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ヤスデ猛威 列車遅れ・健康被害も 外来種、根絶策なく

2010年12月14日18時17分

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写真ヤンバルトサカヤスデ=サンケイ化学提供

写真民家の周りに張りめぐらせたアルミ製の「ヤスデ返し」。表面がつるつる滑るので、侵入阻止に効果があるという=鹿児島県南九州市知覧町

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 JR指宿枕崎線で11月、普通列車が車輪の空転によって1時間以上遅れるトラブルが起きた。犯人は、線路に群がった「ヤンバルトサカヤスデ」。海外から侵入したこの虫が今年、異常発生している。生息域は年々広がる一方だが、根絶策は見つかっておらず、住民らの苦労が続いている。

 列車の運行トラブルは11月21日、鹿児島県南九州市頴娃(えい)町のJR指宿枕崎線で起きた。線路の上に群がったヤンバルトサカヤスデが踏みつぶされ、しみ出た油のような体液が車輪をスリップさせたらしい。

■生息域拡大、歯止めなく

 ヤンバルトサカヤスデによる同様のトラブルは、1999年にも同じ頴娃町の指宿枕崎線で起きている。

 ヤンバルトサカヤスデは台湾原産の外来種で、沖縄から日本へ入ったとみられる。県内では徳之島で91年に初めて確認された後、奄美諸島に拡大し、99年に県本土へ上陸した。今年は薩摩半島南部や鹿児島市で大量発生が報告され、11月には県北部でも見つかった。生息域の拡大に歯止めがかからない。

 害虫に詳しい鹿児島大農学部の津田勝男教授(53)は「観葉植物など根つき植物の土に紛れ込んで運ばれてきた可能性が高い。ほぼ人為的侵入によるものだ」と話す。堆肥(たいひ)や建築資材にくっついて各地に飛び火したらしい。侵入が報告された県は、神奈川や埼玉など東日本にも及ぶ。

■火災の引き金にも

 今年は秋に入っても暖かな日が多く、餌となる腐葉土が豊富にあった。これが大量発生につながったのではないかという。農作物への害はないが、おびただしい数で蠢(うごめ)いたり、住居に入り込んだりして、見る人に強い不快感を与える。

 まれに健康への被害もある。体内には毒性のある青酸化合物があり、焼いたり熱湯をかけたりすると外に出る。気化したガスを大量に吸うと、頭痛や下痢、吐き気といった症状に襲われる。

 11月上旬、ヤスデが引き金となった火災も起きた。南九州市知覧町の男性(64)が自宅敷地でヤスデの群れにバーナーを向けたところ、枯れ草を伝って火が燃え移り、倉庫が全焼した。

 男性宅では3年前から、アルミ製の「ヤスデ返し」を40万円かけて塀に張り付け、さらに駆除剤をまいて侵入を阻もうとしてきた。それでも活動シーズンとなれば毎朝、死骸を掃除しなければならないほどやって来る。男性は「ヤスデさえいなければ」とうなだれる。

■増殖に駆除、追いつかず

 南九州市は約2700万円を投じて駆除剤の配布などの対策に取り組むが、増殖に追いついていない。県は、鹿児島市の化学メーカー、サンケイ化学と共同で駆除剤の開発を進めている。同社の竹村薫・研究開発本部長(60)は「絶滅させるのは不可能だ。いかに発生源を壊滅し、増殖させない環境を作るかが大切」と説く。

 これまでの研究で、モロコシ草やドクダミといった植物にヤスデを遠ざける効果のあることがわかってきており、実用化をめざしている。

 竹村さんは、ヤンバルトサカヤスデを「特定外来生物」に指定して国で対策に取り組むよう、県を通じて働きかけてきた。だが、農作物や人体への害がないとされてきたため、なかなか進まなかったという。「生息域は全国に広がりつつある。国が乗り出す時期ではないか」と話す。

 JR九州鹿児島支社では、ヤスデとの闘いが今も続く。担当者は「発生したら駆除剤をまくくらいしか対処しようがない。いたちごっこです」とあきらめ顔だ。(安斎耕一)

    ◇

 〈ヤンバルトサカヤスデ〉 節足動物のヤスデの一種。体長2.5〜3.5センチと日本在来のヤスデより大きく、黄褐色や茶褐色をしている。暗くて湿った場所を好み、おもに腐った葉を食べる。4〜6月と10〜11月の年2回、集団で移動する時期があり、雨上がりの夜によく動く。寿命は1年。10〜11月ごろ交尾し、1回150〜200個の卵を産む。

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