北方四島はわが国固有の領土である。にもかかわらず、最近の安倍晋三首相は「不法占拠」された事実を意図的に封印し、ロシア側に一方的に配慮する。交渉事とはいえ、ロシアの言い分を丸のみして大丈夫なのか。
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毎年2月7日には、北方領土の返還を求める全国大会が催される。今年は、重大な変化が起きた。同大会を主催する官民団体が採択する大会アピールから、なんと「北方四島が不法に占拠されている」という事実を述べた文章が削除されたのである。同大会で最重要の安倍首相のスピーチにも「日本固有の領土」という言葉がなかった。
これは現在進行中の日露平和条約交渉に対する影響を考慮しての決断と推測される。もしそうだとしたら、とんでもない思い違いである。逆効果だろう。それは、ロシア側に向かって誤解を招く誤ったメッセージを送るばかりか、日本側にとっても致命的な外交行為にさえなりかねない。
「戦争結果不動論」
現プーチン政権は、国境線の決定問題に関して「戦争結果不動論」の立場を取っている。すなわち、国家間の国境線は国際法でなく、武力闘争の結果として決まる。現日露間の国境も先の大戦でソ連が北方四島の軍事占拠に成功したことによって決定した。プーチン大統領の忠実な部下、ラブロフ外相は昨年、両国間で平和条約交渉が本格化して以来、口を開くと必ず「もし交渉を進めたいのであれば、日本側は第二次大戦の結果を認めることが何よりの先決事項」と説く。
戦争が国境線を決める。これは、野蛮、危険かつ間違った考えである。国境線を決めるのは、戦闘行為でなく、あくまで国際法であるべきだ。さもないと、際限なく戦争が起こるのを防止し得なくなる。
そのような戦争の「負の連鎖」に終止符を打とうとして、連合国は大戦終結前後に領土不拡大の原則に同意した。「大西洋憲章」「カイロ宣言」「ポツダム宣言」「国連憲章」の条文がそうである。もとより、スターリン下のソ連も、これら全ての条約、協定、申し合わせに同意し、署名した。米国はこの原則を守り、軍事占領した沖縄を日本へ戻した。