「共感を纏った情報」こそが流通する(SIPS論3)

2010年9月27日(月) 9:14:30

先日の「AIDMA → AISAS の次は『SIPS』かな」というエントリーの中の「『共感』がいきなり主役に躍り出てきつつあることも必然の流れだったりする」のところをもうちょっと説明してくれ、というリクエストがあったので以下簡潔に。書き殴りなので細かいツッコミはなしでよろしゅうw


先月だったかの読売新聞の連載にも書いたけど、たとえばおいしいとんかつ屋に行きたくなって、「とんかつ屋 東京」とグーグル検索すると、数万軒のとんかつ屋が出てくる。ありがたい。でも、この中で「自分の好みっぽいとんかつ屋」に出会うのは大変だ。情報はたくさん手に入るようになったが、その中から「信頼できる、自分に合った情報に出会う」のはとても難しくなっている。

食べ物屋については「食べログ」みたいな専門クチコミサイトもあるが、それを見たとしても、匿名投稿ばっかりでレビュアーの経験値もわからず、情報は玉石混淆。「信頼できる情報に短時間で辿り着く」のがとっても大変だったりする。

つまり、検索(そして一般評価サイトなど)は意外と不便なのである。自分が欲しい情報に辿り着くのがわりと大変なのだ。

いや、検索登場以前に比べて世の中は神がかり的に便利になった。それは間違いないし感謝もしている。でもグーグルが出て数年、検索の不便さもだんだんバレてきた。「自分にふさわしい情報」に辿り着くのが難しい。まずそのことが根本にある。

そして、時代の底流には「情報洪水」「成熟市場」という大きな流れがある(←ここらへんの背景については拙著「明日の広告」をご覧下さい)。つまり情報が多すぎ、似たような商品も多すぎ、検索も意外と不便で、信頼できる情報に出会うことが本当に難しくなったのである。

そういう流れの中、「信頼できる、自分にとって有益な情報に『短時間で』辿り着きたい」というニーズが高まってくる。必然の流れだ。

そこにおもむろに登場したのがソーシャルメディアである(ブログを含めて以前からあったけど、ツイッターやフェイスブックでわかりやすく顕在化した)。

で、どうも、検索より「友人がいいと言っている情報」の方が信頼でき、自分にとって有益である、とわかってくる。まぁこれがいわゆる「クチコミの重要度アップ」の源になるわけなのだが、それがツイッターやフェイスブックでより顕在化してきたということ(日本では実感ないかもしれないが、このふたつのツールの世界での普及の物凄さはデータが裏付けている。世界的にこの顕在化の流れは革命的だし止められない)。

このツイッターやフェイスブックのドライブ元が「共感」だ。

たとえばツイッターなら、ヒトは「単なる情報」はRTしない。だからその情報は回ってこないし広まらない。でも「共感できる情報」についてはみんなRTする。そして自分のフォロワー(知人や友人が含まれる)にその情報を回す。つまり「共感できる情報」しか広くは流通しない。

逆に考えると、ツイッターでRTされて回ってくるのは、自分がフォローしている人たちが共感した「自分にとって有益度が高い情報」ということになる。フェイスブックの場合は「いいね!」ボタン。

つまり、ソーシャルメディア上では、情報は「共感」を纏(まと)わないと広くは流通せず、「共感を纏った情報」は友人・知人の間で共有されやすい。そしてその情報は、友人・知人のフィルターを通っている分、「信頼できる、自分にとって有益な情報」である確率が非常に高い。この情報洪水の中、そういう情報に出会えるのは貴重だ。それを短時間で手に入れられるのも「共感をベースにしたソーシャルメディアならでは」なのである。

こうして「共感」がいきなり主役に躍り出てきた、という感じ。ちょっと論を端折ったけど、だいたいこんな感じだと考えている。


ついでにもう少し。

「有益な情報がRTなどで勝手に回ってくる」ということは「ネットを能動から受動に変える」。自分から情報を取りに行かなくても、モニター前にいれば勝手に流れてくるからね。

で、自分にとって有益な情報が「受動で」「スピーディーに」手に入るソーシャルメディアは、当然マスメディアより便利になる。いままでマスメディアで最初に触れていた情報もソーシャルメディアで用が足るようになる。つまり、情報に出会う順番が「マスメディア → ソーシャルメディア」から「ソーシャルメディア → マスメディア」に変わっていく。

そうなると、マスメディアでの Attention を元にコミュニケーションを作ってきた広告はどうなるか。ソーシャルメディアで先に情報に出会い出すと、「共感」の方が大切だし、それはコミュニケーションのド頭にくるのではないか。。。

みたいな考察がこの前の記事の背景になっているわけっすね。


なお、フェイスブックもツイッターも実名確率が高い(フェイスブックは実名登録が規約で定められている)。
それも信頼性を高め、結果的に共感性も高めることになる。そういう意味で、まだまだ匿名が基本の日本のネット社会の場合、この図式が広まるのは時間がかかる。しかも日本は他国に比べてPCソーシャル・ネットワーキング普及率が非常に低いという現実もあり、「SIPSモデル」はもうちょい先のモデルなのだろうとは思っている。

あ、ちなみに、上で言うような「共感」は、Sympathy ではなく Empathy じゃないか、というご指摘をいただいた。そうなると「EIPS」? ちょっと語呂が悪いかなぁ(笑)

佐藤尚之(さとなお)

佐藤尚之

佐藤尚之(さとなお)

コミュニケーション・ディレクター

(株)ツナグ代表。(株)4th代表。
復興庁復興推進参与。一般社団法人「助けあいジャパン」代表理事。
大阪芸術大学客員教授。やってみなはれ佐治敬三賞審査員。
花火師。

1961年東京生まれ。1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブ・ディレクターを経て、コミュニケーション・デザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。2011年に独立し(株)ツナグ設立。

現在は広告コミュニケーションの仕事の他に、「さとなおオープンラボ」や「さとなおリレー塾」「4th(コミュニティ)」などを主宰。講演は年100本ペース。
「スラムダンク一億冊感謝キャンペーン」でのJIAAグランプリなど受賞多数。

本名での著書に「明日の広告」(アスキー新書)、「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「明日のプランニング」(講談社現代新書)。最新刊は「ファンベース」(ちくま新書)。

“さとなお”の名前で「うまひゃひゃさぬきうどん」(コスモの本、光文社文庫)、「胃袋で感じた沖縄」(コスモの本)、「沖縄やぎ地獄」(角川文庫)、「さとなおの自腹で満足」(コスモの本)、「人生ピロピロ」(角川文庫)、「沖縄上手な旅ごはん」(文藝春秋)、「極楽おいしい二泊三日」(文藝春秋)、「ジバラン」(日経BP社)などの著書がある。

東京出身。東京大森在住。横浜(保土ケ谷)、苦楽園・夙川・芦屋などにも住む。
仕事・講演・執筆などのお問い合わせは、satonao310@gmail.com まで。

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