コラム 特集

【特集コラム】親父にフィギュアSNS「fg」をやらせてみた

投稿日:

またまた中の人の実家ネタです。私の実家が秋田県の農家で環境がいろんな意味でヤバイ件は先のコラムで書いたとおりですが、ぶっちゃけインターネット環境もかなりヤバイです。まず…

・光回線使用不可
「利用してはいけない」という意味ではなく地形的な問題で個人では「 利用できない」という意味の「不可」です。また自治体レベルの環境整備も全く行われていません。

・SoftBankの携帯使用不可
これまた地形的な問題でアンテナが全く立ちません。 もちろん3Gも繋がったり切れたりで不安定。というかほぼ切れっぱなし。

・その結果、家ネットはADSL、携帯はDoCoMo or au
今時ADSLって…しかも家のPCのスペックも相まって激遅…

私は携帯電話はSoftBankのiPhone1台のみで、外出時はこれでメールもTwitterもFacbookも全部チェックしているので実家に帰った時点でもう音信不通です。

こんな環境なので当然両親は超・情報弱者。辛うじて仕事上の書類作成、入力などの作業は父がPCで行っていますが、情報取得はテレビ、新聞(と挟まっているチラシ)、雑誌、ラジオの所謂「4大マスメディア」のみ。スマートフォンはおろかガラケーすら使えず、自らインターネット上で情報発信をしたことなど一度もありません。もうどこから手を付けてよいのやら。

そこで、まずPC操作ができる父に照準を合わせ「ソーシャルメディア」を使わせてみる実験を行うことにしました。しかし上記のような状況なので、父はソーシャルメディアという言葉も知らずブログやSNSといったサービスについても「?」な状態です。ここからいきなりFacebookやTwitterをやらせるのは酷というもの。そこでまず父のプロフィールを洗い出し、「特化型SNS」をやらせてみようと思いました。以下は父のスペックです。

年齢:61歳
学歴:中学校卒
職業:農業、自動車整備士
趣味:
バンド(ドラム担当)
音楽鑑賞(主にハードロック、ヘヴィメタル)
ミリタリー(国内外、時代問わず)
ペーパークラフト

実は父は肺癌で余命2年を宣告されている末期癌患者なのですが、どういうわけか入院中にペーパークラフトにどハマりしてしまったらしく、さらに元からあったミリタリー趣味が相まって1日1個ペースで戦闘機のペーパークラフトを作りまくっているとのこと。挙げ句の果てには「リアルな戦闘機を見て作品作りの参考にしたい」という理由だけで車をぶっ飛ばして青森県三沢市の米空軍基地に行ってしまうほど。ちなみに私の実家は秋田県の中でも山形に近い超県南なので、そこから青森県三沢市へ行くとなるとほぼ「秋田縦断」です。

そこで思い付いた!フィギュアSNSの「fg」だ!

http://www.fg-site.net/

「fg」は株式会社エンタースフィアが運営するフィギュアやプラモデルなどの立体作品の写真を投稿・共有するSNS。一応主な対象はフィギュアやプラモデルですが、他にもドールやあみぐるみ、ジオラマ、ドールハウス、さらには「雪像」まで様々な立体作品の写真が投稿されています。当然ペーパークラフトもあり。そこでここに父のアカウントを作成し、これまで作ったペーパークラフトの写真を片っ端から投稿させるようにしました。

1.アカウント登録

もうここから大変。fgへの登録には まずメールアドレスが必要なのですが、父は自分のメールアドレスを覚えていませんでした。一応実家にはADSLでネットが来ているので当然メールアドレスもあるっちゃあるのですが、普段全く使用していないので覚えているはずもなく、まずプロバイダーの「アカウントのお知らせ」の紙を探すところからスタートです。

で、どうにかこうにか見つけ出して仮登録→本登録へ進んだのですが、ここでまたストップ。父曰く

「プロフィールさ何書けばいいべ?」

と。fgのプロフィールは、プロフィール画像貼付け、ニックネーム、HPアドレス、性別、血液型、住所、誕生日、職業、自己紹介(自由記入型)と結構詳細に設定できるようになっています。しかし父にHPアドレスなどあるはずもなく、その他の項目も「そんたごどネットさ書いでいいもんだべが?」と尻込みしています。当然本名での登録なんてもってのほか。普段ネットに接していない田舎の中高年でさえ「本名・個人情報の公開はNG」と思っている日本人の気質は一体どうやって形成されるのだろうか?…とふと考えてしまいました。

そしてやっと設定したプロフィールがこれ

とてもシンプル

2.画像投稿
そしていよいよ作品写真の投稿ですが…

ミリヲタの血が騒いだのか、早速他のユーザーのミリタリー系作品の閲覧を覚えたようです。「この『ミリタリー』ってやづ(タグのこと)クリックすれば一度に見られるなだが?」とうっすらタグの機能も理解したようで、「ほお〜これ良いな!」「すげえなこのジオラマ!」「これシブい汚し塗装だなや!」「やだらカッコ良いでゃ!」ともの凄い勢いで作品を閲覧しています。

で、肝心の作品写真の投稿ですが、そもそも父は作品を作った後に写真を撮るということを全くしておらず、作ったそばから人にあげたり病院のギャラリーに展示したり、地元のショッピングモールに飾ったりと手放していました。そこで家に残っていた作品をとりあえず私が適当にInstagramで撮影し、その画像を投稿することにしたのですが…

