先達は「モーレツ型」 変わる価値観、後進どう育成
女性がひらく
世界において日本は女性登用で後進国だ。日本経済新聞社が今年8月に国内主要500社を調べたところ、全取締役に占める女性の比率はわずか0.98%。1986年の男女雇用機会均等法の施行前に企業社会に入り、役員や幹部に駆け上がった先達たちには「モーレツ型」が多い。仕事とプライベートのバランスを重視する人が増えるなか、女性管理職にも多様な手本が求められそうだ。
徹夜もいとわず
日本オラクル常務執行役員の保々雅世(51)は83年に日本IBMにシステムエンジニア(SE)として入社した。配属先の名古屋支社では女性初のSE。一部の顧客企業から「担当を男性に変えてほしい」との声も出た。「女性は顔を覚えてもらいやすい」と、休日出勤も徹夜もいとわず、がむしゃらに働いた。
大学は法学部で、コンピューターに詳しかったわけではない。だからこそ、顧客とシステムのつなぎ役になろうと努力した。「扉を開けるのは大変だが、期待された仕事をきっちりやればいい」。トヨタ自動車子会社の仕事を1人でやり切るなど、顧客の信頼を勝ち取っていった。マイクロソフトの日本法人などを渡り歩き、役員に登りつめたいま「肩書があれば女性でも会える相手が違う」と痛感する。
住友化学の坂田信以(しのい、54)は4月、理事(役員待遇)に昇格し、農薬の安全性評価などを研究する生物環境科学研究所(大阪市)の所長にも就任した。理事も所長も女性は同社初だ。同社会長の米倉弘昌(74)は「化学業界は女性の活用が進んでこなかった。手本を作らないと後が続かない」と話す。
京都大学農学部を卒業して79年に入社、農薬が土壌に与える影響や土壌微生物を研究する部門に配属された。「十分な予算を与えられ、設備も最新。研究者の血が騒いだ」。以来、脇目もふらずに農薬と土壌の研究に没頭、博士号を取得した。
世界市場で戦う農薬は戦略部門。「与えられた仕事に全力で取り組み、楽しんできただけ」とさらりと話すが、やはり「プライベートより仕事優先」を自認している。
交流組織が発足
均等法施行以降、89年前後のバブル期入社組、その後の就職氷河期世代、学習指導要領の改訂で学習内容が減ったゆとり世代など、女性の働き手も世代を下るごとに仕事の価値観は多様化している。共働き世帯数は97年以降、男性のみが働く片働き世帯を上回る。内閣府調査によると「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」との考え方について79年には男女の7割が賛成したが、2009年は「反対」が55%が占めた。
女性管理職の多様な手本を示す素地はできつつある。10月に特定非営利活動法人(NPO法人)J-Winが発足させた「エグゼクティブ・ネットワーク」は企業の枠を超えて女性役員が交流し、後進を育成する。「こんな管理職なら目指したい」と思ってもらうのが狙い。理事長の内永ゆか子ベルリッツコーポレーション最高経営責任者(CEO)は「ウーマン・トゥ・ザ・トップ」を掛け声に役員室を目指す女性を増やす考えだ。
=敬称略
(鳳山太成)
[日経産業新聞2011年11月29日付の記事を再構成しました]