長

石川 温

そこで、まずNTTドコモがワイモバイル対抗策として投入したのが、一括648円のスマホ「MONO」だった。本体価格を一括648円という値付けにすることで、まずは端末代金を大幅に引き下げて、ガラケーユーザーがスマホデビューしやすくしたのだった。

そして、今回のシンプルプランにより、月々の通信料金も安くできるという設計を作り上げた。端末と料金の二本立てにより、ワイモバイルや格安スマホに興味のあるドコモユーザーを囲い込んでいこうというわけだ。

この数年、総務省は、キャッシュバックや実質ゼロ円での端末販売に対して、監視の目を強め、規制をかけようと懸命に努力してきた。その結果、キャリアショップからは大盤振る舞いのキャッシュバックは姿を消した。

これまでは、3キャリアは他社からユーザーを奪い取るという手法で収益を稼いできたが、総務省の意向もあって、もはやそうした手法は通用しなくなってしまった。

NTTドコモは国内シェアナンバーワンのポジションをキープしているが、一方でキャッシュバック戦争が盛り上がると、ユーザーが流出するばかりで、マイナスの影響が大きかった。

しかし、キャッシュバックに規制が入ることで、KDDIやソフトバンクにユーザーを奪われる心配がなくなり、あとは「いかにユーザーを囲い込んで安定的に経営するか」に注力すればよくなった。今回のシンプルプランに関しても、吉澤社長は「長く使っているお客さん、通話はしないが料金が高いと思っている人をフォローして、ドコモにとどまり、長く使ってもらいたい。とにかくドコモに残っていただくことに注力する」と語っている。

なぜ、改めて980円プランを復活させたのか?

NTTドコモが上手いのは、「家族」を中心としたプラン設計になっている点だ。 月額980円のシンプルプランが適用できるのは家族で複数回線を使っているユーザーに限られる。

NTTドコモのユーザーは、まずお父さんがNTTドコモを10年以上使い続けており、その家族も一緒にドコモを使っているケースが多かった。お父さんは長年、ドコモを使っていることもあり、他社に移行する、という考えはほとんどない。しかし、家族は、かつてソフトバンクだけがiPhoneを扱っているときには、iPhoneが欲しくてソフトバンクに移行し、ワイモバイルが安いと聞けば、ワイモバイルに飛びついてきた。

NTTドコモはまず辞めないであろうお父さんを中心に、いかに家族を囲い込むか。そして、他社を使っている家族がいれば、なんとかしてドコモを使ってもらうことが重要なのだ。 そもそもカケホーダイプランは、NTTドコモが3キャリアでいち早く導入したプランだった。それまで一般的だった980円の基本料金を値上げした一方、通話し放題という画期的なものだった。

しかし、今回のシンプルプランは、改めて”980円のプランを復活させた”ことになる。

カケホーダイで値上げを画策したが、必ずしもすべてのユーザーに受け入れられたわけでなく、安さを求めるユーザーが逃げ出したという反省があったのではないか。

ここで980円を復活させたことには、NTTドコモとしてなんとか「家族丸ごとドコモ」という体制を盤石なものにしたい、という強い思いが感じられる。まさにNTTドコモの新プランは「格安スマホ潰し」といえるものだ。ここ最近、国民生活センターから「こんなはずじゃなかった格安スマホ」といった格安スマホに関するネガティブな情報が流れる中、NTTドコモの新プランは格安スマホにとってさらに逆風といえるものになりそうだ。


石川温:スマホジャーナリスト。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜22時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演。

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