父は文章が書けない。他のUGC系SNSと同様、fgにも自由に作品の説明文が書ける機能があるのですが(1000字以内で)、ここで完全に父の手が止まりました。

私:「作品について何でも好ぎなごど書いでいいんだど。製作でこだわった点どがアピールポイントどがよ。」
父:「何たごと書いだらいいべ。さっぱり思い付がね。」

最初はプロフィール設定の時と同様にネットに何かを書くことを遠慮しているのだろうかと思ったのですが、どうやら本気で何を書けばいいのか分からない様子。そこでふと気付きました。これまでの人生の中で自分の意見や主張を書き記し公に発表する機会を与えられなかった人間に、「自由に何でも書いていい」と言ったところでスラスラ書けるわけがないと。いきなり見知らぬ土地に無一文で放り出して「好きな所に行ってもいい」と言うようなものです。

そこで誘導

私:「このF-18作ったどぎ一番大変だったなどごだ?」
父:「ミサイルだな」
私:「ミサイルは設計図さ無がったよな?」
父:「んだ。ホットドックの棒どごカッターで削って作ったなだ」
私:「そういうごど書げ」
父:「あーなるほどな!」

こんな感じでとりあえず最初に4作品を投稿してみました。

3.投稿後

父がPCの前から離れなくなった

どういうわけか一番最初に投稿したメルセデスベンツのクラシックカーのペーパークラフトが人気で、投稿後1日で閲覧数が100件を突破し評価数も上々。またマイリストに入れてくれたユーザーもいました。これには父も心底驚いたようで

父:「これは日本中の人が見でけだってごどだべが?」
私:「fgには海外ユーザーもいるがら、もしかしたら外国人も見だがもしんねえな」
父:「そんたごど昨日まで想像もしねがったでゃ 。このマイリストってなんだべ?」
私:「これが『自分の気に入った作品』だってごどだな」 
父:「どごのどんた人がおらの作品どご評価してけだなだべ?信じらんねえ。」

と、完全にfgにどハマってしまいました。そして閲覧数や評価、マイリスト数が気になりだしたのか各作品のページをリロードし続けるという作業に没頭。

しまいには「リロードするたんびに何十人って単位で閲覧数増えでってら。ってごどはこの瞬間にそれだげたくさんの人がこごどご見でらってごどだな?やっぱりみんな仕事終わった夜に見でるんだな。んだば夜に投稿すればそれだけいっぺえ見でもらえるな。」「どうも戦闘機が人気あるな。戦闘機の閲覧数の増え方が一番早え。」と分析まで始める始末。

そして…

いきなり新作製作開始。

作品があるからfgに投稿しよう

fgに投稿したいから新作を作る

に完全に目的がすり替わっています。こうしたUGC系のSNSは、その存在自体がユーザーの創作意欲の向上及びモチベーションの維持に役立っているんですね。

さらに父「これロシア空軍のsu27って戦闘機なんだけどよ、裏側の資料が無え。裏側分がらねばミサイルどんたふうに付いてるが分がらね。写真や設計図どご上手い具合に調べる方法ねえべが?」と。そこでGoogleの画像検索を教えると…

なんと海外のミリタリー系サイトにアクセスして展開イラストを探してきました。父は英語はおろか一切の外国語ができないというのに。

さらにその後父は

・ 最初から最後まで自力でfgに投稿
・デジカメで自力で作品写真を撮影
・Web上で画像編集用のフリーソフト をダウンロード
・その画像編集ソフトで作品写真のサイズ変更や補正を行う
・屋外撮影

などなど猛烈な勢いで”進化”していき、私が実家に滞在した1週間のうちに計11点もの作品を投稿。その後も継続的にfgにログインしているらしく現在21点の作品を投稿しています。最初こそ作品の説明に何を書いていいかすら思い付かない状態でしたが、現在では稚拙ながらもちゃんと1つ1つに説明文を書くようになりました。それまでSNSのSの字も知らなかった田舎のオッサンがこんな短期間にここまで”進化”するなんて我が親ながらヤバイです。

もしかしたらこうした農村部の中高年にこそソーシャルメディアは必要なのかもしれません。中高年に限らず農村に住む人は「こんなちっぽけな自分に一体何ができるんだろう?」という、ある種の無力感と閉塞感を抱えて生きているようなところがあります。しかしそれもほんのちょっとした「きっかけ」さえあればあっと言う間に変わるのではないでしょうか?fgを使うことにより一気に進化した父のように。ソーシャルメディアは「個人」こそが最強のコンテンツで、且つどこにいてどんな仕事をしていようと世界中の人々と瞬時に繋がることができます。ソーシャルメディアを活用すれば、農村の無力感や閉塞感を吹っ飛ばし新たな才能を掘り起こすこともできるのではないでしょうか?

但しインターネットに不慣れな中高年にいきなりソーシャルメディア云々を説いても「?」でしょう。そこでその人の普段の生活や職業、趣味など身の回りのことに関連した「特化型SNS」をまずオススメするといいかもしれません。例えば主婦にはお料理レシピSNS「クックパッド」を勧めてみるとか。田舎のおばあさんがもっとクックパッドを利用するようになれば、その地域ならではの郷土料理や伝統料理のレシピが増えてクックパッド自体も面白くなるでしょう。

なお、文中で紹介した父のfgのアカウントはこちら

http://www.fg-site.net/members/125345

今は秋で農作業が忙しいので新作投稿は止まっていますが、それを過ぎればまた復活すると思います。宜しければご覧下さい。そして評価、コメント、マイリストなどもお願い致します!(^-^)/

-コラム, 特集
-,

Copyright© vsmedia , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.