子宮頸がんの新ワクチン

子宮頸がんの新ワクチン

子宮頸がんワクチンに対して、「不妊症になる」といった根拠のない
言い掛かりが出ている一方、「ワクチンさえ打てば安心」という誤解も
広がっているように思う。
出来て間もない新しいワクチンの実力を正しく知ることがまずは大事だ。
はっきりしているのは、ワクチンには限界があり、頸がん予防には
検診も受け続けなければいけないこと、そして日本は検診率が
きわだって低いことだ。

2008年のノーベル医学生理学賞を受けたハラルド・ツアハウゼン博士が
子宮頸がんの組織から パピローマウイルスを見つけたのが80年代前半。
ありふれたこのウイルスが何かの拍子で子宮の入り口に居座ると
がんを引き起こすとわかってきた。
ほとんどのがんはウイルスとは無関係だ。
だがウイルスが原因の子宮頸がんなら、抗体を体の中に作って防げるはず。
世界的なワクチン開発競争の中で、製薬大手のグラクソ・スミスクライン社と
メルク社がいち早く製品を市場に出した。
がんができるまでには長い時間がかかる。
だから、ワクチンは「前がん病変」を防ぐかどうかで効果を見た。
臨床試験の結果は、研究者から見れば「すばらしい」ものだった。
ワクチンをうったグループは、追跡できている期間内で見る限り
前がん病変が大幅に少なくなった。

実はパピローマウイルスには多くの型があり、ワクチンはその中の
凶悪な型を中心に標的にする。
言い換えれば、標的以外の型のウイルスには効かない。
そして、凶悪な型を抑えた時別の型がのさばってきはしないか、
といったことは未知の領域で、本当にがんを減らせるかは長期に
わたって追跡調査をしなければ確かめられない。

これまでの予防法は、定期的な検診だった。
英国では、20歳もしくは25歳から3年間隔で受けるよう促され、
80%の女性が受診しているという。
日本はというと、20%程度と低く、とくに20代が低い。
米国の研究によると、ワクチン単独と 検診単独では、頸がんを減らす効果は
検診単独の方が大きい。
だからワクチンを打って検診を受けない人が増えれば、
かえって発症が増えないかと心配されている。

皮肉なことに、検診率が低い日本ではそうした心配は少ない。
だが、日本で子宮頸がんを減らすにはどんな方策がベストなのかは
よく考えるべきだ。 (以下略)


上記の文章は 最近 朝日新聞のオピニオンというページのなかの「記者有論」
というコラムに 科学医療グループ高橋真理子さんという記者が書いたものです。
この短い文章の中に頸がんワクチンの問題点が要領よくまとめられていたので
ご紹介しました。

しかし 子宮頸がんワクチンを 理解するのはとても難しいので 私がこの記事を
さらに細かく解説しますから もう一度お読みいただきたいと思います。

(子宮頸がんワクチンの話は大変込み入っていて 私達素人には判りにくいのですが
高橋真理子さんの記事の直後の11月11日に 同じ朝日新聞の生活欄
「どうしました」に掲載された 自治医大付属さいたま医療センター産婦人科教授・
今野 良さんによる記事と 同じ日に産経新聞に掲載された「子宮頸がん制圧を
めざす専門家会議」議長近畿大学前学長 野田起一郎さんによるインタビュー
記事も参考にしました。)

冒頭に書かれている
「はっきりしているのは、ワクチンには限界があり、」
「頸がん予防には検診も受け続けなければいけないこと、」
「日本は検診率がきわだって低い事だ。」
という三点はとてもだいじなことのようです。
「子宮がんの組織から パピローマウイルスが発見されたのが 80年代前半。
ウイルスが原因の子宮頸がんなら 抗体を体の中に作れば 子宮頸がんの発症を
防げるはず。」
しかしこの文章を注意深く読むと 「ウイルスが原因の子宮頸がんなら」と
但し書きが付いています。
つまり 子宮頸がんの原因は100%ウイルスというわけではないようです。
しかし ここではウイルスによって発症する子宮頸がんにしぼって話を進めます。
パピローマウイルスは100種類以上ありますが ヒト・パピローマウイルス
(HPV)のうちの15種類だけが 子宮頸がんに関係していています。
子宮頸がん予防には、現在世界中で2種類のワクチン接種がおこなわれています。
日本では ヒト・パピローマウイルスの中の特に凶悪な型の2種類
(HPV16・18型)を予防対象とする2価ワクチンが認可されています。
そして 対象ウイルスの範囲を広げた4種類(HPV・6・11・16・18型)
を対象とする4価ワクチンが審査中です。
米国では既に 9価ワクチンの開発に注目が集まっているそうです。
インフルエンザ・ワクチンを打っても 全てのインフルエンザにかからないわけ
ではなく、その特定されたインフルエンザにのみ有効であって、型の違う
インフルエンザには役に立たないということは 最近広くしられるように
なりました。
ウイルスによる子宮頸がんも 同じ理路が適用されます。
2価ワクチンは 15種類のうちの2種類のウイルスを対象にしたワクチン
ですから その他のウイルスによって発症してしまえば このワクチンは
役にたちません。
ですから ワクチン接種をしても安心できないのです。
子宮頸がん予防に検診は欠かせないということを ご理解いただけたでしょうか。

で、最近 この子宮頸がんワクチンの「定期的ワクチン接種」や「公費助成」を
どのように考え 進めていったらいいのかが議論になっているのです。
子宮頸がん予防を理想的に実施するには 頸がん予防検診をしたうえで
頸がんワクチンを接種し、接種後も定期的に検診を続けなければなりません。あ
子宮頸がんワクチン接種後「頸がんワクチンをしたからもう大丈夫」という
間違った判断をしてしまって 検診を怠るようなことになると 予防ワクチンが
かえって 子宮頸がんの発症を増やすことになってしまうのではないかと
心配されています。
子宮頸がんを予防するには 検診をもっと受けやすくする方が
頸がんワクチン接種より先にしなければいけないことなのか、
両方を同時に推進すべきなのか(財政に余裕がないのですから無理ですよね。)
などなど議論しなければいけないことは山積みのようです。

以上が 高橋真理子さん(朝日新聞科学医療グループ)の記事の解説です。
私が読み返してみると 解説がかえって記事の本意を判りにくくしている感が
あります。
読者はどうぞ 正しく高橋真理子さんの記事を理解していただきたいと思います。